46話 「娘さんを俺にください!!


 夕食もひと段落して古家さんとビールを飲みながら話した。そして俺の胡蝶がどうやら性格等が古家さんが造ったときと違っていると言う話になった。

 

 「……おかしい僕は彼女をそんな風に造っていない、久我君ちょっと胡蝶を調べさせてもらってもいいかい?」

 

 胡蝶の制作者であり父親でもある古家さんは真剣な表情で言う。

 

 いったい胡蝶のどこがおかしいんだ?

 

 俺は不安に思った。

 

 あ、けどよく考えたら人形が自分で動くこと事態おかしいよな。

 

 すぐに冷静になって考えるが古家さんに対してそんな野暮なツッコミはしないことにした。

 

 「古家さん、調べるのは胡蝶が良いって言ったら俺は構いませんがどうやって調べるんですか?」

 「それはだね、一度胡蝶を分解して体に異常がないか確かめるんだよ」

 「……分解、ですか?」

 

 古家さんは分解することに何とも思ってないようだ。

 

 「古家さん、実は胡蝶は自分の体を分解されることを非常に恐れてるんですよ、だからそれだけはやめてくれませんか?」

 「そうなのかい? じゃあやめておこうか……あ、勘違いしないでくれよ久我君、僕は別に女性をバラバラにするような猟奇的な趣味を持ってる訳じゃないからね」

 「は、はいわかってます」

 

 俺と古家さんはお互いに苦笑いした。

 

 「古家さん、他の人形の子達は分解されるのを怖がらないんですか?」

 「うん、そうだね今日みたいにお風呂に入った後はいつも分解して水気を取って上げてるんだけど別に彼女達は平気みたいだね」

 「そうなんですか、けど一人一人ちゃんと手入れしてあげるのは大変そうですね」

 「そうなんだよ……けど彼女達をちゃんと手入れして上げないと大変なことになるからね、今夜は中々寝れそうにない」

 

 古家さんは大きく溜め息を着いて机にあるビールを飲んだ。

 

 「古家さん、俺は胡蝶を自分で手入れします、だから人形の手入れの仕方を教えてくれませんか? できれば分解せずにしたいんですけど」

 「ああ、構わないよ、それに分解した方が手っ取り早いからするのであって一応他にも方法があるからそれを教えるよ」

 

 本来の目的は胡蝶の父親に会うことと人形の手入れの仕方を教えてもらう為にきた。どうやらその目的を達成できそうだ。

 

 「ありがとうございます、それより古家さん、他に胡蝶を調べる方法はあるんですか?」

 

 正直あったところで胡蝶に異常がなくてほしいが。

  

 「あるよ久我君」

 

 ……あるのか。

 

 古家さんは当たり前のように言って話を続けた。

  

 「方法と言っても難しいことをやる訳じゃない、『印』を確認するだけだよ」

 

 「『印』……ですか?」

 

 印ってなんだろう、よく製品の裏にあるMADE IN JAPAN みたいな刻印のことだろうか

 

 俺は古家さんに話の続きを促す。

 

 「久我君、説明すると僕は彼女達を造るときに魔法である細工をしたんだ、それがさっき言った『印』になるんだけどね因みにこの印にはかなり凝っていてね、我が古家家の家紋である蝶々を象ったんだ」

 「そうなんですか、でも俺が胡蝶の裸を見たときはそんな印みたいなのはどこにもなかったですよ?」

 「おい若造、今僕の娘の裸を見たとか言ったか?」

 

 古家さんは急に怒った顔になった。

 

 ヤバっ、俺は彼女の父親の前で何を言ってるんだ! ……このままじゃこの町のどこかに埋められる。

 

 「ふ、古家さん勘違いしないでください! ホラ、あれですよ、胡蝶が家に届いたとき服がシワになるからって理由で裸の状態で届いたじゃないですか、その時見たんですよ」

 

 俺は早口で一気に言う。古家さんはそれを聞いてすぐに元の優しい顔に戻った。

 

 「いやぁ、そうだったすまないね久我君、僕はどうも娘のことになると頭に血が上がってしまうようだ、ところで胡蝶とお風呂に入ったのかい?」

 「もちろん入りましたよ! ……あ」

 「貴様ぁ!! やっぱり娘の裸を見たなぁ!」

 

