第4話 信長、死に直面する

時代は戦国時代なのだが、技術力は現代よりも高く、宇宙にも行けるほどだった。

世界の核戦争に巻き込まれ、地球は放射能に包まれてしまった。

各国は、領土を地球から切り離し、ロケットエンジンで打ち上げた。


人類は、宇宙に出たのだ。



宇宙歴史0年。


人類は、宇宙に出ても戦いを続けた。

新型兵器、宇宙鎧侍を開発して、全宇宙の覇権を争うようになってしまった。


人は、滅びなければ、戦うことを止めないのだろうか?



ここは宇宙尾張。宇宙鎧侍生産工場。


「分かったか! サル!」

「若! かしこまりました。」

「これで俺のお見合いも楽しくなるぞ!」


信長は、空け者らしく、お見合いのドッキリをサルと打ち合わせしていた。



ここは正徳寺。信長と斎藤道三の娘の濃姫がお見合いをする場である。


「尾張の空け者とは、どんな男であろうか、心配だな。」


娘の結婚相手が空け者と聞いて、不安な斎藤道三であった。


「父上、これは政略結婚なんですから、濃はお国のために、どんな空け者でも我慢いたします。」


この気丈に振る舞うのが、濃姫である。


「こんちわ!」


そこに信長が元気に現れた。


「俺が尾張の空け者、織田信長です。」


不思議と信長は正装で、ちゃんとした姿をしてきた。


「私が斎藤道三だ。」

「娘の濃です。」


とりあえず挨拶をした斎藤親子。


「空け者と聞いていたが、至って普通の青年に見えるが・・・。」

「そうですね、父上。」


斎藤親子は、普通過ぎて拍子抜けした。


「いえいえ、俺は尾張の空け者。退屈はさせません。サル!」


そう言うと信長はサルに合図を送る。


グイン!


伏兵で正徳寺の周りに隠してあった、尾張の旧式の宇宙鎧侍が30機ほど現れる。


「いつの間に!?」

「キャア!?」


斎藤親子は、宇宙鎧侍の登場に驚いた。


「私が気づかない間に伏兵を仕込むとは・・・やるな、空け者!」


斎藤道三は、信長を只者ではないと感じた。


「お褒め頂きありがとうございます。」


信長は、斎藤道三にお礼を言う。


「しかし、全て旧式の宇宙鎧侍とは残念だ。」

「と言いますと?」

「美濃では旧式の半分は普通の宇宙鎧侍にバージョンアップを済ませているぞ。」

「申し訳ありません。時間が無かったので、宇宙鎧侍の改造はしておりません。」


信長は、正直に言う。


「所詮は、空け者か・・・。」

「父上、私、貧乏でもお国のために我慢します。」


斎藤親子は尾張の技術開発力と資金、それと信長にガッカリする。


「サル!」


信長は、サルに合図を送る。


グイン!


約30体の尾張の旧式の宇宙鎧侍が手に火縄銃を持っている。


「なんだ!? あの武器は!?」

「火縄銃です。」

「火縄銃だと!?」


斎藤道三は驚いた。火縄銃の開発は、堺や薩摩しか成功していないと聞いていた。まさか尾張が開発に成功し、量産までしているとは思わなかった。


「放て!」


信長の合図で、火縄銃を装備した旧式の宇宙鎧侍約30機の部隊は、そこら辺の山に火縄銃の照準を合わせる。


バキューン!


一斉に火縄銃を撃つ込んだ。光エネルギー弾が山に目掛けて飛んでいく。


ドカーン!


約30発の火縄銃の一斉攻撃は、山を砕いた。


「なんという破壊力だ!? すごい!? これが火縄銃なのか!?」


斎藤道三は驚いた。


「尾張って、すごかったのね。」


濃姫も尾張のことを見直した。


「サル!」


信長がサルに合図を送る。


グイン!


