35話 「修羅場3コンボ」


 「おや? どうやら古家の爺さんが来たみたいだな」

 

 警察官の山木さんが言う。

 

 俺は山木さんが言う方向を見て交番の外にクラウンが停まっているに気がついた。

 

 「あ、父さんが来たみたいだね」 

 「良かったね兄ちゃん、これで帰れるよ!」

 

 ヒマワリとツキミソウが無邪気に笑いながら言う。

 

 良かったね!……じゃねぇ、俺は古家さんに泥を塗ったんだ、きっと只ではすまない。

 

 「兄ちゃん何震えてんだよ?」

 「兄ちゃん風邪でもひいたの? 大丈夫?」

 

 二人が心配して俺の背中を擦ってくれる。

 

 あぁ、なんていい子達なんだ。

 

 そんなやり取りをしていると古家さん達が交番にやって来た。

 

 「古家亮太郎です、久我君を迎えに来ました」

 「おお、古家の爺さん、この青年はどうやら住民の勘違いで通報されたみたいなんだ、だからあまり怒らないでやってほしい」

 「おや、そうなのかい? それは災難だったね久我君」

 

 山木さんをみると目でここは任しとけと合図している。

 

 山木さんありがとうございます!

 

 「お兄様……じゃなくて大我様大丈夫ですか!? どこかお怪我はありませんか!?」

 

 心春さんが泣きそうな顔で俺を心配する。

 

 心春さん今俺のこと完全にお兄様って言ったよな……止めてくれよこのことが皆にばれたらまずいことになるぞ!

 

 「久我君、今心春が君のことをお兄様と言ったよね?」

 

 古家さんが俺にニコニコとしながら問いかける。

 

 「ふぇ?」

 

 俺は情けない声しか出せなかった。

 

 「お父様これは違うんですぅ!」

 

 心春さんが俺を庇う。

 

 「心春、黙りなさい」 

 「ひうっ」

 

 古家さんの圧力のこもった一言に心春さんは怯んで黙った。

 

 古家さんは俺の目の前に来る。

 

 「久我君、今僕はとても怒ってるんだ」

 

 古家さんは顔をヒクヒクさせている。相当怒っているようだ。

 

 「すみません、俺警察に補導されて古家さんの顔に泥を塗っちゃいました」

 「違うよ久我君、そのことじゃないんだ……心春のことだよ」

 

 古家さんの顔にだんだん血管が浮き出て来た。

 

 やべえ、俺はこの町のどこかに埋められるかもしれない。

 

 「えっと心春さんとは……特に何もなかったというか」

 

 俺は心辺りがありすぎて古家さんに曖昧な答えしかできない。

 

 「久我君、胡蝶から聞いたよ……僕の、僕の大切な娘の心春と寝たようだねえ!」

 「ええ!? 俺はそんなことしてないですよ!」

 

 古家さんの発言にこの場にいる皆が驚き固まっている。

 

 「言い訳はよしたまえ、だいたい心春はお姉さんタイプなんたぞ!? それなのに君は心春にお兄様と呼ばせて妹プレイをするなんてズレてるよ!」

 

 古家さんが怒りながら俺の胸ぐらを掴み激しく揺さぶる。

 

 ええ!? 怒るところそこ?

 

 「アブノーマルでロリコンな君のことだ妹プレイでは飽きたらず今度は心春に赤ちゃんプレイを強要するつもりだったんだろう? ああああ! 僕の大切な娘の心春うううっ!」

 「いや、そんなことしねえよ」

 

 俺は古家さんに激しく揺さぶられながら冷静に突っ込みを入れる。

 

 あ、でも俺一回だけ胡蝶に園児服を着せたことがあったな、あれを心春さんが着たら……。

 

 …………

 

 ……

 

 心春さんが園児服を着ている。

 

 そして何故か口にはおしゃぶりを加えている。

 

 「ばぶぅ、大我お兄様たまぁ心春と遊んでくだしゃいぃ」

 

 そう言って俺を切なそうに見つめてくる。

 

 …………

 

 ……

 

 あ、なんか目覚めそう。

 