 古家さんが俺の襟をつかんで揺らす。その際古家さんから強くお酒の匂いがした。よく見ると顔が紅く相当酔っているようだ。

 

 「ちょ、古家さん落ち着いて!」

 

 俺は古家さんの手を押さえる。

 

 「これが落ち着いてられるかぁ! 娘がどこの誰とも知れんやつに裸を見られるんだぞ!」

 

 俺は古家さんの言葉を聞いて少しムッとした。

 

 「なんなんですか!? 胡蝶はラブドールでしょ! だったらいづれ裸くらい見られますよ、古家さんはそれを承知で俺に胡蝶を販売したんじゃないですか!?」

 

 俺は言った瞬間しまったと思った。

 

 俺はなんてクズな発言をしてしまったんだ。

 

 古家さんは俺から手を離すとそのまま机に突っ伏して泣き出してしまった。

 

 「ううう、……久我君、君のいう通りだ僕はもう何も言い返すことができない」

 

 ……古家さん。

 

 「すみません、俺は怒りに任せて最低なことを言ってしまいました」

 「……ううっ」

 「けどこれだけは言わせてください……俺は胡蝶が人形でも大切にして一生可愛がります!」

 「ぐすっ……久我君、本当だね?」

 

 古家さんは机から顔を上げた。その際古家さんの顔は涙でグチャグチャだった。

 

 俺は覚悟を決めた。

 

 「古家さん……いえお義父さん、娘さんを俺にください!」

 

 言っちゃったー! あぁ、まさか俺の人生で人形をお嫁に貰うとはおもわなかったなぁ。

 

 「久我君……僕をお義父さんと呼ぶんじゃない」

 

 ん?

 

 「君に娘はやらーん!!」

 

 古家さんは堂々と腕を組んで言う。

 

 「ええええっ! なんでですか?」

 

 俺はてっきり古家さんから許しが貰えると思っていた。

 

 「なんでだって? 教えてあげるよ久我君……君はフリーターじゃないか、だから娘はやらない!」 

 

 う、確かに……せめて定職についていれば、けど古家さんの性格からするとなぁ……。

 

 「古家さん反対する本当の理由は?」

 「久我君が娘とイチャイチャするのが許せない……あ」

 「てめぇ、このジジイ!」

 

 今度は俺から古家さんに掴みかかった。どうやら俺も相当酔っているようだ。

 

 「ああっ! 久我君、今僕のことをジジイと言ったね? この義父である僕を!」

 

 古家さんも負けじと俺に掴みかかる。

 

 「あんたさっき義父さんと呼ぶなって言ったじゃねえか!」

 「黙れこのバカ義息子!」

 「えっ?」

 「あっ!」

 

 取り合えずお互いに手を離した。

 

 「久我君、勘違いしないでくれたまえ、今のはその……言葉をの綾だ」

 「はい、わかってますよ」

 

 このままだとお互いに気まずいので無理矢理会話をすることにする。

 

 「あー、あの古家さんさっきの『印』の話の続きを聞いてもいいですか?」

 「え、ああいいよ確か魔法で細工をした『印』があるって言ったのね」

 

 古家さんは咳を一介して語り出した。

 

 「印は普段は見えなくなっていて僕が確認擦るときだけど魔法で彼女達の体に浮かび上がる」

 

 ふむふむ。

 

 「その印をさらに魔法を使って読み取るんだ」

 

 なるほど。

 

 「要するに印がバーコードみたいな役割でそれを古家さんが読み取って胡蝶の情報を見るんですね」

 「そうだよ、元は彼女達の見えない部分に異常がないか探る為に編み出した魔法だからきっとはっきりする」

 「……古家さん、もし胡蝶に異常があっても俺はあいつを捨てません」

 

 古家さんは俺の言葉を聞くとフッと優しい顔になった。

 

 「そう言って貰うと父親としてうれしいし何よりも人形作家冥利につきるね」

 

 そうだ、俺は胡蝶が好きだ、何があっても大切にする。

 

 「取り合えず今日は遅いから調べるのは明日にしよう……さぁ飲んで仕切り直そう」

 

 こうして古家さんと再び残りのビールを飲んだ。

 

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