63話 「人形のサスペンス」


 ガマズミちゃん達に教えてもらって俺は古家家の庭にある土蔵までやって来た。

 

 何で胡蝶はこんな所に来たんだ?

 

 疑問を抱きつつ土蔵の中に入ろうとして扉に手を掛ける。

 

 ……鍵が閉まっている。

 

 ドンドンドンッ

  

 「おい、胡蝶いるのか? 居たら返事をしてくれ!」

 

 鍵が閉まっていたのでこんなところにいるわけないと思いつつも扉を叩き胡蝶を呼び掛ける。

 

 「大我!」

 

 ……居た。

 

 胡蝶が扉越しに俺の呼び掛けに答えてきた。

 

 「おい何でこんな所に居るんだよ? 早く出てこい、一緒にボタンを探すぞ」

 「大我、ボタンならここに一緒にいる、それと夢見鳥とバラも一緒だ」

 「え、みんな一緒なのか?」

 「そうだ、あと私達は今閉じ込められてるんだ!」

 「ええっ! それはまた何で?」

 「それは……」

 

 胡蝶が何か言おうとしたときだ。

 

 「大我様」

 

 誰かが俺の名前を呼ぶ。

 

 「ん、誰だ? …………ええっ!」

 

 俺は後ろを振り向き相手を見て驚いた。

 

 「おい、どうした大我……誰かそこにいるのか!?」  

 

 胡蝶が扉を叩いて必死に叫んでいる。

 

 「ヒガンバナちゃんとスイカズラちゃん? いったいどうしてそんな格好を……?」

 

 俺を呼んだのはヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんだった。しかしいつもと様子が違う。

 

 二人はいつも着ている着物ではなくOD色の作業服を着ている、さらに髪型も密編みのおさげを下ろし作業帽子の中に纏めている。分かりやすく言うと昔の自衛官みたいな格好だ。

 

 ……懐かしい、昔見た写真の親父もそんな格好をしていた。

 

 「大我様、私達の格好は気にしないでください」 

 「ちょっとこれから『汚れ仕事』をするので着物が汚れないようにこの格好にしただけですから」

 

 二人は何事もないかのように言う。

 

 へぇ、そうなんだ……ってか今は胡蝶と行方不明だったボタンが閉じ込められて助けが必要なのに汚れ仕事ってなんだよ……今することか?

 

 「おい大我、どうしたんだ!」

 「まぁ、胡蝶ちゃん!? 何でそんな所にいるの?」

 

 ヒガンバナちゃんが胡蝶の声に反応気づいて手で口を覆い隠しながら驚く。

 

 「それが、胡蝶達がこの中に閉じ込められて出られないんだ、ヒガンバナちゃんはここの鍵を持ってない?」 

 「それでしたら大我様、ちょうど私達もここに道具を取りにきた所だったんで鍵を持ってますよ」  

 

 ヒガンバナちゃんは扉の鍵を開ける。

 

 俺は急いで中に入る。

 

 「大我!」

 「大我お兄ちゃん」

 「……大我様」

 

 胡蝶と夢見鳥ちゃんがボタンを抱っこして寄り添っている。さらに傍ではバラが倒れている。

 

 「みんな大丈夫か? ……えっ、どうしたんだよボタン、その体は!?」

 「嫌、大我様見ないで……」

 

 ボタンの体は両手両足が取れていた。さらに片方の目も取れていて体はボロボロだ。

 

 「酷すぎる、誰がこんなことを……許せねぇ」

 

 俺はこの状況を見て今までに感じたことのないほどの怒りを感じる。

 

 「大我危ない!」

 「後ろよ、大我様!」

 

 胡蝶とボタンが同時に叫ぶ。

 

 俺はすぐに声に反応して後に振り返る。するとスイカズラちゃんが土蔵の入り口にあった棒を掴みそれを俺に目掛けて振り下ろしてきた。

 

 「……ふんっ!」

 「きゃぁ!」

 

 俺は一瞬自衛隊で『訓練』したことを思い出すと直ぐ様体が反応してスイカズラちゃんの胴体に後ろ蹴りをくらわした。

 

 「…………はっ、ごめんスイカズラちゃん! ヤバイヤバイヤバイどうしよう、死んでないよね?」

 

 俺は自分が襲われたことよりも人形とはいえ女の子を蹴ってしまったことに罪悪感を感じた。

 

 「大我様やりますね……でもこれはどうですか? ふんっ!」

 

 ヒガンバナちゃんが服の後ろから鞭を取りだし俺の肩に目掛けて打ってきた。

 

 バシンッ。

 

 「いっってえぇっ!!」

 

 体に尋常じゃない痛みを感じ思わずうずくまる。

 

 「うふふ、さすがの大我様もこれで抵抗できないですね…………ほらスイカズラ早く立って」

 「くっ……はい、ヒガンバナお姉様」

 

 まだダメージが回復してないスイカズラちゃんをヒガンバナちゃんが立ち上がらせる。

 

 なんて鬼畜なんだ!

 

 「お姉様、貴女達は異常よ、この悪魔!」

 「まぁ、ボタンちゃんったら実の姉に向かってそんなことを言うなんて酷いわ……えいっ」

 「きゃあ!」

 

 ヒガンバナちゃんがボタンちゃん目掛けて鞭を打つ。

 

 バシンッ。

 

 「あああああああっ!!」

 「夢見鳥!」

 

 夢見鳥ちゃんが咄嗟にボタンちゃんを抱き締めて後ろを振り向き背中で鞭を受けてかばう。

 

 「てめぇ、やめろ!」 

 「……胡蝶ちゃん、甘いわ」

 

 胡蝶がヒガンバナちゃんに殴りかかろうとするとスイカズラちゃんが反応して持っていた棒を横にした状態でそのまま胡蝶に突っ込む。

 

 「ぐっ、がはっ」

 

 胡蝶はそのまま壁に押しやられて最後に棒で首を押さえつけられて身動きを取れなくされた。

 

 俺達はヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんに無力化去れた。

 

 「さぁ、邪魔者がいなくなったんでまずは大我様から死んでください」

 

 バシンッ。

 

 「ちょっ、痛っ! 何でだよ!」

 「それはですね、ボタンを痛めつけてバラバラにしたのは私達だからです、それがお父様にバレるとまずいからです」

 「それと本当は胡蝶ちゃん達もバラバラにして埋めようと思ってたんですけど大我様ったらここに来ちゃったんですもの、だから殺して一緒にバラバラバラにして埋めないと」

 「ええっ! マジかよ」  

 

 俺の質問にヒガンバナちゃん達は平然と答える。

 

 そういうことだったのか、こいつら証拠隠滅の為にわざわざ着替えたんだ……畜生、何が汚れ仕事だ。

 

 「あ、そうだ……大我様妙なマネはしないでください、じゃないと胡蝶ちゃんの首をへし折りますから」

 

 ヒガンバナちゃんの言葉に反応してスイカズラちゃんが棒に力をこめる。すると胡蝶の首からミシミシと嫌な音がした。

 

 「ぐ、あ……た、い、が、……」


 胡蝶は苦しそうに顔を歪め俺の名前を呼ぶ。

 

 終わった……人質をとられたらもうどうしようもない。

 

 「あはははは、大我様それじゃあ大人しく死んでくださいね?」

 

 ヒガンバナちゃんは嬉しそうに鞭を振るった。

 

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