 「もうお父様! 恥ずかしいから止めてくださぁい!」

 「むがっ!」

 

 心春さんが古家さんをを後ろから抱き抱えて口に手を当てて黙らせる。

 

 「ごほん、ごほん」

 

 突然誰かの咳き込む声が聞こえて声のする方に振り向くと山木さんがいた。

 

 「ああ、その古家の爺さんと青年、ここは交番だ、あまり騒がしくしないでくれよ……それともっと周りを見てくれ青年の彼女が可哀想だ」

 

 山木さんに言われてハッと気づく。

 

 「繭さん?」

 「……ぐすっ」

 

 俺が繭さんを見たとき、繭さんは無言で両目から涙を流していた。

 

 「……大我さん私に心春さんとエッチしてないって言ってましたよね?」

 「ええ、そうです!」

 「大我さんはまだ童貞なんですよね?」

 「もちろんですよ、俺は正真正銘の童貞のピュアボーイですよ繭さん!」

 「そうですよね? なのになんでだろう、私大我さんと付き合ってる訳じゃないのに悲しいんです……何でですかね?」

 

 その後、繭さんはしくしくと泣き出した。

 

 あああああ! 胸が罪悪感で締め付けられるうぅ!

 

 俺はいつからこんな最低男になってしまったんだ?

 

 「あ、あのですね繭さんこれは勘違いでして」

 

 俺は繭さんに対しそんなことしか言えない。

 

 「なにが勘違いなんだ? 私に聞かせてくれよ大我」

 

 気の強い女の子の声が俺を呼ぶ。

 

 あ、この声は胡蝶か……。

 

 俺はゆっくりと振り返る。胡蝶が不機嫌そうに腕を組んで立っていた。

 

 ああ、誰か俺を埋めてくれ。

 

 「よお、貴様元気にしてたか?」

 「……これを見て元気に見えるのか?」

 「黙れ、貴様の自業自得だろう」

 「……そうだな」

 

 胡蝶はいつもの本気モードの時の口調だが、以外にあっさりしていたので俺は拍子抜けしてしまった。

 

 「胡蝶ちゃんあなた車で待ってるんじゃなかったのぉ?」

 「気が変わったんたよ心春、さっさとこのバカを連れて帰ろう」 

 

 胡蝶は心春さんにそう言うと俺の前にズカズカとやって来た。

 

 「さあ、帰るぞ」

 

 胡蝶は目を見ずに俺の手を引っ張る。

 

 「……お前がいなくならなくて良かったよ」

 

 胡蝶が手を引っ張るときボソボソと呟いた。

 

 「それでは大我様はわたくし達が責任を持って連れてかえりますぅ、お勤めご苦労様でしたぁ」

 

 心春さんが山木さんに挨拶をしている。

 

 黙って車に乗り込み車内から心春さん達を見ているとヒマワリとツキミソウが自転車に二人乗りをしながら車に近づいて来た。


 二人は俺に手をふって挨拶するとそのまま去って行った。

 

 ああ、できることなら俺は今あの二人と帰りたい。


 俺はそう思いつつ二人を目で見送った。


 ……。

 今の車内の空気は最悪だ。車の助手席に古家さんが座りバックミラー越しに俺を睨み付けている。


 俺は運転席の後ろに座っている。真ん中に胡蝶がいてその横に繭さんがいる。

 

 車に乗り込んだとき胡蝶は俺と顔を合わせてくれなかったが何故か俺の手を握って来た。その光景を繭さんが不安そうにチラチラ見ている。


 なんだこの状況は? ここは修羅場なのか!? 


 俺が精神的に追い詰められていると挨拶を終えた心春さんが運転席に来た。

 

 「さあ皆さん帰りましょうかぁ! もうお夕飯とお風呂の準備はできているのでゆっくりしてください」


 心春さんは優しい声で何事もなかったかのように車内にいる全員に言う。


 天女様がキター!

 

 俺は心春さんがこの修羅場に俺を救うために舞い降りた天女様のように見えた。

 

 そんな俺の気持ちも知らずに車は古家家に向けて前進した。

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