第14話
リーゼロッテ・メアリ・ユーディット・フォン・ローデンバルト。
それがこの国の王女様の名前である。
そして、俺の目の前にはその王女様がいる。
しかし、ここは旧ロス=リオス伯領だ。王都とは程遠いこの田舎にどうして王女様がいるのだろう。
「なんで、こんな所に?」
「視察です。ここは最近デッセル伯領になりましたからね。だから、領地経営は上手くいっているのかとか、いろいろと確認しに来たんです」
それより、と彼女は言う。
「こんな所で油を売っている場合ですか。早く逃げた方がいい。確かに、表の騒ぎで裁判所内は手薄になっていますが、ここには私がいる。護衛が何人か戻ってきますよ」
それは確かにそうなのだ。表のアレックスたちがどこまで持ちこたえられるかわからないし、人が戻ってくるのも時間の問題だ。
だが、俺はこの王女の真意がやはり測りかねない。
「何のつもりなんだよ、ほんとに。なんでこんなすんなり帳簿を渡してくれるんだ」
「私が渡すのを拒めば、あなたは強引に私から帳簿を奪うでしょう。そうなる前に渡しただけです」
「なんかの罠にかけるつもりじゃないだろうな」
「どのように思おうとあなたの勝手ですが、何にせよこの場から早く離れた方がいい。何度も言わせないでください」
彼女の言う通りだ。
ジャニスはひたすらに俺の服の袖を引く。
罠だろうと何だろうとここから立ち去らないといけないのは確かなのだ。
「まあ、帳簿を渡してくれたことは感謝する」
言って、俺たちは速やかに保管庫を出て、裏口から裁判所を出る。道中、警備の人は見当たらず、難なく裁判所を出られたことはおそらく僥倖というやつだろう。
そして、俺とジャニスはひっそりと裁判所の表へ行く。
そこではアレックス率いる移民連合と裁判所の警備隊が攻防戦を繰り広げていた。見るに膠着状態だった。
どちらも深くは切り込んでこない。まあ移民連合は本気で戦っているわけではないので、それも当然だ。
俺はアレックスを捜す。
「あ、あそこ」とジャニスが指をさす。そちらを見ればアレックスがいた。あいつ、最前線で剣を振ってやがる。リーダーならば、後方で指揮を執れ。大将がやられでもしたらどうする? 隊は統率がとれなくなるぞ。
俺は近くにいた奴を捕まえて、こう言う。
「アレックスに伝えろ、もう退いていいぞ。帳簿は手に入ったってな」
そして、伝言ゲームの要領で俺の言葉はアレックスへ伝わる。
アレックスが俺とジャニスの姿を確認する。
「撤収!」
アレックスが大声でひと言。すると移民連合の面々は一気に後退を開始する。俺も一緒に後退した。
警備隊は追ってこなかった。裁判所には王女がいる。おそらくその関係で、俺たちに構っている場合ではないのだろう。何よりも優先すべきは王女の身柄というわけか。
追ってこないとはいえどこに誰がいるかはわからない。
俺たちは隠密に慎重に拠点である教会の地下へと戻った。
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