64話 「俺と人形の目覚め」


 「あはは、大我様いい気味ですね」

 

 ヒガンバナが俺に対し鞭を思いっきり振る。

 

 バシンッ。

 

 俺は顔をガードしながら耐えるがその度に腕、肩、足……その他身体の至る箇所を鞭で打たれる。

 

 こうなってくると痛みで動けなくなり遂に膝をついて跪く形になってしまった。

 

 「はぁはぁ、こんな大きな男を私が痛めつけてる……ゾクゾクするわ……あっ! 私ったら何を言ってるの!? 変態じゃないのに、こんな嫌らしい自分に罰を与えないと……」

 

 ヒガンバナがボソボソと一人言を呟き鞭の動きが止まった。

 

 そしてさっきまで俺を打っていた鞭を置き、今度は赤色の短い鞭を服から取り出す。

 

 「はぁはぁ……私は変態じゃない、完璧な人形なんだから」

 

 ヒガンバナは再びボソボソ呟きおもむろに上着とシャツを脱ぎ出し上半身にブラを着けた状態をさらけ出す。

 

 「ええっ! ヒガンバナちゃん何やってんだよ!?」

 

 パシンッ。

 

 「……くっ」

 

 俺の驚きの声を無視してヒガンバナは自分の身体に赤色の鞭を打ち付ける。

 

 パシンッ、パシンッ、パシンッ。

 

 「あんっ……私は変態じゃない! ひぅっ! ……だからお父様ヒガンバナをゆるひてぇ……あああっ!」

 「変態じゃねぇかああぁ!!」

 

 恍惚な表情を浮かべて自分を痛めつけるヒガンバナに思わずツッコミを入れて叫ぶ。

 

 「大我様、そんな変態な姉に見とれてる場合じゃないでしょ! 今がチャンスよ!」

 「大我お兄ちゃん……」

 

 夢見鳥ちゃんに守られながらボタンか叫ぶ。

 

 「ボ、ボタン何言ってんだよ? 俺はエロい光景に見とれて……じゃなくてヒガンバナの恐ろしい行動に怖じ気付いて体が動かなかっただけだ!」

 「言い訳は良いから早く行動しなさい!」

 

 ジト目のボタンと夢見鳥ちゃんに見送られて直ぐ様俺は行動に出る。

 

 「ヒガンバナ、やめるんだぁ!」

 

 隙ができたヒガンバナに飛びかかろうとする。

 

 スルッ。

 

 えっ?

 

 ヒガンバナは軽々と身を回転させて俺を躱すとそのまま勢いにまかせて俺の脇腹に後ろ蹴りを当てる。

 

 「がはっ!」

 

 思った以上のダメージをも受けて俺は仰向けに倒れてしまった。

 

 「ふふふ、大我様油断しましたね、こう見えて私格闘技をやってて強いんですよ、やはり淑女たる者文武両道じゃなくちゃ……あっ、因みにこれはさっきスイカズラを蹴った仕返しなので怒らないでくださいよ?」

 

 なんだよその完璧な設定は……畜生、ダメージを受けすぎた。

 

 ヒガンバナが痛みで動けない俺に近づきむんずと耳を掴みひこずろうする。俺はたまらず倒れた状態で足をジタバタさせてヒガンバナの誘導に従う。

 

 「た、大我ぁ……」

 

 俺はスイカズラに壁に抑えつけられる胡蝶の前まで連れて来られた。

 

 「胡蝶ちゃん貴方はお父様の特別なんかじゃないわ……昔は扱い安い臆病な末の妹だったくせにこの家に帰って来るなりお父様に取り入って……許せないわ」

 

 ヒガンバナは胡蝶にそう言うと痛みで寝転ぶ俺の腹の上に跨った。

 

 「だから苦しめてやるわ……そこで抑えつけられながら目の前で貴方の大切な人が壊されるのを見てなさい」

 「おい、壊すって俺をどうするつもりだ! ぶっ」

 「大我様黙って」 

 

 ニコッ。

 

 「……」

 

 ヒガンバナに笑顔で顔を殴られて俺は鼻血を出してしまうと同時に恐怖で体が抵抗する意志を無くしてしまった。

 

 畜生、情けねえ……これでも元自衛官かよ。

 

 「大我様、上着を脱いで」

 「……嫌だ」

 

 バシンッ。

 

 「わっ、分かった」

 

 鞭で威嚇されたので慌てて言うことを聞く。

 

 俺はもうヒガンバナの言いなりだ。

 

 ……。

 

 ヒガンバナに俺の上半身の裸をさらけ出す。

 

 あぁ、俺はここで死ぬんだ……ヒガンバナ達は俺をバラバラにして殺すつもりだ、きっとどこかからナイフを取り出して先ずは心臓を刺して殺すつもりなんだ。

 

 「ああああっ! やめろぉ、やめてくれぇ! 大我を殺さないでくれ、お願いだ、お願いだからぁ、大我、大我、大我ぁ!!」

 「ふふふ、いい気味」

 

 胡蝶が何度も俺の名前を呼びながら泣き叫ぶがスイカズラちゃんはニヤけながら胡蝶を抑えつける。

 

 俺は目をぎゅっと閉じて今から胸に来るであろう痛みと言う名の衝撃を今か今かと待ち構える。

 

 「来るなら早く来いっ、この変態人形供!」

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 「ううっ!?」

 

 衝撃は胸に来た。

 

 「うわああああっ!!!」

 

 なんとヒガンバナが俺の胸を噛んで舐めてくる。未知の刺激に俺は雄叫びを上げた

 

 「ふふふ、大我様、レロ、このまま私に壊されてください……カプっ!」

 

 今度は首を噛みつかれた。

 

 「うわああああ!」

 

