第12話

 馬に乗れない俺は別にVIPでもないのに王女と一緒に馬車でアーレルスマイアー辺境伯領へ向かった。道中の伯領で二回の宿を取って、三日をかけてアーレルスマイアー辺境伯領に到着した。


 まずはアーレルスマイアー邸へ向かい、この領土の長であるジークハルト・ルイス・シュテファン・アーレルスマイアー辺境伯に挨拶をする。


 邸宅に到着すれば、仕様人に導かれ広間に通される。


「お待ちしておりました。リーゼロッテ王女。それと、騎士団長。……えーと、それと……君は……?」


 広間にいた筋骨隆々な身体つきのいい男は俺たちを迎えるや否や、そう口を開く。やはり案の定、俺のことは存じていないらしく、こちらを見るなりに言葉を詰まらせた。


「彼は私の家庭教師です」と王女が言った。


「家庭教師……。なぜ、家庭教師がここに?」


「家庭教師という名の私の知能顧問です」


「は、はあ……」


「とにかく彼のことは気にしなくて結構。ここにいても何ら差支えない人物と心がけておきなさい」


 ところで、と王女は話を変える。


「連絡はちゃんと届いているわよね?」


「工作員がこちらに向かっているという話ですか?」


「そうです。検問はちゃんと敷いていますね」


「それはもちろんでございます。国境付近にうちの兵を張り巡らせています」


「で、今のところこれといった人物の捕縛には至っていない」


「そうです」


 王女はこちらへ話を振る。


「アスト。どう思う?」


「まあ、普通に考えれば工作員はまだここにやって来ていない。もしくは、ここに潜伏している。どちらにせよ、まだ国境を超えていないと考えるべきだろう」


「どうするべきだと思う?」


「ソリティア帝国と隣接している領地がここしかない以上、工作員は必ずここを通るわけだ。ならば、警戒を怠らず我慢強く検問を続けるべきだろう」


「まあ、そうだな。しかし、海へ逃げる可能性もあるわけだが」とアーレルスマイアー辺境伯が言った。


「船で大陸に渡る……言われてみればそうだな」


 失念していた。ここはそもそも大陸で、大陸ってことは周りが海だ。辺境のここは両脇が海に接する。海から船を出して、ソリティア帝国へ渡ることもできる。


「まあ、心配せずともそちらの方にも人は回している」


「それはどうも」


 工作員の容姿はすでにみんなに知らせてある。怪しい者は片っ端から捕まえて聴取にかけるように伝えてある。


 だから、


「あとはいい報告を待つだけ、かな」

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