すると隠してあった、信長の新型の赤い宇宙鎧侍が木の茂みから出てくる。操縦は、サルがしている。


「見たことの無い宇宙鎧侍だ!? これも尾張が開発したのか!?」

「そうです。」


信長は、斎藤親子に新型の赤い宇宙鎧侍を見せつける。


「すごい! すごいぞ! こんな宇宙鎧侍を見たことがない!」

「お褒め頂きありがとうございます。」


斎藤道三は、尾張の国力に、織田信長という男に感心した。


「父上、濃は安心して、尾張に嫁にいきます。」

「いい嫁ぎ先で良かったのう。」

「はい。」


こうして、濃姫は尾張の空け者の嫁になったのでした。


「我が息子、信長よ。」

「はい、父上。」

「これで美濃と尾張は同盟国だ。困ったことがあれば、なんでも相談せよ。」

「はい、父上。ありがとうございます。」


信長と斎藤道三は同盟・縁組を成立させた。


「父上、さよなら。」


信長と農姫が尾張に帰っていく。


「尾張の空け者は大したものだ。」


斎藤道三は、会うまでは尾張の空け者は、どんな男だろうと心配していた。しかし信長に会い、安心した。空け者にも、本当の空け者と、アホの空け者がいるが、信長は、大きな器量を持った、本物の空け者だった。


「ハハハハハ!」


斎藤道三は、気分よく宇宙美濃に帰って行った。



ここは宇宙三河の岡崎城。


「なに!? 朝比奈元智が尾張に撃たれたと申すか!?」


今川義元のバカ息子、今川氏真は驚いた。


「そんなバカな!? 朝比奈が敗れるとは!?」


今川家でも家臣の筆頭である朝比奈家が敗れたことが信じられないのだ。


「ざまあみろ。クスクス。」


小声で笑っているのが、松平元康である。自分のことを人質だとバカにしてくる、目の上のたん瘤が1つ消えたのがうれしかった。


「朝比奈ごときに、信長が倒せるわけがない。」


元康は、幼き頃の友として、また直近で手合わせをして刀と刀を交えたものとして、朝比奈元智如きが信長に勝てるはずがないことが分かっていた。


「氏真さま、私に出陣の許可を下さい!」

「おお! 元長か!」

「はい、元智の敵を討たせてください!」

「よいぞ! 尾張を滅ぼして、元智の墓前に花を添えようぞ!」

「はは! ありがたき幸せにございます! この命に代えましても、必ずや、尾張を倒して見せます。」


こうして、同じ朝比奈家の朝比奈元長が、朝比奈元智の敵を討つべく出陣する。


「おまえでも、信長には敵わないだろう。私が独立するまでに、信長が今川の武将の数を減らしてくれれば、私も都合がいいというもの。我が友、信長よ。せいぜい私の役に立ってもらおうか!」


松平元康は、友として、敵として、織田信長を応援していた。



ここは宇宙尾張の父、信秀の屋敷。


「父上、ただいま戻りました。」


信長は、濃姫を連れて、父、信秀に挨拶する。


「よくぞ戻った。信長よ。」


信秀も、無事に美濃の斎藤と同盟を結べたことがうれしかった。


「濃でございます。」

「よくぞ参った、濃姫。」

「不束者ではございますが、よろしくお願い致します。」

「こちらこそ、空け者のバカ息子をよろしくお願いします。」


信秀と農姫は、一礼して挨拶を交わす。


「くうう!? まさか信長が、美濃の斎藤道三に認められるとは!?」


信長の母、土田御前は、空け者の信長が斎藤の娘を連れて帰ってくるとは思わなかった。それどころか婚姻が失敗すれば、信長は責任を取らされると思っていた。そうすれば自分が可愛がっている、信長の弟、信行が家督を継げると考えていた。


「母上、心の声が外に漏れておりますぞ。」


母親が大好きなマザコンの弟、信行である。


「信長、良かったね。」

「お市、いつになったら兄上と呼んでくれるのだ?」

「濃姫、兄をよろしくお願いします。」

「はい、分かりました。」

「俺は無視かよ!?」


お市と濃姫の女同士の楽しい会話に信長の入る余地は無かった。


「うう!?」


その時、父、信秀が苦しみ始めた。先の戦で今川に攻められた時、深い傷をおってしまった。


「父上!?」

「あなた!?」


信長、妻の土田御前など、織田の家族は心配する。


「どうやら私は、ここまでのようだ。」

「あなた、何を言ってるの!?」

「美濃との同盟を成立させた功績を認め、家督を信長に継がせる!」


バタっと、信秀は息を引き取った。


「父上!?」

「あなた!?」


信長、土田御前は信秀に駆け寄る。しかし、信秀はもう息をしない。


「クッ!? 信長、あなたの家督相続は・・・。」


土田御前が信長に何かを言おうとした時だった。


「大変です! 今川が攻めてきました!」


今川が再び現れたというのだ。


「なに!?」


驚く信長。


「信長、あなたが家督を継いだのだから、今川を倒して参れ!」

「はは、母上のおっしゃる通り。」


母、土田御前は、弟の信行に家督を継がせたかったので、信長に家督を継がせたくなかった。しかし、皮肉にも天の助けか、今川が攻めてきたのだ。こうして信長は家督を継ぐことも母、土田御前に認められた。