 俺は痛みと未知の快感に混乱して叫ぶしかできなかった。

 

 ___

 

 「え、大……我?」

 

 大我は生きている、だが目の前で見たくない光景が見える。

 

 好きな人が別の女に身体を刺激されて悶ている。

 

 私は絶望した。

 

 「はぁはぁ……もう、ヒガンバナお姉様ったら予定と全然違う……うっ、くっ」

 

 私を棒で抑えつけているスイカズラが目の前で息を切らせながら内ももを擦りつけている。

 

 気持ち悪い。

 

 「うわあああっ大我ぁ!!」

 

 私は泣き叫ぶしかできなかった。

 

 夢見鳥とボタンは恐怖で震えて、バラは気絶したままだ。

 

 誰でもいい早くこの地獄から開放してくれ。

 

 「胡蝶、胡蝶! 助けてくれぇ!!」

 

 大我が私に助けを求める。

 

 「ふふふ、大我様ったらもう大人なのに私みたいな小娘に責められてしかも同じ小娘の胡蝶ちゃんに助けを求めるなんて……ほんっとだらしないわね! はぁ、カプッ!!」

 「うわぁああ! やめてくれぇっ!」

 

 ヒガンバナは大我の身体のあちこちを思いっきり噛んでは舐めているようで大我はそれを必死になって耐えている。

 

 私はそれを見てないはずの心臓が高まるのを感じた。

 

 「ふふふ、大我様そんなに耐えていては苦しいですよ?」

 「はぁはぁ、うるせえまだ俺は耐えれるぞ」

 「ふーん、ガルルルル……カブッ、カブッ! レロレロ」

 「うわあああ! なんだよてめぇ、こんなの……こんなのふざけんじゃねえよ!」

 「…………大我様、『目覚めて』もいいんですよ?」

 「『目覚める』? いったい何にだよ……はぁはぁ」

 「……私の『奴隷』です」

 

 『奴隷』だと!?

 

 私は大我とヒガンバナの会話を聞いて居ても立ってもいられなくなった。

 

 「てめぇヒガンバナふざけんじゃねぇ!」

 

 暴れるがすぐにスイカズラが抑える。その後も大我とヒガンバナの会話は続く。

 

 「大我様、私の奴隷になれば楽になりますよ?」

 「……楽に?」

 「そうです、奴隷になってくれればもっと気持ちのいい快楽をあげますその代わり私達の言うことを聞いてください……カプっ、レロ」

 「うっ……何でそんなことを?」

 「私達姉妹が古家家の跡継ぎになるために大我様の協力が必要だからです」

 「どういうことだ?」

 「現在古家家の跡継ぎは心春お姉様です、ですが心春お姉様がだらしなければお父様は見限って私達に家督を継がせようとするはずです」

 

 姉貴達はどうやら古家家の跡継ぎになりたいようだ。

 

 「ヒガンバナお姉様は頭が良いわ、心春お姉様は大我様に惚れてるからそれを利用してたらしこませて男にだらしなくさせるつもりなんだわ」

 

 スイカズラが私に自慢そうに説明する。事実ヒガンバナは大我にそのように話を持ちかけていた。

 

 大我は、誰がそんな最低なことをするか、と言ってヒガンバナを拒んだが再び噛みつかれて快楽を与えられる。

 

 「大我様、頑張るわね……でももうすぐ終わるわね」

 「なん……だと?」

 「見てみなさい、あの大我様の姿を」

 

 スイカズラに言われて大我を見る。

 

 「はぁはぁ……胡蝶……心春さん……俺、もう」

 「あはは、大我様ついに目覚めるのね、良いわ自分の口から奴隷の宣言をして!」

 

 そう言ってヒガンバナは止めとばかりに大我の首に噛み付いた。その瞬間私の中の何かが『目覚め』た。

 

 「大我を目覚めさせるなぁ(奴隷に)!!」 

 

 私の首を抑えつける棒を掴んでさらに壁に足を当てて力を込めて押し出そうとする。

 

 「くっ……胡蝶ちゃんどこにそんな力が……えっ?」

 

 スイカズラが私を見ると呆けた顔になる。

 

 その瞬間隙ができたので私は一気に押し返しそのまま棒を両手で掴みスイカズラごと地面に素早く背負い投げの要領で叩きつける。

 

 スイカズラはあまりの速さと地面に背中を打ち付けた衝撃で声も出せずに失神してしまう。

 

 「スイカズラ!? ひっ、胡蝶あなたそれはいったい!?」

 

 ヒガンバナが異常に気がつくがもう遅い。

 

 私は大我に跨がるヒガンバナの前に来ると大きく腕を振りかぶりヒガンバナの顔を横に殴った。

 

 「きゃああああ!!」

 

 ヒガンバナは頭部を殴られた衝撃で回転させながら横に吹き飛ばされた。

 

 ___

 

 「えっ、何が起きたんだ?」

 

 俺が目を瞑ってヒガンバナの誘惑に負けないようにしていると急に腹の上が軽くなった。

 

 そして目を開けると天井に白のパンツが見えた。

 

 「うわっ、早く起きなきゃ」

 

 俺は急いで起き上がるがそのまま誤ってパンツに顔を突っ込んでしまった。

 

 「きやっ……ちょ、大我てめぇ!」

 

 胡蝶は着物の裾を抑えながら俺の腹を踏みつける。

 

 俺が悶ていると胡蝶は正座をして膝枕をしてくれた。

 

 「大我よく耐えたな、もう大丈夫だ」

 

 「胡蝶……うわああぁ!」

 

 慈愛に満ちた目で胡蝶がそう言ってくれるので俺は思わずうるっときて泣いて胡蝶に抱きついた。

 

 いい年した大人が泣きつくのはみっともないとおもったが今は、そんなこと関係なくそうしたかった。

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