第7話

 王族である以上、公務は付き物である。


「今度、闘技場で御前試合が行われます」


 そう言ったのはメイドのノーラだった。


「あなたも一緒に来てもらいますよ」


「なんで?」


「リーゼロッテ様の護衛のためです」


 護衛って……。俺はリーゼロッテ王女の家庭教師である。家庭教師の身で王女の護衛を務めることができるのか?


「あなたは家庭教師であり、騎士でもあるのでしょう? ならば、騎士の仕事もしてください」


「でも、俺が王様から請け負った仕事は家庭教師だぞ」


「リーゼロッテ様も気心の知れたあなたが護衛として近くにいた方がよいでしょう。それに、これは国王陛下の命でもあります」


 なんだよ、それを先に行ってくれ。国王もわざわざノーラを通して俺に伝えなくても直接言ってくれればいいのに。


「国王陛下はあなたと違って大変お忙しい方なのです。一日の大半を外でふらふらしているあなたと違って。国王陛下はあなたに会う機会を得られなかった。なので、私がこうして陛下からの命をあなたに伝えているのです」


 俺のことを暇人とディスるなら、俺にもっと仕事をくれ。


「王族が国民の前に姿を現す行事というのはそう多くはありません。これが意味することが何か、あなたならわかるでしょう。仮にも頭脳の良さを買われてここにいるのですから」


 王族は滅多に国民の前に姿を現すことはない。すべての国民が王のことを快く思っているのなら何の心配もないだろうが、当然、実際は違うわけだ。王族が大衆の前に姿を現すというのは危険なことなのである。過激な輩に襲撃される可能性はいくら護衛を付けたってなくならない。


「護衛の数は多いに越したことはないわけか」


 別に隠密行動が必要な場面でもないから、必要最低限の護衛よりも強固な護衛を求めているようだ。


「それに」とノーラは言う。「あなた、どうせ暇なんでしょう」


 はい、そうです。どうせ暇でございます。

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