第26話
裁判が終わった後のことだった。
デッセル伯たちはうな垂れながらその場を去るなか、俺たちは喜びを分かち合っていた。
「やったよ、アスト! 勝ったよ!」
満面の笑みで俺に抱き着いてくるエレナ。抱き着かないで。照れるから!
頬を赤らめるのは俺だ。
「お、おお。勝ったな」
照れながら、笑みを浮かべる。
勝ったのだ。言い訳しまくって、言いくるめて、もはや自分で何を言っているのかわからなくなったけど、俺はデッセル伯から勝利をもぎ取ったのだ。
いやはや、今さらながら白紙の帳簿を用意させて、デッセル伯を言いくるめる作戦が上手くいってよかった。
策はなかった。しかし、無策は心許ない。だから、何かに使えるかもと思いロス=リオスに用意させた白紙の帳簿。使えるかどうかもわからなかったが、ちゃんと使えた。役に立った。運がいいとはこのことだ。
まあ、何にせよ勝てたのだ。勝てたならばそれでよしとしよう。
「おめでとうございます」
喜び醒めあらぬ俺たちに近づいてきて、そう言ったのは先ほどまで裁判長を務めていたこの国の王女様、リーゼロッテ・メアリ・ユーディット・フォン・ローデンバルトだった。
「この勝利を受け、移民連合の裁判所襲撃の件に関わる事柄はすべて不問にしてあげます」
「ああ、それはどうも」
そう言えば、そうだ。俺たちは裁判所を襲撃している。本来なら罪に問われてもおかしくない。
「そして、マクシミリアン・イグナーツ・フォン・ロス=リオス。あなたには伯爵位及び領土の返還をいたしましょう」
「ありがたき幸せです」
「えーと、それと、アスト・タカミネさんでしたね」
「はい」
「見事な采配と言っておきましょう。あなたは裁判での立ち回り。あなたは優秀なようですね」
「いや、運がよかっただけです」
「謙遜ですか。まあ、いいです。私はあなたのことを父に報告しようと思うのですが、よろしいですか?」
「え? いや、別に。そんなの好きにやってくれればいいんじゃ」
別に誰に俺のことを喋ろうと問題はない。王女の父親ってことはつまり国王様ってことだよな。うん、別に問題ない。
「そうですか。実は現在、我が国は優秀な人材を欲しているんです。なので、あなたのことを父に報告いたします。もし、父のお眼鏡に適ったら、あなたには追って報せが来るでしょう」
えーと、どういうこと? これってつまり……。
「つまり、もしかするとアストは王都で働けるってこと?」とエレナが俺の代わりにそう言った。
「はい、そういうことです」
王女は頷き、そう言った。
驚きで、何も言えないんですけど……。
◆◆◆◆
間もなく。
俺の居候先であるエレナの家に王女が直々にやって来て、こう言った。
「アスト・タカミネさん。あなたを宮廷の職員として登用します。その手腕、国のために大いに揮っていただきたい」
俺はそれを受諾した。
「だが、俺はタダでお前んとこに仕える気はないからな。こちらが提示する条件をいくつか呑んでもらうぞ」
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