「それでは、失礼します。濃、帰るぞ。」

「はい、あなた。」


信長と濃は、今川と戦うために去って行った。


「母上!? 兄上に家督を継がせて良かったのですか!?」

「信長が討ち死にすれば、あなたに家督は回ってきます。」

「さすが、母上!」

「ホホホホホ!」


バカな母親とマザコン弟だった。お国の大事より、私情を優先させるなど、言語道断である。


「織田家って、空け者ばっかり・・・。」


お市は、その2人を見て呆れていた。



織田信長、本当の戦い。


信長は、いたずら好きであって、好き放題している空け者であった。しかし、家督を継ぎ最高権力を手に入れると、信長の才能を縛るものがなくなり、遠慮することなく、真の姿をさらけ出したと思われる。


織田信長。これだけの才能と野心がありながら、母、土田御前が弟の信行を押していて、父、信秀が板挟みになる。後継者争いで、毒を盛られたり、暗殺されないためには、空け者を演じるしか生きる道はなかったのだろう。


ただし、今までの空け者ぶりが酷かったため、素直に全員が全員、信長に従う訳ではなかった。宇宙尾張は、今川と戦いながら、織田家同士の激しい内乱に突入することになってしまう。



ここは家督を継いだ織田信長の屋敷。宇宙尾張の今川対策本部。


「これより軍議を始める!」


信長の号令で軍議が始まる。


「サル、報告せよ!」

「はい。鳴海城の山口教継、教吉親子が今川に寝返りました。今川の岡部元信の率いる部隊と接触する模様です。」

「なんと!? 信秀さまが亡くなって、すぐだぞ!?」


尾張の重鎮たちも、空け者の信長が家督を継いだので心配になっている。今川の岡部元信は勇猛な武将である。


「どうなさるおつもりですか、殿?」


この当時、信長の家来は、父、信秀に仕えていた。4大家老、林秀貞、平手政秀、内藤勝介、青山信昌。あとは柴田勝家、蜂屋頼隆などが居たとされる。


「俺、自ら打って出る。」

「殿!? 殿になられたのですから、空けな真似はおよしなさい。」

「嫌だ! 俺が先頭に立って、全軍を鼓舞するのだ!」


信長は、家督を継いだばかりで、皆に認めてもらおうとしている様にも見えた。


「誰か! 先陣を務める者はおらんか!」

「はい! 内藤が務めます!」

「蜂屋も先陣を務めます!」

「よく言った! 山口が今川と接触する前に何とかするんだ! 出陣する!」

「おお!」


信長は、先方を内藤、蜂屋に任せ、自らも兵を率いて出陣することを決めた。


「サル、旧式の宇宙鎧侍を普通にするバージョンアップは任せたぞ。」

「はい。利家と一緒にがんばります!」


現在の尾張は、裏切り者や謀叛者を撃つよりも、旧式の宇宙鎧侍を普通の宇宙鎧侍に改造する方が優先であった。火縄銃の量産に成功した尾張の開発技術力なら、宇宙鎧侍の改造も可能であった。


利家とは、前田利家のことである。



ここは、お城戦艦、那古野城のブリッジ。


「お城戦艦、那古野城、発進!」

「はい!」


信長がお城戦艦を発進させる指示を出す。


グイン!


