老竜が語る昔話
@12-kokoro-24
骨の竜
これは愚かな男と哀れな竜の物語。
一人の男が居た。その男は竜乗りの戦士。誰よりも勇敢で、優しく、愛情深い人間だった。
その男には愛する竜が居た。
竜は男の半身、どんなときも一緒で男を誰より大切に思っていた。美しく、気高く、勇猛な竜。
男と竜はいくつもの戦場で共に戦った。男と竜に敵は居ない。二人でならどんな窮地も乗り越えられた。
そのはずだった。
一瞬の隙、誰も自分たちには敵わない、そう思っていた。
竜の胸を一本の槍が貫いた。
竜は声も上げることなく力尽き、地面に倒れた。
男は竜の背から投げ出されたが、すぐに竜の下に走った。竜の息はもう無い。何が起こったのか理解できなかった。理解したくなかった。
仲間の竜乗り達が駆けつけ戦は収まり男は助かった。だが男が失ったものはあまりに大き過ぎた。
何日も男は竜の亡骸の横を動かず、仲間たちは心配し代わる代わる男の世話を焼いた
それでも男の傷が癒えることは無かった。
ある日、男は竜の亡骸と共に消えてしまった。仲間たちは男を探したが男が見つかることは無かった。
男は荒野に立っていた。かつて竜と過ごした場所に。
「ここに竜を埋葬しよう」そう考えたのだ。だがどうしても決心がつかない。
男にとって竜はこの世でもっとも大切な存在だった。
手放せない。どうしても・・・。
そして男はついに出してはいけない答えを出した。
「竜を蘇らせよう、もう一度、竜と共に生きるために」
男はあらゆる魔法を使い、死者の魂を呼び戻す術を編み出した。そして竜の体には二度と死なぬようにたくさんの回復や再生の魔法を施した。
そして数百年の後
ついにその時は来た。
魔法が完成したのだ。
男は呪文を唱えた。長く複雑で恐ろしい呪文。男の声が辺りに響き渡った。
魔法は成功した。
魂の光が竜の体に入っていく。そして竜は重たそうに目を開いた。
男は喜び、涙を流し竜の名を呼んだ。
竜も男の名前を呼んだ。
男は竜に触れようと手を伸ばしたが、異変が起きた。
竜の皮膚がただれて溶け始めた。
竜は苦痛の叫びをあげた。ドロドロと血と肉が泥のように足元に落ちてくる。だが男の施した魔法の力で溶けた体はその場から再生していく。
そしてまた溶ける。無限に続く苦痛の中に竜は居た。
男は慌てふためき竜の名前を呼び続けた。
だんだん溶ける速度は早くなり、ついに竜は骨と心核のみとなって血の海の中に崩れ落ちた。
男は血まみれのまま泣き崩れた。自分は竜にさらなる苦痛を与えただけだった。
己の無力さと愚かさが嫌になる。竜は生き返らなかった。もう生きていても仕方がない。
男は首に剣をあてた。最初からこうすれば良かった。今行く・・・
その瞬間、竜の心核が輝いた。恐ろしく禍々しい光が辺りを照らした。
男は剣を首にあてたまま動けなくなった。
血の海からゆっくりと骨が宙に持ち上がり竜の形を持つ。眼球があった場所が赤く輝いている。
骨だけとなった竜が狂気の咆哮をあげると周りに黒い霧が集まり竜を包んだ。
竜は生き返らなかった,、だが死ぬことも出来なくなってしまった。
骨の竜は翼を広げた、そこに飛膜はない。が黒い霧が代わりとなり竜を宙へと持ち上げた。
男は自分のしたことの本当の恐ろしさを知った。
竜を止めようとしたが止まるはずもなく竜は空の彼方へと消えていった。
後に竜は男の仲間たちの手によって誰も知らぬ場所に封印されたという。
男は罰を受けた。死ぬことを許されず、竜と共に居ることも叶わない。
「ただ生きること」それが男に課せられた罰であった。男は国を追放され今も世界の何処かを彷徨っている。
竜と男は今も無限の苦痛の中にいた。
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