43話 「胸がおかしい」


 「うわぁぁん! 胡蝶ちゃぁん、ごめんなさいぃ!」

 

 姉の心春が私の背中で泣いている。

 

 「うるせぇ、もう泣くんじゃねえ!」

 

 私は心春を怒鳴った。

 

 私はなんて甘い女なんだ自分の男を好きになったやつを許すなんて……ましてやこいつは浮気までしたんだぞ。

 

 さっきからお湯を出しているシャワーを停める。

 

 「……エグッ、グスっ」

 

 心春が泣き止んで嗚咽をを漏らしている。

 

 やっぱりこれ以上心春を……姉貴を傷つけることができねぇ、こんなことになら心春の気持ちを聞くんじゃなかった。

 

 「おい、姉貴これだけは言っておく」

 「……はい」

 「大我は私の大切な男だ、誰にもわたさねぇ」

 「……わかりましたぁ」

 「けど、別に好きになってもかまわない……勝手にしろ」

 「えっ?」

 

 私は益々甘い女だな、けどこれがきっと大我の為になるはずだ。

 

 私がそう思ったのには理由がある。

 

 それは大我と暮らして気づいたのだが、大我は他人と全く関わり合いがない。

 

 スマートフォンと呼ばれる物を使って誰かと連絡しているようだがそれも滅多にやることがない。要するに孤独な人間だ。

 

 だから旅行で黒田と繭と遊んでいるときの大我は私といるときよりさらに楽しそうだった。

 

 もしかしたら大我を私だけに縛りつけておくよりいろんなやつと交流を持たせた方が大我の為になるんじゃないか?

 

 私はそう思ったので心春に大我と交流を少しでも持たせる為に好きになってもかまわないと言った。

 

 「……胡蝶ちゃん、ありがとうございますぅ」

 

 とは言ったものの余り女と交流は持たせたくねぇな……けど私の魅力で大我を虜にしておけば大丈夫だろ

 

 私は肩を揉むように後ろに手を伸ばし背中にある心春の頭を適当に撫でる。

 

 「この話は終わりだ、さっさと次に行くぞ」

 「え、胡蝶ちゃんどこに行くつもりですかぁ?」

 

 不思議そうに尋ねる心春を無視して立ち上がる。

 

 「まだ確かめることがあるんだ」

 「確かめる? 胡蝶ちゃんいったい何をするつもりですかぁ?」

 

 心春を見るとキョトンとしていた。そんな心春に堂々と告げてやる。

 

 「女の体がどんなのか確かめるんだよ!」

 「ええええっ!!」

 

 ザパーン!

 

 「こら、夢見鳥! ゆっくりお湯に入らなきゃダメよ」

 「あぅ、繭ごめんなさい」

 

 心春の驚きの声と同時に繭と夢見鳥がお湯に浸かる音が聞こえた。

 

 「こ、ここ胡蝶ちゃん!? どうしちゃったんですかぁ? もしかして女の子が好きなんですかぁ!?」

 「バカ言うな、どこかの姉貴共と違って私はちゃんと男が好きだ」

 「じゃあ何でですかぁ? 胡蝶ちゃんは女の子ですから別に確かめなくてもいいんでは?」

 

 先程から質問ばかりする心春に呆れた。


 「はぁ、心春は分かってねぇな……いいか?」  

 「……もうわたくしのことを姉と呼んでくれないんですねぇ、グスっ」

 「うっ……いいか姉貴、親父は童貞だ、ぜってぇ女の体なんて見たことがない」

 「確かにお父様は童……その、あまり女性と関わったことがないと言っておられましたぁ」

 

 心春は何故か恥ずかしそうに童貞という言葉を濁して言う。

 

 「だろ、だから私達を造るとき体のどこかをきっと間違えて造っている、だから調べる、因みに間違えた部分のある程度の見当はついている」

 「え、そうなんですかぁ? 胡蝶ちゃんは行動が早いですねぇ」

 

 心春は意外そうな顔をする。

 

 「姉貴、どうやら親父は私達の胸を間違えた、なぜなら私は胸が膨らんでないしお前は多分……大きすぎる!」

 

 私は心春の胸に指をさした。 

 

 「そんなぁ、わたくしの胸は間違ってるんですかぁ!?」

 

 心春は驚いて自分の胸を確認するために揉みはじめた。

 

 ボイン。

 

 心春が胸を揉むたびにそんな擬音が聞こえそうな気がした。

 

 なんかムカつくな。

 

 「あ、でも繭様の胸も膨らんでましたしぃ、わたくしは大きすぎると言っても間違ってなくては?」

 

