34話 「感動の再開」


 ここはどこだろう、何で俺はこんな目に合うのだろう。

 

 俺が今居る場所は町の交番で取り調べ室の中だ。

 

 取り調べ室は壁一面白色で覆われていて俺は灰色の業務用の椅子に座り目の前には椅子と同じ種類の業務用の机がある。

 

 「はぁ、俺ってそんなに怪しい奴なのかな?」 

 

 そう呟いてここに居る経緯を思い出す。

 

 俺は人形のヒマワリとツキミソウ、そして近所に住む子供の龍太郎と楓ちゃんと川で遊んでいた。すると警察がやって来て俺を補導した。

 

 警察が言うには自転車に乗った少女を不審な男が追いかけていると通報があったから来たそうだ。

 

 「自転車に乗った少女を追いかけている不審者かぁ……よく考えればあのときの俺って走ってるとき息が上がってハァハァ言ってたよな」

 

 大の大人が息をハァハァさせながら美少女を追いかける……うわぁ! ちょーきめぇじゃん、てか俺きめぇ!

 

 「そういえば俺は警察が来たとき下着一枚だったよな……これってもしかして公然わいせつ罪になるのか?」

 

 体が冷えて来るのがわかった……因みに今はちゃんと服を着ている。

 

 「……ごめん胡蝶、俺はお勤めに行って来るからもう会えないよ、古家さん達の所で達者に暮らしてくれ」

 

 ここにはいない人形の胡蝶に別れを告げた。

 

 ガチャ。

 

 俺が別れを告げ終わったとき扉が開き一人の警察官が部屋に入って来た。

 

 「お、青年お茶を持って来たぞ、これでも飲んで話しでもしようや」

 

 そう言って俺にお茶を差し出す警察官は人柄のよさそうな中年の男性だった。

 

 「ありがとうございます」 

 

 お茶を一口飲んだ。

 

 「さて青年、事情を聞かせて貰おうか」

 

 警察官が笑顔で机を挟んで俺の前に座り言う。

 

 ……来たか。

 

 きっとこれから警察官の厳しい尋問が始まるのだろう。そう思うと体が硬直してしまう。

 

 「ははは、そう身構えんな青年、そこまで厳しくしねえよ、ちょっと名前と住所と職業あとは何をしてたか俺に教えてくれよ」

 

 黙っていても埒があかないので正直に話すことにした。

 

 「俺は久我大我です住所は○○で職業は……フリーターです」

 

 俺はあえて無職と言わなかった。

 

 「それで何をやっていたかと言うと川で知り合いの子供達と遊んでました」

 「へぇ、知り合いねぇ……本当か?」

 

 突然警察官の顔に凄味がました。

 

 「えっと、あの今日初めて合って知り合いになりました……はい」

 「そうかぁ、家の娘が世話になったなあ……」

 「え、娘?」

 

 もしかして楓ちゃんのこと? じゃあこの人は楓ちゃんのお父さんなのか?

 

 俺は急に顔に力が入らなくなって無表情になり自然と両目から涙が溢れ出た。そして昔のクセで両腕を上げて降伏のポーズを取った。

 

 「ぷ、うわはははは! なんだそれ怯え過ぎたろ青年、あははは! 悪い悪いそこま怯えるとは思わなかったんだ」

 「だ、だって娘が世話になったとか言うから俺、殺されるんじゃないかと思って」

 「警察官がそんなことするわけないだろ青年、ドラマの見すぎだ……俺は山木やまきだ娘と娘の幼なじみの龍太郎の遊び相手になってくれてありがとな」

 

 どうやら警察官の山木さんは怒っておらず最初の人のよさそうな顔に戻った。俺は安心してお茶を一口飲んだ。すると山木さんが俺に話しかけた。

 

 「青年は古家の爺さんの客らしいな」

 「何で知ってるんですか?」

 「駄菓子屋の婆さんから聞いた、あの駄菓子屋にはいろんな人が来て婆さんと話しをするからなぁ、だから婆さんはこの町の住民のことなら何でも知ってるぞ」

 

 駄菓子屋の婆さんすげえ、まるで町の情報屋だ。

 

 「……実は事情は娘と古家さんとこの人形娘二人から聞いてる、青年は悪くないのは分かっているが通報された以上取り調べを受けてもらわなくちゃなんねぇ、すまんな」

 

 山木さんはポリポリとこめかみを掻いて謝る。

 

 「……分かりました、ところであなたはヒマワリとツキミソウは人形なのにどうして驚かないんですか?」

 

 動く人形を普通に受け入れているこの町に疑問をもったので山木さんに尋ねてみた。

 

 「あぁ、その事か……そりゃあ俺だって初めてあの二人をみたときは目を疑ったさ……さてと、話してもいいもんかなぁ」

 

 山木さんは顔を天井斜め方向に向けて考える。そうして暫くすると俺に真剣な表情を向けた。

 

