29話 「彼を追って」


 古家さんの家を出て辺りを散策する。

 

 周りは山で囲まれていてと田んぼと小さな用水路が辺り一面に広がっていた。

 

 随分と町から離れて田舎に来たんだな。

 

 そんな事を思いながら、人がいて、尚かつ店がありそうな場所を目指して歩く。

 

 夏真っ盛り、外はまだ熱気がある。更にここは周りが田んぼで、じっとしていると小さな虫が周りを飛んで来てうっとおしいのと、蚊に刺されたりする。

 

 こんな散々な目に合っているのに俺は外に出たくてしょうがなかった。

 

 「……胡蝶のやつ本気で泣いてたな」

 

 俺は心春さんと浮気みたいなことをして胡蝶を傷つけてしまった。今まで女性に好意を向けられた事がなかった、だから調子に乗ってしまった。

 

 この件に関して俺は考える度に胸が罪悪感でいっぱいになる。だから外に逃げた。

 

 歩いていると古家さんが俺にもう一度身の回りを見た方がいいと言ったことを思い出す。

 

 もしかしたら古家さんは俺に好意を寄せている女性が他にもいるってことを伝えたかったのか? だとしたら誰だ? 胡蝶と心春さんは俺に好意を寄せてくれる、あとは……繭さん?

 

 立ち止まり繭さんのことを思い浮かべる。

 

 繭さんは俺と同じ学校に通っていた訳ではないけど後輩みたいな存在だ。小さくて可愛く。少しおどおどしているところを見ると守ってあげたくなる。

 

 繭さんは海水浴場で言った俺の言葉を聞いてから態度が変わった。俺と余り話さなくなったけど時々俺のことを気にしている。

 

 それは何故だ? 繭さんは俺の事が本当は苦手なのか? いや、古家さんの言葉を参考にするなら繭さんは俺に好意を寄せているのか?

 

 考えれば考える程深みに嵌まって行く。

 

 ……って何考えてるんだ俺は、これはアレか? 童貞が女性から少し好意をを寄せられれば自分に気があると思うアレなのか?

 

 「バカか俺は胡蝶の事が好きだろ、何考えてるんだ……俺は最低だ」

 

 俺は再び歩き出した。

 

 「おーい兄ちゃーん!」 

 「待ってよー!」

 「ん? なんだ……って うお!」

 

 呼ばれて振り替えると活発な姉妹が一つに纏めた髪をなびかせて自転車に二人乗りしてすごい勢いで俺をめがけてやって来た。

 

 「確かあれはヒマワリちゃんとツキミソウちゃんだったかな?」

 

 二人は袖まくりをしたティーシャツにショートパンツとサンダルを履いている、どうやら着替えて来たようだ。

 

 自転車を濃いでいるのは姉のヒマワリちゃんだ。その後ろではツキミソウちゃんが自転車の後ろタイヤのまん中の位置にある僅かな突起に足をかけて立っている。

 

 「おーい、危ないぞー!」

 「えー? 大丈夫、大丈夫!」

 「それより兄ちゃん! ちゃんと受け止めてねー!」

 「は? 受け止めるって何をさ!?」

 

 俺が疑問を投げ掛けた瞬間ヒマワリちゃんは自転車のブレーキを思いっきり掛ける。すると自転車が前のめりになり後ろタイヤが浮き上がった。その勢いでツキミソウちゃんが投げ出される。

 

 「あっ!」

 

 俺はそう口に出した瞬間ツキミソウちゃんを受け止める態勢になった。

 

 「兄ちゃーん!」 

 「うわぁぁ!」

 

 すべてがスローモーションに見えた。ドシンと体に響く衝撃に絶え、しっかりとツキミソウちゃんをしっかりと抱き止めた。

 

 「何やってんだ危ないだろ!」

 「えへへ、さすが兄ちゃんだね」

 

 俺はツキミソウちゃんに怒ったが本人は気にしていないようだ。

 

 ヒマワリちゃんが自転車に乗って俺の隣へやって来る。

 

 「ふふふ、ちゃんと受け止めたね、次は私がやるから頼んだよ!」

 「もうやるか!」

 

 とりあえずツキミソウちゃんを下ろした。

 

 「さて、ヒマワリちゃん、ツキミソウちゃんどうして二人は俺の所に来たの?」

 「兄ちゃんそんな堅くしなくて良いってそれに私達のことは呼び捨てで良いよ」

 「どうして来たかと言うと兄ちゃんと遊びたかったからさ! それより兄ちゃんはどこにいくの?」

 

 ヒマワリちゃんとツキミソウちゃんがニコニコしながら俺に向かって言う。

 

 「とりあえずこの辺で店があるところに行こうと思ってるんだけど……それより二人は外に出て大丈夫なのか?」

 「え、何で?」

 「何でって……」

 

 改めて二人を観察する。二人は同じショートパンツでヒマワリちゃんが白のティーシャツでツキミソウちゃんが黒のティーシャツを着ている。どちらも肌が見えていて人形特有の間接が丸見えだ。

