9話 「姉妹と関係の変化」
繭さんが持ってきた人形は胡蝶と同じ球体関節シリーズの人形だった。
なんで女性の繭さんがラブドールを持ってるんだ? もしかして繭さんあの人形を使って……。
俺は変な事を想像をしてしまった。
「うわお! 球体関節シリーズじゃないですか! こんなプレミア物に二回も会えるなんて! ところで繭氏、もう一緒に寝たんですか?」
黒田さんがぶっこんだ質問をした。
この人俺の考えを読んでるのか?
「え? いつも一緒に寝てますけど……って 違います! その変なことはしてないですよ!」
繭さんは慌てて人形の手を持ち、それを振って否定した。
「その、私そんなことに使うとは……知らなくて、あの大我さんに勧めたときも知らなくて……あぅ」
繭さんは落ち込んでしまった。そんな繭さんをフォローしようとして言った。
「気にしないでくださいある意味繭さんのおかげで胡蝶に会えましたから毎日充実してますよ!」
「毎日……充実」
繭さんはボフッと湯気が出てきそうな勢いで顔を真っ赤にした。
うわっ、これじゃ俺が毎日胡蝶を使っていやらしいことをしていると言ってるみたいじゃねえか。この気まずい空気を変えようと話題を変えた。
「あ、そうだ繭さん、夢見鳥ちゃんとどんな風に生活してるんですか?」
「あ、はいそうですね……夢見鳥といつも部屋で絵本を読んだりテレビを見たりしてます」
へぇー俺と胡蝶の生活とあんまり変わらないな。
繭さんは人形の頭を撫でながら言う。とても大事にしているようだ。
「それと夢見鳥は甘えん坊でいつも私と一緒にいたがるんです、だから今日は連れて来ちゃいました、流石にスーツケースに入れて来るのは苦労しましたけど、えへへ」
俺は繭さんの言ったことに疑問を持った。いくら人形を大事にしているとはいえまるで夢見鳥ちゃんが生きているかのような口調だったからだ。
「そう言えば黒田さん、私の夢見鳥がプレミアって言ってましたけど、どうしてそうなったんですか?」
そう言えば俺もその事について少し気になるな。
「おや繭氏気になりますか? ではお話しますよ」
……。
黒田さんの説明によると本来胡蝶達のような人形は球体関節人形という芸術だそうだ。それを『幻想的人形工業』は独自技術でシリコンで製作しラブドールにした。その芸術的な美しさ故に販売前からすでに話題だったらしい。
しかし複雑な構造なので職人による製作であまり数が製作されなかったのと、またその職人がつい最近引退したとかで販売数カ月で販売中止になりプレミアが着いたらしい。そんな希少価値がつく前に胡蝶を購入できた俺は本当に運がいい。
「そんなぁ……それじゃあ夢見鳥は他の姉妹にもう会えないんですか?」
繭さんは少し悲しそうに言った。
……。
俺は黒田さんの説明で胡蝶の父親の手掛かりを掴んだ。胡蝶の父親は引退した職人に違いない。それと胡蝶が職人により製作されたと聞いて俺は嬉しくなった。
胡蝶は自分が大量生産された物だと言ってコンプレックスを持っていた。しかし実際は職人による少数生産だ。すなわち製作者の意思が込められている、決して工場の機械等で無作為に造られた訳ではない。
大丈夫だ胡蝶、きっと親父さんはお前のことをちゃんと覚えてるよ。
俺は胡蝶の側に行き頭を撫でた。
そんな風にしていると先程の繭さんの質問に黒田さんが答えた。
「安心してください繭氏、球体関節シリーズと言っても2体しか種類がなくその内の一体は大我氏の胡蝶タンですから今はいつでも会えますぞ」
「えっ、そうなんですか? でしたらその……大我さん、夢見鳥を胡蝶ちゃんの隣に連れて行ってもいいですか?」
「はい、いいですよ」
繭さんは夢見鳥ちゃんをよいしょと抱き上げて胡蝶の隣へつれてきた。
「因みに胡蝶タンの方が先に販売されたから夢見鳥タンは妹ですぞ」
黒田さんが言った。
「へぇーそうなんですか、良かったな胡蝶妹がいるぞ」
俺は胡蝶を伺ってみた。胡蝶は僅かに表情を和らげたがすぐに少し不機嫌そうな顔になった。
こいつもしかして妹にまで嫉妬かよ! 女なら誰でもここにいる事が気に食わないのか?
