28話 「災いの匂い、人形視点」


 私は姉達と一通り話した後大我の部屋に帰ろうとした。しかし姉達が急に大我に会いたいと言いだした。

 

 私は姉達を大我に会わせたくなかったので着いてくるなと言ったが姉達はそんなことなどお構い無しに着いて来た。

 

 特に姉のボタンとバラは大我に興味津々で部屋の前にくると真っ先に扉を開けて部屋に入った。

 

 大我はこの二人を見るなり嫌そうな顔をする。

 

 いいぞ大我、こいつらには警戒しろよ。

 

 他にはヒマワリとツキミソウが大我と遊びたがった。

 

 また性格が真面目なヒガンバナとスイカズラが大我が私のことを不良にしたとか訳の分からないことを言って怒ったりした。

 

 こうして見ると大我は姉達に人気なようでそれに優越感を感じる半面複雑な気分になる。

 

 しばらくするとボタンとバラが大我の胸にもたれかかる。

 

 あぁ畜生、他の女が大我に触るのを見るとイラついてくる、何で私がこんな思いをしなくちゃいけないんだ。

 

 私はこのイラつきを発散させるために唸るように大我の名前を呼んだ。するも大我は恐る恐るといった感じで私を見た。

 

 大我の怯えている表情がなんだか面白くてもっといじめてやりたいと思った。

 

 私をここまでイラつかせたんだ、ちょっとくらいいじめてもいいだろう。

 

 そんな私の雰囲気を感じとった大我は姉達に適当な話題を出してこの状況を誤魔化そうとした。

 

 姉達はそんなこととは知らずにまんまと大我の策略に乗ってしまった。

 

 こいつ上手く誤魔化しやがって、しかも私を無視するつもりだな? そんなことは許さない。

 

 私は大我の胸ぐらを掴んで言った。

 

 「お前の妻の胡蝶だ、この浮気者」

 

 私がそういうと大我は冷や汗をかいては困った表情をした。

 

 ふふふ、やっぱり大我はからかいがいがあるな。

 

 私が次はどうしてやろうか考えているとガマズミとキンセンカのが大我に抱きついて来た。

 

 二人は抱きつくだけでは飽きたらず大我の匂いまで嗅ぎだした。

 

 「ちょ、おい姉貴達! 何で大我に抱きついて匂いを嗅いでるんだ! やめろよ!」

 

 あぁ、また私は嫉妬しちまってる。

 

 私の大我の胸元を握る手に益々力が入ってしまう。

 

 「……心春お姉ちゃんの匂いがする」

 

 二人の内、どちらかがそう言った。

 

 え……今なんて言ったんだ。

 

 その言葉を聞いた姉達が次々と大我の匂いを嗅ぎ始める。大我は匂いを嗅がれて恥ずかしがった。

 

 ……心春の匂いがするとか言ったか? 許せねぇ。

 

 「心春の匂いだと!? おい姉貴達どけろ!」

 

 私は大我を無理矢理姉達から引き剥がした。大我は引き剥がしたときに勢い余ってうつ伏せに倒れてしまった。

 

 そのことに罪悪感を感じてしまったが、本当に大我から心春の匂いがするのか確かめたかったので大我に跨がり私も匂いを嗅いだ。

 

 「……くんくん」

 「おい胡蝶」

 「黙れ……くんくん」

 

 あぁ大我の匂いだ、なんだか落ちつくな、このまま私もこいつの匂いで楽しもうかな。

 

 そんなことを思っていたが私の鼻に甘い匂いが入って来た瞬間現実に引き戻された。

 

 「……お前から普段しない甘い匂いがする、大我お前!」

 「うわぁぁ!」

 

 私が怒鳴ると大我は顔をガードした。それを見て私は大我が可哀想に思った。

 

 何で私は可哀想なんて思ってるんだ? 悪いのはこいつなのに……。

 

 取りあえず冷静になろうと思った。

 

 「何でお前から甘い匂いがするんだ……まさか本当に心春とこの部屋に居たのか?」

 

 私がそう聞くと大我はこの部屋で心春と話をしていたと言った。

 

 それを聞いたとき胸が締め付けられると同時に疑問が湧いた。

 

 ……何で話をしていただけで心春の匂いが大我に着くんだ? おかしい、匂いが着くってどういうわけだ?

 

 私は匂いが着く状況として大我と心春が肌を重ねて愛し合っているところを想像した。

 

 ……最悪だ。

 

 「……何でなんだ、何で話しただけで匂いが着くんだ? 大我、お前は心春と寝たのか?」

 

 自分で言って悲しくなる。

 

 どうか私の勘違いで有ってほしい。

 

 「俺は……」

 

 大我は何か言おうとしたがすぐに黙って私から顔を背けた。

 

 あぁ、大我は本当に心春と愛し合ったんだ……バカやろう。

 

 「……なんで、何で否定してくれないんだよぉ大我ぁ……」

 

 私は大我の胸に顔を押し付けて泣いた。

 

 嘘だ、嘘だと言ってくれ!

 

 「ごめんな胡蝶……」

 「貴様、何で謝るんだ、やってないって言えよ!」

 

 大我は謝るだけで心春としていないと言ってくれない。

 

 私は大我から愛していると言われたいだけなのに。

 

 大我が私の頭を撫でようとした。

 

 「触んな裏切り者!」

 

 私は大我の手を振り払った。心春を愛した手で触られたくなかった。

 

 「お兄様ぁお待たせしましたぁ、今お茶をお持ちしま……したぁ」

 

 心春が能天気に大我の部屋へやって来た。

 

 「はぁ、お姉様本当に最悪なタイミングね」

 

 ボタンがそう言った。

 

 全く同感だよ姉貴ぃ……。

 

 「胡蝶ちゃん?」

 「……何しに来たんだ心春」

 「胡蝶ちゃん大我さんは悪くないわ」

 「うるせえ! 大我を誘惑したくせに!」

 

 心春が大我を庇うのが余計に私をイラつかせる。

 

 あぁちくしょう! 今ここで心春を壊してしまいたい。

 

 「胡蝶話しを聞いてくれ」

 

 大我が苦しそうな表情をしながら言う。

 

 「黙れ大我! お前本当は私なんか何とも思ってないだろ……だから平気で私を裏切るんだ!」

 

 大我は私のことを一生可愛がると言った。私はその言葉を聞いて大我と硬い絆が出来たと思っていたがそれは私の勘違いだったようだ。

 

 きっと優しい大我のことだ私に同情してそう言ったのだろう。

 

 「違う!」

 「何が違うって言うんだ! 言い訳何か聞きたくねえ! お前なんか心春と『繭』と仲良くしてればいいんだ!」

 

 そうだ、大我は私なんかほっといてこいつらと仲良くしていればいいんだ。

 

 特に繭は人間だ、もしかしたら大我は人形の私なんかより繭と居たほうがいいのかもしれねえ……。

 

 ふとそんな考えが私の頭に浮かんだ。

 

 ……。

 

 そのうち親父が騒ぎを聞きつけて部屋へやって来た。その後親父は心春達に部屋から出て行くように言った。

 

 「悪いけど胡蝶と二人きりで話をしたいから連れて行ってもいいかな?」

 

 親父が大我に言った。

 

 大我は親父としばらく話して出て行くと言った。

 

 ……なんだよそれ、逃げるのかよ! 私達の関係はこれで本当に終わるのか? だとしたら……そんなのあまりに悲しすぎるだろ!

 

 私はただ悲しくて大我と目を合わすことができなかった。

 

 大我は無言で出て行った。

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