僕らはただ一つの愛を誓う
柊
第1話
「 神崎紅 ( かんざきくれない ) 先生の新作、読んだ?」
「読んだ読んだ! 今回は初のファンタジー小説で、すっごくドキドキしちゃった!」
朝の教室、クラスは神崎紅先生の話題で持ちきりだった。
「ねぇ、神崎君と神崎紅先生って名字が一緒だけど、もしかして同一人物だったりする?」
「……そんなわけねぇだろ」
「だ、だよね」
「ごめんね、変なこと聞いちゃって」
俺が教室に入り、鞄を置くと同時にクラスメイトの女子が話しかけてきた。
俺は所謂、ギャル系女子があまり好きじゃない。
だからこそ、冷たい一言と話しかけるなオーラを一気に放つ。
俺の名前は 神崎冬夜 ( かんざきとうや ) 、星ヶ丘高校 に通う高校三年生 。 中学三年から高校二 年までは 、 親父の仕事関係でフランスに留学していた。 黒髪で 、 身長は一般の高校生 の平均より、かなり高く百八十二 センチ。親父も身長が高いせいだろうか? 気がつくと、ここまで伸びていた。
さっきから、この教室の話題となっている神崎紅とは何の関係もない。
神崎紅は俺と同じ高校生でありながら、かなり有名なラノベ作家である。
高校生という以外の情報は謎とされているので、誰もが神崎紅の正体について知りたがっている。なんで俺が神崎紅について、こんなに知っているかって?
それは、俺も神崎紅のファンだから。神崎紅のデビュー作『桜と6つの謎』、あれは普段、読書をしない俺でも続きが気になるほどの作品だった。タイトル通り、ジャンルはミステリーだ。
他にも『眠るアンドロイド』『片翼の天使と優しき死神』など、数々の作品を書いている。
文章だけで性別を判断するのは困難だが、神崎紅の作品はいずれも知性に溢れていると思う。これは、本を読まない俺個人の意見だが。
「おはようございます」
「あ、会長! おはようございます!」
「冬夜、おはよう」
「ああ、紅蓮か。……おはよう」
一時間目開始ギリギリに教室に入ってきたコイツは 如月紅蓮 ( きさらぎぐれん ) 。 星ヶ丘高校の生徒会長で、 俺の中学一年 からの友人。 今では親友と呼べるほどの仲だ。
言い忘れていたが、俺も生徒会に所属している。
ちなみに同級生でさえ、紅蓮のことを「会長」と呼んでいる。それもこれも、何事にも表情を変えない、仏頂面が原因だと俺は思う。
黒髪で、身長は百七十四センチと俺よりも八センチほど低い。紅蓮に身長のことを言うと、「身長の話はしないでほしい」と言われるので、本人も気にしているのだろう。
だが、男の俺からしても、紅蓮はかなりの美形だと思う。実際、女子からの人気は高く、本人である紅蓮には声はかけられないけど、紅蓮のことを好きな奴は数多くいる。
星ヶ丘高校の生徒会は成績が上位の者から、生徒会に所属する権利を与えられるシステムがある。
故に生徒会なんて面倒だと考えている俺でも、中学の頃から学年二位という優秀な成績を修めれば、自然と生徒会役員に入れるわけで……。
本当は辞退したいほど嫌な生徒会だが、生徒会長直々に俺を副会長に推薦したので、親友である紅蓮に恥をかかせるわけにも、頼みを断るわけにもいかず、俺は今年の四月から生徒会副会長として、紅蓮のサポートをしている。
俺や紅蓮が通ってる星ヶ丘高校は、金持ちばかりだけが集う学校で、社長令嬢や御曹司が数多くいる。俺も自慢するわけではないが、それなりに裕福な家庭だ。むしろ金銭的に困っていて、特待生の生徒は、この学校だとほとんど見かけない。
因みに、生徒手帳の一番最初には大きく「恋愛禁止」の文字がある。とはいえ、恋愛をする者が全く居ないわけがない。
高校生という年齢を考えれば、恋愛をしたい時期だ。金持ちが集う故に、ほとんどの者は高校に上がると同時に、親同士が決めた婚約者がいて、同年代と付き合う人は数少ない。
星ヶ丘高校の生徒は、一般受験をする者は少なく、AO入試や所謂コネ入学など、後はその高校付属の大学にストレートに行く者が多い。
その中でも県外の大学に行くのはよっぽど勉強したい奴らだけ。
だから、高校三年の七月上旬でも、お受験モードというものは一切なく、高校最後の夏を楽しんでいた。
まぁ、とはいえ、生徒会副会長になってからも眠い時は授業中にも構わず睡眠はとるし、生徒会の業務が大量にあるときなんかは生徒会室にあるソファーで仮眠をとっている。
そんな学校生活を過ごしているわけだが、やはり紅蓮には、どんな言い訳も許されなかった。
生徒会業務をサボるたびに反省文を出される。が、俺はその反省文も書いたことがなく、積もりに積もった俺の行いにより、そろそろ親友という立場も危ういのでは? と心の奥底で思っていたりもする。
紅蓮が、一時間目開始ギリギリに教室に入ってきたのには理由がある。
それは、昨日から始まった朝の挨拶運動。挨拶運動の期間、生徒会役員は毎朝、校門前にて生徒に挨拶をしなければならない。
今日は、挨拶運動の二日目になる。忘れていたら言い訳も出来るが、俺の性格を知っている紅蓮は、俺が言い訳することも既にお見通し。
それをわかっているので、俺はこうして堂々と朝の挨拶運動をサボっている。
「冬夜、今日は何の日?」
「あー……今日か? 紅蓮、お前が聞いてくるってことは、お前の誕生日か?」
などと、最初はとぼけた言葉を吐く。
「……冬夜」
「うっ」
間を空けて、俺の名前を呼ぶのは、大抵本気で怒っているときで、言い訳をしないで本題に入れという合図だ。
こういう時、親友ってのは何でもわかるから、ある意味、厄介だ。
「今日は、たまたま腹が痛くてな……っていっても、どうせお前にはこういうの聞かねえってわかってるから、本当のこと言うことにするぜ。……悪いな、紅蓮。朝の挨拶運動が面倒だから、サボった」
「……じゃあ、これ」
「あ、ああ……」
スっと、紅蓮のスクール鞄の中から出されたソレは、まぎれもなく反省文だった。
ソレを俺の机に置くと、紅蓮は少し早足で自分の席に着席した。
これはいつもの会話だが、俺はこの関係も嫌いではない。
別に怒られるのが好きだから、わざと生徒会業務をサボっているというわけではない。
なんで急に自分の席に戻ったんだ? と考えていると、一時間目開始のチャイムが鳴ると同時に、教室に入ってくる担任が見えた。
相変わらず、「お前は真面目な奴だな」と紅蓮に言いそうになったが、その返答は「冬夜。それは真面目ではなく、当たり前のこと」などと予想出来たので、心の中で留めながら、俺は机の中から教科書とノートを取り出し、それを枕代わりにしながら、机に顔を伏せた。
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