第18話旅立ち

外国に来て日本人村にどっぷりとはまっていると

語学も上達しないし、日本にいるのとちっとも変わらない。

何のための一人旅だったのかと非常に心が空虚になる。


春になったら旅に出よう。とにかくコペンを出よう。

一人旅でまた再出発だ。辛抱辛抱・・・・・。


少しずつ日が長くなり、とうとう春がやってきた。

ところが、マメタンの顔が最近とみに元気がない。

オサムは心を見透かされたのかなと思いつつ、


「なにかあるの?」

と聞いてみた。そしたらやはり何かあった。

前の彼氏が彼女に会いに来るという。


『なんじゃそれは?すごい奴だなそいつは、

俺なんか負けそう。何とかしなけりゃ、そいつ

無理心中でもやりかねないかも?』


そこでオサムは神の如く厳かに啓示をたれた。


「会ってあげなさい。思い切り諭してあげなさい。

私は一足先にドイツへと下って、デュッセルドルフ

あたりで職を探しておきます。連絡を密にしましょう。


態勢が整えば是非ドイツで一緒に暮らしましょう。

東京からの元彼には絶対に会っておあげなさい。時間

はいくらかかってもいい。我々二人はしばらく離れ離


れになりますが、お互いに努力しましょう。愛があれば、

二人に宿命的な愛があれば、また必ず結ばれるはずです。

誰人も不幸にしてはいけません。是非、ストックホルム

まで行って、昔の彼に会っておあげなさい。正直に素直


に自分の気持ちを伝えなさい。彼も成長しているはずです。

ひょっとしたら、今のあなた以上に成長しているかもしれ

ません。その時はその時です。ともにまだまだ若いのです。


悔いを残すなこの人生!!・・・・・アーメン」


オサムは髪をばっさりと切って再び青タオルと

寝袋バックにコペンを離れた。最近とみに増え

てきた大阪人たちが、オサムを見送ってくれた。


ほんとにどこにいても、普通の話が漫才になる。

大阪人はインターナショナルな不思議人だ。

大阪ヒューマニズムは体得したほうがいい。


デュッセルでは、すぐに仕事は見つかった。

ユースの川向こうケーニッヒアレの中華レストラン

金都きんどだ。ミュンヘンの中華飯店の倍の


大きさでコックは上海人のアミンと広州人のサミー。

その助手がスペイン人のアミーゴとオサム。ウェイター

はイタリア人のチャーリーとドイツ人のウルフガング。


オーナーファミリーは中国人で時々長期滞在の

正体不明な日本人の姐さんが手伝いに来たりしていた。


従業員宿舎は店から数百メートル。ちゃんとした個室で

屋根裏部屋ではあったがバストイレ付であった。古い

ビルの4階だ。住居食事つきで月5万円が手取りの給料


ではあったが、この頃は1ドル360円の固定相場で、

1マルク90円、物価も給料もほぼ日本並みというのが

ドイツの実情だった。人口8000万人国土も日本並み。


しかし水だけは飲めなかった。硬水のため飲み続けると

足元などがむくんでくる。だからドイツでは朝から

ビールを飲むのだろうか?


東京館に「職決まる」と手紙を出したらすぐに返事が来た。

「決心して昔の彼に会ってみることにします」

なるほど、オサムはしばらく手紙は出さないでおこうと決めた。

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