 「青年このことは外に漏らすんじゃないぞ、実はなこの町のお偉方や住民は皆古家の爺さんに逆らえない」

 「え、そうなんですか?」

 「あまり警察官の口から言いたくないがこの町の雇用や経済は古家の爺さんのおかげで回っている、だから皆逆らえない」

 「……ということはもしかして古家さんは裏の方でも何かやっているんですか?」

 「いや爺さんはそんな悪いことはしてねぇ綺麗なまんまだ、だがそんな影響力があるところの人形に粗相があったら何があるかわからない、だから皆不思議に思っても黙ってそれを受け入れている」

 

 山木さんは他にも古家さんについてはなしてくれた。

 

 古家家は昔からこの土地で影響力を持っていたが古家さんのお父さんの代から会社の業績が傾きその影響でこの町も廃れていたそうだ。

 

 そこに古家さんが帰って来て『幻想的人形工業』を創設して会社の利益で上げたお金で屋敷を維持した。ここまでは大体俺も古家さんから聞いたので分かっていた。

 

 しかし話しには続きがある。どうやら古家さんは人形会社の社長であると同時に投資家でもあり莫大な利益を上げていたそうだ。その利益で町に投資をして発展させていたので皆古家さんに感謝して逆らえないそうだ。

 

 俺はすごいところにお世話になっているようだ。

 

 それを理解すると同時に顔から血の気が引いていく。何故なら今の俺の現状は古家さんの顔に泥を塗る行為だ。

 

 「うわあああ! 俺どうしたらいいですか? 古家さんに会わせる顔がありません助けてください!」

 

 俺は思わず山木さんの側に行き泣きながらしがみつき助けを求めた。

 

 「おい青年落ち着け! 大丈夫だから、てか大の男が泣きながらしがみつくな気持ち悪い!」

 

 そのとき別の警察官が部屋の扉を開けて入ってきた。

 

 「取り込み中のところすみません、ちょっとこっちも何とかして欲しいんですけど」

 「あぁ、そうだった、後は俺がやるからお前は奥で休んでていいぞ」

 

 山木さんは部屋に入って来た警察官にそう言うと俺にニヤニヤとした笑みを向けた。

 

 「そういえば言うのを忘れていたが青年の彼女が迎えに来ているぞ、くくく、何でも恋愛ドラマさながらの別れだったらしいな」

 

 もしかして繭さんが俺を迎えに来たのか?

 

 「さて青年取り調べは終わりだ、彼女に会わせてやるからその涙と鼻水で汚れた顔を洗え」

 

 取り調べ室の洗面所で顔を洗った。

 

 「青年、俺にドラマさながらの感動の対面シーンを見せてくれよ、因みに身元引き受け人は古家の爺さんになったから今日は帰れるぞ」

 

 山木さんにそういわれて背中をバシンと叩かれて取り調べ室から出た。それから最初に目に映ったのは中のベンチに座り寂しそうにうつ向いている繭さんだった。その横にヒマワリとツキミソウが立っている

 

 「あ、兄ちゃんだ」

 

 ヒマワリの呟きに反応して繭さんが顔を上げる。繭さんはどうやら泣いていたやうで顔は真っ赤だった。

 

 「繭さん……」

 「大我さん……」

 

 お互いの名前を呟くと繭さんが俺に抱きついて来た。

 

 「良かった、本当に良かったです」

 

 繭さんはそう言うと涙を拭い俺を見上げるようにして笑顔を向けた。

 

 繭さんは俺より背が低いので俺を見上げるときクセなのか爪先立ちになり一生懸命背を高くしようとしていた。それがなんとも可愛らしい。

 

 俺はこんなに自分を心配してくれる他人が初めてで嬉しくなり涙をまた流してしまう。そして繭さんがたまらなく可愛くなり立ったままガバッと覆い被さるように繭さんを抱き締めた。

 

 「きゃ、大我さん?」

 「繭さん、俺約束通り帰ってきたよ……心配かけてごめん」

 「……お帰りなさい大我さん」

 

 繭さんは抱き締めたとき態勢が後ろ気味になったがそんなことは気にしていないようで俺を力強く抱き締めてくれた。俺はそんな繭さんが倒れないように腰と背中をしっかりと支えてやる。

 

 二人で熱い抱擁を交わした。

 

 「ヒュー、熱いね青年けどそこまでだ、どうやら未成年二人には刺激が強すぎたみたいだ」

 

 俺と繭さんは山木さんの言葉でハッと我に返りお互いに離れて気まずくなる。山木さんが言った未成年はヒマワリとツキミソウのことだった。

 

 ヒマワリはベンチに顔を突っ伏して恥ずかしそうに足をバタバタしている。ツキミソウは驚きの表情で口を両手で隠し突っ立ている。

 

 俺は繭さんをチラリと見た。

 

 繭さんは俺に背を向けている。恐らく恥ずかしいのだろう。しかし繭さんは内股になりそして後ろからでも分かるくらいに自分の服の肩と腰の部分をギュッと握り絞めていた。

 

 繭さんなんかエロいな。

 

 「おや? どうやら古家の爺さんが来たみたいだな」

 

 山木さんがそう言ったので交番の外を見てみると俺がここに来るときに乗ってきたクラウンが交番の前に停まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る