お城戦艦のロケットエンジンに火が灯る。そして一気にロケットエンジンを噴射させる。お城が、那古野城が地面から浮き上がる。


「いざ! お城で宇宙へ!」


そしてお城が、そのまま宇宙空間に飛んでいく。ここに宇宙を飛ぶ、宇宙お城戦艦の那古野城は、謀叛者の山口親子の宇宙お城戦艦の鳴海城を目指した。



ここは宇宙空間。宇宙お城戦艦の鳴海城。


「なに!? 尾張から追撃部隊が出ただと!?」

「父上、私が時間を稼ぎます!」


父、山口教継と息子の教吉の山口親子である。


「なにがなんでも、逃げ切るんだ!? 今川でのバラ色の生活が待っているんだぞ!? こんなところで、討たれてなるものか!?」


山口教継は、信長の父、信秀が死んだばかりなのに、尾張を裏切り駿府の今川義元に寝返り、強い者に巻かれようとしていた。


「父上、ここは私が宇宙鎧侍で打って出て、時間を稼ぎまする!」

「頼んだぞ! 息子よ!」


息子の山口教吉が出陣しようとする。



ここは宇宙お城戦艦、那古野城。


「敵です! 宇宙赤塚に反応あり! 尾張軍の反応なので、謀叛者の山口親子の物だと思います!」


オペレーターが、レーダーの反応を報告する。


「よし! 第1種戦闘配備! パイロットは、出陣用意!」

「おお!」


信長の指示で、尾張の宇宙お城戦艦、那古野城の中は、慌ただしくなってきた。



ここは宇宙お城戦艦、鳴海城。


「山口教吉、いきます!」


山口は、お城から尾張の旧式の宇宙鎧侍を随時、発進させた。その総数は15機。こちらも宇宙赤塚に向けて小型のロケットエンジンを吹かして飛んでいく。



ここは宇宙お城戦艦、那古野城。


「敵、お城戦艦から宇宙鎧侍を発進させた模様です! その数、15機です!」


オペレーターがレーダーの反応を報告する。


「こちらも宇宙鎧侍を発進させろ!」

「御意!」


信長の指示で、宇宙鎧侍のコクピットで待機していた内藤、蜂屋たちが発進しようとする。


「内藤、でるぞ!」

「蜂屋、飛びます!」


宇宙お城戦艦、那古野城から、7機の宇宙鎧侍が出撃した。



ここは宇宙赤塚。尾張同士の旧型の宇宙鎧侍が戦いを始める。


「山口! なぜ裏切った!?」

「裏切った!? 我々は信秀さまにお仕えしていたのだ! 空け者に仕える義理は無い!」

「なんだと!?」


内藤と山口は、刀と刀を交えながら戦闘を繰り広げている。これも空け者が家督を継いだことの悪影響が出ている。内藤、蜂屋も、今まで空け者をしていた信長をどう思うと言われてしまうと反論できない。


「俺たち同郷じゃないか!?」

「そうだ、俺たちだって戦いたくない!?」


他の宇宙鎧侍のパイロットたちは、同じ尾張の者同士なので、積極的に殺し合うということはなく、形だけ戦闘をしているような感じだった。



ここは宇宙お城戦艦、那古野城のブリッジ。


「なぜ、こうも戦果が上がらないんだ!?」


信長はイライラしていた。


それもそのはず、同じ尾張の兵士、顔見知りみたいなものなので、兵士同士も積極的に相手の命を奪おうとする者はいなかった。



パホパホ!


その時だった。お城戦艦、鳴海城からホラ貝の音が鳴る。撤退の合図だった。


「今川のお迎えが来たようだ。さらばだ!」


山口教吉は、合図を聞いて去って行った。鳴海城の他の宇宙鎧侍も撤退していく。


「今川が来てしまったのか。」

「深追いは危険だ、我々も撤退しよう。」

「そうだな。了解した。」


内藤、蜂屋も自軍の撤退を指示した。



ここは宇宙お城戦艦、鳴海城。


「ようこそ、お越しくださいました。」

「これは山口どの。よくぞ、今川に来てくれました。歓迎いたします。」


この男が今川の猛将、岡部元信である。


「駿府の今川義元さまが直にお会いしたいと申しております。」

「義元さまが!?」

「はい、きっとご褒美をたくさん下さるのでしょう。」

「ありがたき幸せでございます!」

「息子さんも、ご一緒にどうぞ。その方が、息子さんの将来が楽しみですよ。」

「そそうですね! 駿府に行ってきます!」


山口教継は、駿府の今川義元に謁見できると聞いて、大喜びした。


「それでは、このお城戦艦、鳴海城は私が最前線でお留守番をしておきますので、私の乗ってきた笠寺城で駿府に向かってください。」

「え!?」

「早く行かないと、義元さまの気持ちが変わってしまいますよ?」

「分かりました! すぐに行きます!」


こうして山口教継は、帰還した息子の教吉と共に、駿府に向けて出発した。



ここは宇宙お城戦艦、那古野城。


「申し訳ございません!」

「責任を取って、切腹いたします!」


戦果を挙げれなかったというより、戦闘にもならなかった。


「気にするな。尾張の者同士で戦うのは、なんとも言えない気分だ。友達同士で殺し合いをするのだから。戦えなくて当然だ。」

「はは、お許しいただき、ありがとうございます。」

「今度こそはお役に立ちます。」


内藤と蜂屋はお咎めなしだった。


「友達同士か・・・。」


幼き頃、友だった竹千代を思いだしていた。今は松平元康として、今川の家臣となって、敵として現れたのだ。


「俺も、友と殺し合うことになるのか・・・。」


信長は、複雑な気分だった。


ドカーン!