 あ? 何言ってんだ心春。

 

 「いいえ、心春お姉様の胸は間違ってますわ」

 

 突然横から声が聞こえた。

 

 「そうですわ心春お姉様の胸はおかしいですわ、それとボタンお姉様とバラの胸が間違ってるわけないわ!」

 

 声の主はボタンとバラのようだ。

 

 「なんだ姉貴達、もう女同士でいちゃつき終わったのか?」

 

 私はボタンとバラに嫌味を込めて言った。

 

 「なっ!? ボタンお姉様と仲よくして何が悪いって言うのよ!」

 

 バラが私の言葉に反応してムキになる。

 

 「だいたい胡蝶、あなた妹の癖に生意気だわ私達のことをちゃんとお姉様って呼びなさいよ!」 

 

 バラが私に詰め寄ってきた。

 

 あぁめんどくせぇ。

 

 「分かったよボタン、バラ」

 

 私は耳の穴を小指で擦りながら言った。

 

 「……よくもボタンお姉様とバラをバカにした態度をとったわね、もうゆるさないわ!」   

 

 バラは今にも私に掴みかかりそうだった。私は直ぐにバラを押さえつける体勢に移ろうとした。

 

 「そこまでにしなさいバラ」

 「ボタンお姉様!? 何でですの?」

 「今は喧嘩している場合ではないわ……」

 

 ボタンはバラをたしなめると急に私に顔を近づけた。

 

 「うわっ! なんだよ近すぎるぞお前」

 「うふふ、胡蝶、あなたいい着眼をしてるわね、私もお父様にどこを間違えて造られのか知りたいわ」

 

 何だこいつ気持ち悪い。

 

 ボタンは私と同じ顔なので余計に嫌悪感を感じる。

 

 「うー、意義ありですぅ!」

 

 心春が叫んだ。

 

 「あなた達さっきから聞いていればお父様が間違えてるって言って、例えそうでもお父様が造って下さった体なんだから大切にしないさぁい!!」

 

 ハッ……そうだ心春の言う通りだ、この体は親父が一生懸命造ってくれたものだ、それなに私は何てことを……。

 

 私は自分の胸をさすった。すると心春私の目の前に立ち私の手を握った。

 

 「胡蝶ちゃん、大丈夫ですよぉ、わたくしから見ても胡蝶ちゃん達はちゃんと女の子の体ですぅ、どこもおかしい所はありません」

 「……心春」

 「だから胡蝶ちゃんも女の子の体を調べるなんてバカなことはしなくていいんですよぉ?」

 

 次に心春は真剣な表情をして私達三人に語りかける。

 

 「わたくしは工場で何体も造られた物の一体でお父様に直接造られていません、でも……」

 

 突然心春は私を抱き締めた。

 

 ギュム。

 

 「この体はお父様がデザインしてくれたので例え胸が大きすぎてもわたくしは一生大切にしますぅ、だから胡蝶ちゃんも自分の体を大切にしてください」

 

 ギュム、ギュム。

 

 先程から心春が私を抱き締めながら自分の胸を私の顔に何度も押し付ける。

 

 おい、なんだこれ……私に喧嘩を売ってんのか?

 

 「ふん、心春お姉様この際だから言いますわ、心春お姉様はいつも服を着ていると胸の部分がパッツンと強調されて周りから見ると只のデブにしか見えませんわ」

 

 ボタンが心春を睨み付けて言う。

 

 「えっ?」

 

 心春はキョトンとした。

 

 「雌豚」

 

 続けてバラが言う。

 

 「え、え? わたくしがデブ? め、雌豚?」

 

 心春は混乱している。

 

 「……ふんっ」

 「こ、胡蝶ちゃん? わたくしはデブでも雌豚でもないですよねぇ?」

 「さーて、体を調べに行くか」

 「ええっ! 胡蝶ちゃん何でわたくしを無視するんですかぁ? それとさっきのわたくしの話を聞いてましたかぁ!?」

 

 心春を振り払うとさっさと移動した。

 

 「胡蝶、体を調べるって言ったけどあてはあるのかしら?」

 

 ボタンが私に問いかける。

 

 「ああ、これから繭の体を調べる、あいつは人間の女だ、私達人形とどこが違うのかこれで正確に分かる」

 「ふふふ、成る程、胡蝶あなたほんとうにいい着眼をしてるわ」

 

 ボタンが私を誉めるがどうでも良かった。

 

 「ボタンお姉様ったらバラをほっといて胡蝶に構うなんてぇ!」  

 

 バラが私に嫉妬するが無視だ。

 

 私達三人は繭と夢見鳥がいる場所へ向かった。

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