第28話 ロードマップ

 「まずは、1ヶ月間で20㎏の減量が第一目標ね」

 

 由美子の言葉に颯太は目をパチクリとしている。

 「でも由美ちゃん、一気に20㎏なんて身体に負担がかかるんじゃ・・・」

 「そのくらいしなければ、ダイエットなんてできるわけないだしょ!」

 今回の由美子の決意は、どうやら本気であるらしい。


 バナナダイエット、トマトジュースダイエット、ヨガダイエット、こんにゃくゼリーダイエット、サプリメントダイエット、フラダンスダイエットに青汁ダイエット・・・

 過去にも試した様々なダイエット方法は、そのどれもが道なかばにして挫折してきたことを考えると、颯太も迂闊うかつには信じがたい気になるのだった。


 「で、今回はどんなダイエットをするというんだい?」

 颯太の言葉に、由美子はテーブルの上にA3判のカレンダーを広げる。すかさず赤ペンを持つと、何やらそこに書きこんでいく。


 「今日が5月の31日でしょ。だからちょうどキリの良いところで、6月1日から計画を立てようと思っているの」

 なるほど、由美子が持ってきたそれは、まさに6月のカレンダーである。


 「最初の一週間は、一日二食にして好きな炭水化物をらない『炭水化物ダイエット』に挑戦するわ」

 「炭水化物って、白米好きの君がかい?・・・」

 「そうよ、まずは摂取カロリーを制限するの。食事制限で身体に蓄えられるカロリーを減らしながら体重を落としていくのよ。ただ、 この方法はカロリーを減らしながらも身体に入る栄養素は確保する必要があるのよ。颯君もその辺は理解してね」

 「ああ・・・」


 「それから、毎日のジョギングね」

 「ジョギングって、外に出て走るやつかい?・・・」

 「きまっているでしょ! 摂取カロリーを抑えても、消費カロリーを増加させなければ意味が無いのよ」

 「インドア派の君に、それは続かないんじゃ・・・」

 颯太が言い終わらぬうちに、由美子はピンク色のジャージを彼の目の前に取り出した。

 

 「それっ?・・・」

 「うふ、可愛いでしょ! なんでも格好から入んなきゃね」

 どう見てもLLサイズのそれに、颯太は黙ってうなづいた。


 「あと、サプリメントも試してみたいわね。水泳教室にも通おうかしら・・・」

 「そ、そんないっぺんに取り入れなくても・・・」

 カレンダーに、次々と赤ペンで書きこまれる文字に、颯太はゴクリとひとつつばを飲み込んだ。


 「あーっ、どれから試そうかしら、迷っちゃうわ・・・」

 由美子はカレンダーから目を離すと、くうを見詰めるようにとひじをつく。


 「ふう、頭を使いすぎたら急にお腹が空いてきちゃったわ。颯君、焼き肉でも食べに行きましょ!」

 「えっ、だっていまダイエットの計画を・・・」


 「それは明日から。今日までは計画外よ・・・」



【ロードマップ】

一言でいうと、「具体的な達成目標を掲げた上で、目標達成の上でやらねばならないこと、困難なことを列挙し、優先順位を付けた上で達成までの大まかなスケジュールの全体像を、時系列で表現したもの。

プロジェクトマネジメントにおいてのロードマップ(行程表)とは、用いられる思考ツールの一つであり、用途としては次のようなものがあげられる。

・未来予想図の提示  ・合意形成ツール  ・目標管理ツール  ・計画表

等さまざまで、その用途によって内容もまちまちである。

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カタカナ語短編集 鯊太郎 @hazetarou1961

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