その時だった。爆発音と共に、お城戦艦、那古野城が衝撃で揺れた。


「うわあ!? 何事だ!?」

「敵襲です! 今川の宇宙鎧侍が1機!? 1機で特攻してきます。」

「格子窓から鉄砲で応戦させろ!」

「殿、私が出ます!」

「休んでいろ! 俺が出る!」


信長は、ブリッジを後にし、宇宙鎧侍のあるデッキに向かう。



ここは今川の宇宙鎧侍のコクピット。


「あれが尾張の宇宙お城戦艦か!? 元智、敵は取ってやるぞ!」


今川氏真から出撃許可をもらった、朝比奈元長が1機で敵討ちにやって来た。



ここは宇宙お城戦艦、那古野城のデッキ。


グイン!


信長が新型の赤い宇宙鎧侍を起動させる。


「信長、出陣する!」


信長の赤い宇宙鎧侍は背中の小型のロケットエンジンを吹かせて、お城戦艦、那古野城から飛び立っていった。



ここは宇宙空間。お城戦艦、那古野城周辺である。


「出てきたな! 尾張の宇宙鎧侍め! 私は朝比奈元長だ!」


朝比奈元長は、信長の赤い宇宙鎧侍を確認した。


「俺は織田信長! 1機で乗り込んでくるなんて、死ぬ気か!?」


信長も朝比奈元長のオレンジの宇宙鎧侍を確認した。


「今川の名門、朝比奈家。元智が敗れたとあっては、汚名を晴らさない訳にはいかないのでな。死など怖くないわ!」


信長に朝比奈元長の気迫が伝わってくる。


「邪魔する者は、俺が全て斬り捨てる!」


信長も家督を継いだばかりで、負ける訳にはいかない。


「いくぞ! 小童!」

「今川だ! 名門だ! 肩書で勝ち負けが決まる訳じゃないんだよ!」


信長と朝比奈元長は、刀を抜き相手を目掛けて突進する。


カキーン! カキーン! カキーン!


信長と朝比奈元長は、何度も刀をぶつけ合う。


「なんだ!? これが尾張の宇宙鎧侍だというのか!?」


朝比奈元長は、信長の乗る尾張の新型の赤い宇宙鎧侍のパワーに驚いた。


「尾張は、何という宇宙鎧侍を開発したんだ!?」


朝比奈元長は、尾張など弱小国、旧式の宇宙鎧侍しか持っていないと思っていた。それ故に元智が倒されたのも、何かの間違いがあったのだと考えていた。


「元智が敗れたのも分からなくはない・・・か。」


まさか尾張に、自分の乗る今川家のオレンジカラーの武将クラスの宇宙鎧侍よりも性能が上の高性能機を尾張が開発に成功しているとは思わなかったのだ。


「どうした!? やっぱり今川や朝比奈の名前だけか!?」


信長は刀を打ち合いながら、宇宙鎧侍の性能で勝っているので、余裕が生まれる。それが気の緩みがあり、油断を生み出す。


「ほざけ! 小童! 宇宙鎧侍の性能で勝っているからって、私に勝てると思うなよ! 刀の腕前では、私の方が上だ!」

「なに!?」


朝比奈元長は、刀を冗談で構え、力強く信長を攻め立てる。


「どりゃあ! どりゃあ! どりゃあ!」

「くっ!?」


朝比奈元長は、信長の顔を狙うように、怒涛の攻めを繰り広げる。パワーでは勝っているものの、1か所への集中攻撃は、信長を徐々に追い込んでいく。


「この人は・・・強い。元智みたいに今川や朝比奈の名前だけで偉そうにしているんじゃない!? 名前にプライドを持っているんだ!?」


信長は刀を交えながら、朝比奈元長から覚悟のような強い意志を感じる。そして、その元長の意志は、信長の想像を超えることになる。


「どうする!? このままでは・・・んん!?」


信長は、朝比奈元長の攻撃が上段に集中していることに気づく。ふと腹部を見ると、劣勢の信長には、隙だらけに見えた。


「もらった!」


朝比奈元長は、信長が隙を見せたと思い、強心の上段の一撃を打とうとする。


「ここだ!」


信長は、刀を地面と水平にし、朝比奈元長の宇宙鎧侍に突き刺した。


グサッ!


