45話 「理解できない」


 私は人形だ、人間じゃない。しかし外見はそんなに人間と変わらない。いや、そう思い混んでいるだけで本当は違和感がある。

 

 「私の体はどこが違うんだ?」

 

 歩きながら私は呟いた。

 

 「さぁ、あえて言うなら関節かしら」


 隣を歩く私の姉のボタンが自分の片腕を私に見せつけブラブラ揺らす。

 

 確かにそれは一理ある。

 

 だが本当にそれだけか? もっとあるかもしれない。

 

 「おい、繭、ちょっと確かめたいことがあるんだがいいか?」


 私は人間である繭の側に行った。

 

 「あ、胡蝶ちゃん……確かめること?」

 

 繭は他の姉達とお湯に浸かっていた。

 

 「えっと、胡蝶ちゃんは私の何を確かめたいの?」

 

 繭は困った表情をしている。

 

 「繭、お前の体と私の体は何かが違うと思う、それを確めたい」

 

 私もお湯に浸かり繭の隣に行く。

 

 「……え、どういうことなの?」

 

 繭は訳がわからないっといった表情をした。

 

 「今からお前の体を隅々まで調べる」

 

 えっ!?

 

 私の言葉に一緒に来たボタンとバラ以外全員が一斉に反応した。

 

 これで私の体についてはっきりする、あとは違いが解ればそこを造り直すだけだ。

 

 私はそう確信した。

 

 すまない親父、この体は親父がくれた大切な体だ……けど私は好きな男の為にこの体を造り変えたい!

 

 私は了承を得ずに繭の胸を触ろうとした。もうなりふり構ってはいられない。

 

 「やめなさああぁいこのバカ妹ぉ!!」

 

 バチぃ!

 

 「いてぇ!」

 

 ヒガンバナが私の顔に張り手をした。

 

 「何考えてるの!? このバカ! 変態!」

 

 バチぃバチぃバチぃバチぃバチぃ!!

 

 「ぐはっ! ちょ、いてっ! シャレに、アッ! なんねぇ! いてぇ!」

 

 スイカズラがさらに私をビンタしてくる。

 

 「繭様大丈夫ですか? ウチの妹が大変すみませぇえん!」

 

 ブクブクブクブク。

 

 最後にヒガンバナとスイカズラの二人は私の頭を無理矢理お湯の中にツッコミ繭に向かって謝らせる。

 

 畜生、あともうちょっとだったのに、それにしても姉貴達容赦ねえ! ちょーいてぇ!

 

 「だ、大丈夫だから胡蝶ちゃんを離してあげて」

 「ブクブク……プハァ」

 

 私は姉貴達に解放された。

 

 「わたくしがデブ……雌豚……はぁ」

 

 ザパーン。

 

 ちょうど私が解放されたとき心春がフラフラとした足取りでやってきて仰向けにお湯に倒れこんだ。

 

 「ちょ、心春姉ちゃんどうしたの!?」

 

 ヒマワリが心配して声をかける。

 

 ザバァ。

 

 「繭様ぁわたくしデブですかぁ? 雌豚ですかぁ!?」

 

 心春が仰向けに浮いていたかと思うと突然起き上がり繭の手を握り詰め寄る。

 

 「え、ええ!? その……心春さんは太ってないですよ、……どちらかと言うと大人の魅力に溢れた体形です」

 

 繭は明後日の方向を向いて言った。

 

 「……意味不明」

 「……心春お姉ちゃんと胡蝶、何か変」

 

 ガマズミとキンセンカがそう言って私に近寄って来た。それに合わせて私と心春の周りに姉妹全員が集まってきた。

 

 私は正直に話すことにした。

 

 「姉貴、私は大我に好かれる体になりたいんだ」

 

 私の言葉に姉貴達はキョトンとした。

 

 「私は人形だ、もしかしたら大我はそれを気にしてるのかもしれない、だから私は人間の女の体になりたい!」

 

 私は気持ちを全てを皆に伝えた。

 

 「胡蝶ちゃん、それで私の体を調べようとしたのね?」

 「ああそうだ……でももういいよ私がバカだった……ごめん繭」

 

