偽りの魂よ やすらかに
牧原のどか
第1話オートマタ
「酷いわ。あなたも私をおいて逝くのね」
マリア・テレーヌは血塗れのクローリーの頬を撫でた。
「マリア……君は……本当に……」
血塗れのクローリーの指が触れるのをマリアは避けなかった。白いマリアの頬に血の汚れがついた。マリアはそれにかまわずクローリーの手を愛しそうにとり、頬を寄せる。
「だって、私は魂がないの。愛したくとも、
ずっと、マリアに触れるのを恐れていた。マリアを汚してしまいそうで──それがこんな形で──クローリーは泣いていた。
「あなたは、泣けるのね。私も涙は流せるのよ。笑うことも、怒ってみせることもできる──だけど、みんな贋物。泣いているんじゃないの涙をこぼしてみせるだけ。そこに感情はないの。だって、私そのものが贋物なの」
「マリ……ア……」
「不老者のあなたなら──永遠にも近く生き続ける一族のあなたなら、悠久にも近いとき、ずっといられると思っていたの。だから、愛するふりなら、いくらでもしてあげたのに。慰めることも、どんな優しい言葉でも、あなたの望むまま、与えてあげられたのに──あなたも、逝ってしまうのね」
金の髪。陶磁器のような白い肌。どこまでも澄んだ青玉の瞳。どこまでも、クローリーが愛したマリア・テレーヌそのものなのに、そこにいるのはクローリーの知らないものだった。
「こういうときは、涙を流してあげるべきかしら。あなたのいない明日からは寂しいわ。いつまでも、あなたのことを忘れない」
マリアの瞳から涙がこぼれた。
「……それも……贋物なんだ……ね……」
「そうよ。私に本物はないの」
クローリーは笑った。
「でも、忘れないのは確かよ。私達に、忘れるということはないの。いつまでも、いつまでも、あなたの望む虚像を演じてあげられたらよかったのに」
そうすべては虚像。優しい笑顔も、慰めの言葉も。なにがあろうとも、味方だといってくれた言葉も。
「全部……嘘だったんだ……」
目覚めれば消えてしまう夢。
クローリーは泣きながら笑っていた。
「それでも……それでも僕は……君を愛して……いたよ……マリア……」
「嬉しいわ、クローリー。愛してあげられたら、よかったのに。あなたが望むのなら、なんでもしてあげたのに」
「それも……嘘なんだね……」
「そうよ。私に
「……さようなら……愛していたよ……マリア……僕も……きっと忘れない」
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