信長の突きの一撃が、朝比奈元長の宇宙鎧侍のボディを貫く。


「ゲホッ!?」


朝比奈元長は、コクピットの爆発の衝撃で負傷し血を全身から流す。


「やった!」


信長は、これで勝ったと気が緩んだ。


ガキューン!


朝比奈元長の宇宙鎧侍が信長の宇宙鎧侍を羽交い絞めにして動けないようにする。


「なに!? 刀が抜けない!?」


信長は、この時になって、初めて名門の意地というものに、恐怖を感じた。


「まさか!?」

「そうだ! 私がなぜ上段ばかりを攻撃していたのか、やっと気づいたか!」

「俺に、わざと腹部に隙があるように見せて、突きを出させるために!? でも、それでは、あなたが・・・。」

「小童! おまえは、名前で戦っている訳ではないと言ったな。私は今川という名前、朝比奈という名前にプライドを持っている。その名前を守るためであれば、命など惜しくはないわ!」


朝比奈元長は、信長の宇宙鎧侍に性能で勝てないと、初めて刀を交えた瞬間に悟った。それならば信長も道連れにしようと、命を捨てる覚悟をしたのだ。


「なんという執念!?」


信長は、朝比奈元長の想いに押される。


「小童、これが戦争というものだ。もし爆発に耐え生きることができたら、朝比奈元長という武将がいたことを覚えていてくれ・・・。」


それ以降、信長の無線に朝比奈元長の声が聞こえてくることはなかった。


「朝比奈? 朝比奈!? 朝比奈元長!!!」


信長が名前を呼ぶ声だけが虚しく響いた。


ドカーン!


その時、朝比奈元長の宇宙鎧侍が爆発し、辺りは爆煙に包まれた。


グイン!


煙の中から、赤い炎のような光が見えてくる。


「こんなところで、死ねるわけないだろう。」


信長は、空け者システムを発動させ、赤いオーラに包まれて、傷だらけではあるが、宇宙鎧侍の爆発に耐えることが出来た。


「朝比奈元長か・・・その名前、覚えておこう。」


信長は、こんなにも武士らしい武将に会ったことは、今までなかった。名前を守るためには、負けることは許されないのだと、朝比奈元長は、命を賭けて教えてくれた。信長の心を戦争という命の削り合いが苦しめる。



ここは三河の松平元康の秘密工場。


「どうだ? 様子は。」

「数値は順調です。あとは目を覚ますだけです。」

「改造人間の実験台みたいで、心が痛む。」

「今回は、人助けですよ。」


松平元康と酒井忠次が会話をしている。


「目覚めると思うか?」

「きっと目覚めるでしょう。父と許嫁の死を目の前で見て、精神が崩壊。ですが、逆に受け取れば敵を討ちたいという、憎しみの想いが、生への執着になっているでしょう。」

「そうか、目覚めても戦いが待っていると。」


松平は、寝ている井伊家の娘、なおを見る。傷だらけの体はきれいになっている。生きるためとはいえ、半分人間、半分ロボットの改造人間にされてしまった。


「・・・。」


果たして、なおに待ち受けている人生は、天国か? 地獄か?



ここは駿府。今川義元の駿府城。


「今川義元さま、山口教継でございます。」

「息子の教吉でございます。」


尾張を裏切った山口親子は、急ぎ足で駿府の今川義元の居城、お城戦艦、駿府城までやってきた。


「・・・。」


今川義元は、無表情で何も語らない。


「尾張への足掛かりができたのも、我々、親子のおかげですぞ! なにか褒美を下さい!」

「お金でも領土でもいいですよ。」


山口親子は、強気に今川義元に尾張を裏切って今川側に寝返った褒美をねだった。


「仕えていた信秀が死んだら恩を忘れ、直ぐに敵に寝返る謀叛者など、私の家臣にはいらない。処分せよ。」


今川義元は、裏切り者を信じなかった。


「わあ!? コラ!? 何をする!?」

「離せ!? 離せ!?」


山口親子は、護衛の兵士に連れていかれ、そのまま処刑された。


「尾張など、京への通過点よ。」


今川義元は、尾張など眼中にはなかった。目指すは京への上洛だけである。


つづく。

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