 私は自分が情けなくて泣くのをこらえるのに必死だった。

 

 「ふん、だらしない妹ね、やるなら最後までやりなさいよ!」

 

 ボタンはそう言うと突然繭の後ろから脇に腕をまわし持ち上げた。

 

 「えっ? きゃあああ!!」

 「バラ! 繭お姉様が動けないように後ろで腕を押さえるのよ!」

 「は、はいボタンお姉様!」

 

 繭はあっという間にボタンとバラに立った状態で取り押さえられた。

 

 「あ、あああ……」

 

 繭は私達に全てをさらけ出されて羞恥で顔を真っ赤にして抵抗するのを忘れているようだった。

 

 「見てお姉様達、これが人間の女性よ!」

 

 ボタンは高らかに宣言する。

 

 「……これが」

 「……人間の女性」

 

 ガマズミとキンセンカが興味深そうに繭を見る。

 

 「うふふ、人間の繭お姉様はすごいのよ、なぜなら味覚があるのだから」

 

 ボタンはそう言うと繭の口に自分の口を押しつけた。

 

 「ん、ん、ジュルルル」

 「んー! んー!」

 

 繭は抵抗できないので必死に目を閉じて耐えていた。

 

 「ボタンお姉様!? いったい何故!?」

 

 バラが目を見開き驚いて言う。

 

 「え、何これ……ヒマワリ姉ちゃんこれなんなの?」

 「私にもわかんない、何が起こってるのかわかんないよぉ、ツキミソウ!」

 「いや、不潔……ちゅ、注意しなきゃ、こんなの淑女のすることじゃない……そうでしょスイカズラ」

 「え、ええ……ヒガンバナお姉様、でも私怖い……妹が何を考えてるのわかりません……なんで?」

 

 姉貴達はボタンの行動を見て混乱している。

 

 「ん、はぁ……私の味はどうですか繭様お姉様、うふふ」

 

 ボタンは悪びれた様子もなく怪しく笑っている。

 

 「……はぁ、はぁ、」

 

 繭は下を向いて息を整えているだけだった。

 

 「お姉ちゃんやめて! 繭を離して!」

 

 夢見鳥が繭を引き剥がそうとする。するとボタンとバラは意外なことに素直に繭を解放した。

 

 「繭、大丈夫?」

 「……」

 

 繭は何も反応しない。

 

 「ふふふ、ジュル」

 「ボタンお姉様なんでキスしたんですの? キスするのはバラだけじゃなかったの!?」

 

 ただ笑っているボタンにバラが必死にすがる。

 

 なんだこいつは女同士でキスしただと? ……何を考えてるんだ?   

 

 スイカズラも言っていたが私はボタン怖くなった。

 

 理由は私の同性愛に対する嫌悪感ではなくボタンが躊躇なく実行するからだ。

 

 こいつは狂ってる、絶対に何かやってくる!

 

 「……ボタンちゃん」

 「何かしら心春お姉様」

 

 突然心春がボタンに近寄る。

 

 バチィン!

 

 「っ!」

 「ボタンお姉様! ひっ!」

 

 バチィン!

 

 心春がボタンとバラに強烈なビンタを浴びせた。

 

 「あなた達、繭様に謝罪しなさい……そして出ていきなさい」

 

 心春は本気で怒っているようでいつものように人懐っこい雰囲気ではない。

 

 「……繭お姉様、私が調子にのり過ぎました……申し訳ありません」

 「ま、繭お姉様……申し訳ありません」 

 

 ボタンはまるで感情がないかのような態度で謝り、バラは怯えていた。そうして二人はお湯から出て立ち去ろうとした。

 

 「あ、そうだわ、胡蝶ひとつ言っておくわ」

 

 ボタンが振り返る。

 

 「……なんだよ姉貴」

 「私達人形と繭お姉様は姿形は同じだけど決定的な違いがあるわ」

 

 ……なんだ、ボタンは何を知ってるんだ?

 

 「繭お姉様は人間だから赤ちゃんを産むことができる、けど私達はそれをできないわ」

 

 ボタンはそれだけ言うと立ち去った。

 

 「は? どういうことだ?」

 

 私はボタンの言葉の真理を理解できずただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。

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