 

 「あー兄ちゃん私達の体をいやらしく見てるー!」

 「そんなに私達の体が見たいなら見せてあげようか?」

 「な、そんな風に見てないから!」

 

 ヒマワリちゃんがふざけて体を隠す素振りをして、ツキミソウちゃんがシャツの裾をチラリと上げてお腹を見せる。

 

 畜生、この二人に完全に弄ばれてるな。

 

 「兄ちゃん心配しなくて良いよこの辺の人は私達が人形なのを気にしてないから、あははは!」

 

 ヒマワリちゃんがバシバシと俺の肩を叩いて言う。

 

 「それより兄ちゃんは店に行きたいんでしょ? 私達が案内するよ」

 「え、それはありがたいけど」

 

 この辺の人達は人形なのを気にしないだと? 

 

 俺はこの地域における古家さんの影響力を垣間見た。

 

 「それじゃあ兄ちゃん行くよ」

 「頑張って着いて来てね」

 

 ヒマワリちゃんとツキミソウちゃんはふたたび自転車に二人乗りして走り出した。

 

 「え、マジかよ……待ってくれー!」

 

 俺は二人を追いかけて走った。

 

 ⎯⎯⎯


 私は部屋で大我さんのことを思い何故か泣いてしまった。

 

 なんなのこの気持ちは、もしかして私は大我さんの事が好きなの? けど会って三日しか経ってないのよ?

 

 「繭ーただいまー!」

 

 夢見鳥が帰って来たようだ。私は夢見鳥にばれないように涙を拭った。

 

 「お帰り夢見鳥、久しぶりに姉妹に会えてどうだった?」

 「うん、最初はお姉ちゃん達が怖かったけどちゃんと夢見鳥のことを覚えてくれてて嬉しかったし楽しかった!」

 

 夢見鳥は部屋で合ったことを私に話してくれた。

 

 ……。

 

 「……へぇ、あの子達それぞれに名前があるのね」

 「そうなの、でねあの後みんなで大我お兄ちゃんのところへみんなで行くことになったけど夢見鳥は繭のところへ帰って来たの」

 「え、大我さんのところへ?」

 

 他の人形達も大我さんの事が好きなのかな?

 

 そう思うとモヤモヤするものが胸に沸き上がりそれが次第に悲しみに変った。

 

 「繭どうしたの!? どこか痛いの?」

 「えっ?」

 

 気が付くと私は涙を流していた。

 

 「違うのよこれは、何でもないの」

 「……もしかして繭、寂しかったの? だったら大我お兄ちゃんのところに行く?」

 「え、どうして大我さんのところへ?」

 「だって、繭ずっと大我お兄ちゃんのことを見てるからお話したいのかと思って」

 

 そうなんだ、私ずっと大我さんのことを見てたんだ。

 

 「大我お兄ちゃんのところへ行こう!」

 

 夢見鳥がそう言って私を引っ張る。

 

 「ちょっと待って夢見鳥! まだ準備が……」

 

 私が夢見鳥に引っ張られて部屋から出たときちょうど髪を一つに纏めた活発な双子と鉢合わせした。

 

 「おっと、危なかったぁ」

 「あれ繭姉ちゃんと夢見鳥じゃん、どこか行くの?」

 「えっとあなた達は?」

 「ヒマワリだよ!」

 「ツキミソウ!」

 

 二人が自己紹介する。

 

 この二人は胡蝶ちゃんと夢見鳥と顔は同じだ。

 

 しかし性格が違うせいか雰囲気違いまるで別人のように見える。

 

 「あれお姉ちゃん達は大我お兄ちゃんの部屋に居なかったの?」

 

 夢見鳥が二人に質問する。

 

 「いやぁちょっと修羅場が合ってさぁ、お父さんに兄ちゃんの部屋を追い出されちゃった」

 「それでしばらくふらついていると兄ちゃんが外に出て行くのが見えたから今から追いかけて行くんだよ!」

 

 修羅場? 何か大我さんに合ったの!?

 

 二人は私達と話した後急いで去っていった。

 

 「ねぇ繭も大我お兄ちゃんを追いかけに行く?」

 「え、でも私は……」

 「……夢見鳥ちゃんと繭のお部屋でまってるから行って来ても良いよ」

 「……夢見鳥」

 

 私は夢見鳥が私を気遣ってくれる事に嬉しく思うと同時に夢見鳥が成長したことを感じた。

 

 「夢見鳥ありがとう、私行って来るね」

 「うん、早く帰って来てね!」

 

 私の大我さんへの気持ちはまだ分からない、でもどうして大我さんに聞きたい事があった。

 

 「あ、そうだ……夢見鳥私が居なくて寂しいからって下着の匂いを嗅いだらダメよ」

 「え、ダメ?」

 

 夢見鳥はまだ成長してないみたいね。

 

 私は呆れつつも大我さんを追いかけて外に出た。

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