第3話
「……夜さん、冬夜さん、朝だから起きなさい」
「あ、あぁ……」
「冬夜さん、どうしたの? 朝から何か考え事?」
「いや……」
母さんに紅蓮のことを相談したいが、親父とも滅多に会うことなく、寂しい思いをしてるというのに、俺のことで心配してほしくない。
そう思ったら俺は普段通りに母さんに接した。
「じゃあ、学校行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい、冬夜さん」
着替えが終わり、朝食を食べた俺は、学校へと向かった。
***
学校に着くと、俺は生徒会室へ向かった。
生徒会室のドアを開けようとすると鍵が閉まっていた。
「紅蓮、まだ来ていないのか?」
校則を守る紅蓮が遅刻なんてことはまずありえない。
だったら、どうしたというのだろうか?
俺は紅蓮が学校に来ているかどうかを確かめるため、下駄箱を確かめた。
紅蓮の下駄箱には靴があり、既に学校へは来ている様子だった。
しかし、生徒会室へは来ていない。
生徒会室の鍵を取りに職員室に居るかもしれないと思った俺は職員室へと向かった。
だが、職員室へ向かう途中で紅蓮らしき声が聞こえたので、俺は足を止めた。
声が聞こえた場所は新聞部の部室だった。
ドアを開け、紅蓮に話しかけようとしたその時……。
「いい加減にしてください」
「会長、すみませんでした」
「ぐれ、ん?」
今まで見たことのないような怒りの表情を浮かべていた。
紅蓮の怒りの矛先は、新聞部の部長だった。
俺が部室に入ったことにも気付かず、紅蓮は言葉を続けた。
「デタラメな記事を書いて、生徒を惑わすのはやめてください。新聞部は暫く活動中止とします。用はこれだけなので失礼しま……冬夜、なんでここに?」
「生徒会室の鍵が閉まってて、お前も居なかったから探してたんだ」
「そう……でも、用は済んだから生徒会室に一緒に行こう。鍵は僕が持ってるから」
「……わかった」
これ以上は聞くなと紅蓮の目が言っていた気がしたので、俺は何も言わず、紅蓮と生徒会室へ向かった。
「今は会長の言うことを聞いておきますよ、今は……ね」
「……」
俺は新聞部がその時に言った言葉も気にも止めていなかった。
新聞部部長の口元は少し笑っている気がした。
紅蓮に怒られた後なのに、なんで笑っているんだ?
紅蓮は新聞部の言葉は耳に入っていない様子だった。
相当怒っていたのだろう。生徒会室に戻り、紅蓮から新聞部に怒っていた理由を聞くと、最近の新聞部は自分たちで楽しむ、いわば自己満足の記事ばかりを書いているという。
野球部がサッカー部の陰口を言っていた、教師と生徒が不純な交際をしているなどというデマな情報を集めては記事にして、生徒会室前にある掲示板に貼っていたという。
元々は事実ばかりを書いていた新聞部で、それなりに人望が厚く、信頼度も高い。
故に最近のようなデマな記事さえ、皆は素直に受け取る。
そのため、こないだは野球部とサッカー部が暴力沙汰になるまでに発展したらしい。
それを見ては楽しむのが新聞部。由緒正しき金持ち学校が聞いて呆れる。
そんなデマな記事ばかりが話題となり、紅蓮が新聞部の活動中止を言い渡したという。
***
新聞部が活動中止になってから、一週間が経った。
七月の期末テストが無事に終わり、夏休みに入った。
夏休みの宿題は紅蓮から「七月中に終わらせること」とメールが来たので、それに従うことにした。紅蓮のことだから、八月も生徒会室に毎日来させるつもりだろうと、俺はやる気のしない夏休みの宿題のプリントを机に広げては、ため息を吐いた。
紅蓮は口は煩いからな……今月中までに宿題を終わらせないと、また例の反省文が待っている。それだけは嫌だと、俺は手を進めた。とはいえ、反省文を出されても、反省文を書くとは言ってない。
***
夏休みに入ってすぐに宿題に取り掛かったおかげで、無事に夏休みの宿題は七月中に終わり、
俺は紅蓮と毎日のように生徒会室で生徒会の仕事をしていた。
確かに親友の紅蓮と一緒に過ごせるのはいい。だが、生徒会業務は、はっきり言って面倒だ。
早く放課後にならねえかなと考えていた。
大体、一日中学校に居るとか、これじゃあ夏休みの意味がないだろ……などと思っていると、紅蓮にドヤされた。
またも反省文か、というと
「そんなにいうなら、お盆までにする」
「……! ありがとな、紅蓮」
俺があまりに小さな子供のようにワガママをいうので、紅蓮がしびれを切らして、俺の意見を聞いてくれた。
それから、俺はお盆までの間、紅蓮と一緒に真面目に生徒会業務をした。
あっという間に、お盆前日になり、俺は明日からの夏休み計画を立てていた。
まぁ、家でダラダラ過ごすのが好きな俺に誰かと遊ぶ予定もないが。
紅蓮は一日中、家で本でも読んでそうなイメージが容易に想像出来る。
「お疲れ様、冬夜」
「ああ、紅蓮もな」
かなり頑張ったせいか、俺も紅蓮も疲れていたようで、互いの家へと真っすぐ帰った。
***
生徒会業務もない俺は夏休みを満喫した。とはいえ、八月中旬。この炎天下の中、外に出るなんてありえなかった。こうして家でダラダラして過ごしているのも、七月中に夏休みの宿題を終わらせたからだろう。そういう意味では、メールで夏休みの課題を七月中に終わらせることとメールしてくれた紅蓮に感謝するべきだな。
それから、あっという間に夏休みは終わりに近づいた。
「夏休みっていうのも早いもんだな」
と、自分の部屋で呟いていると、俺の携帯に一通のメールが来た。
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