繭さんが少し息を切らせながら隣へ夢見鳥ちゃんを連れてきた。繭さんは俺と比べて頭一つ分位低く胡蝶達と同じ位の身長だ、だから抱っこというより気を失っている人を運んでいるような感じだった。
「ふぅ、私の体型だと夢見鳥を抱っこするのに一苦労なんですよ、えへへ」
繭さんは俺に向かって少し照れたように笑った。それに対し俺は少しドキッとした。
繭さんかわいいな、しかもいい匂いがする。
そんなことを考えつつ胡蝶と夢見鳥ちゃんを見比べてみた。
夢見鳥ちゃんは体型と大きさも胡蝶と同じ位で胡蝶と違うところは髪の色と着物以外に目が違った。
夢見鳥ちゃんはどちらかというとタレ目で左目の下にほくろがあった。それが泣いているように見えて俺は抱き締めて慰めてやりたくなるような気持ちを抱いた。
そんな気持ちを持っていると胡蝶の突き刺さるような視線を感じた。
おいおいそんな怒るなよ後でちゃんと可愛がるから。
胡蝶にそういう風に視線で送合図を送った。
「おほー! いいツーショットですね写真撮りますね!」
黒田さんはそう言うと写真を撮り始めた。
「そうだ、黒田さんの梨々香ちゃんも一緒に写真を撮ったらどうですか」
俺が提案すると黒田さんはいいですねと梨々香ちゃんを持ってきた。梨々香ちゃんは座れないので胡蝶達の膝の上に寝かした。
「いいよいいよー! その表情、良かったね梨々香タン二人に膝枕してもらって、羨ましいですぞー!」
黒田さんはそう言いながら何枚も写真を撮った。俺も旅行の思い出に撮ろう。
スマホを取りだし俺は一枚写真を撮った。
……。
その後それぞれ夕食まで別々に過ごすことになり俺は胡蝶を連れて旅館の外へ移動した。俺達がいる旅館は海に面しており風が吹くと潮の匂いがした。近くに展望があるので行ってみることにする。
幸い人がいなかったので俺は胡蝶を展望台の椅子に座らせて話しかけた。
「おい胡蝶、もう動いても大丈夫だぞ」
すると胡蝶は大きく背伸びをした。
「……ったくじっとするのも疲れるぜ、おい大我、私の肩を揉め」
「人形でも肩がこるのかよ」
俺はつっこみながらも胡蝶の言うことを素直にきいた。
「ふふふ、やけに素直じゃねえか大我」
「そりゃ胡蝶は高貴な女だからな」
そう俺がふざけていうと胡蝶が笑いだした。
「ははは! おもしれえじゃねえか、だがその高貴な女がいるのに他の女に目が写ってたろ、なあ大我?」
ギクッ!
「そ、そんなことねえよ! それよりお前はちゃんと父親に大切に造られたんだよ、それに妹までいたんだ良かったな」
「ああ……そうだな」
後ろからで胡蝶の顔は見えなかったがきっと嬉しくて少し泣いているんだろう。
俺は胡蝶が落ち着くのを待つ。しばらくして胡蝶を展望台で一番海が見える所へ連れて行った。
「すげーいい景色だな! 見ろよ胡蝶」
ここから見えた景色は青々とした山に大きな青い海と入道雲だった。今日は風が強く胡蝶は片手で麦わら帽子を押さえていて髪は風になびかれれていた。
よっしゃあ! 狙ってたシチュエーションがキター!
俺はスマホでその光景を写真に撮った。
「なんだ大我、写真を撮ったのか? 見せて見ろ」
俺は撮った写真を見せるといいじゃねえかと胡蝶に誉められた。二人で景色を眺めていると胡蝶が話しかけてきた。
「おっそうだ……ふふふふ、大我!」
胡蝶はニンマリとしながら俺を見てきた。
なんだこいつ何をたくらんでんだ?
俺はビクビクしながら胡蝶に尋ねた。すると胡蝶は突然俺に向かって飛び出し抱きついてきた。俺は何とか倒れないように耐えた。
「なんだよ突然、危ねえじゃねえか」
「うるせえ、それより私が落ちないようにもっと強く抱け」
そう言うと胡蝶は両足を俺の腰にさらに強く締め付けた。今の俺は胡蝶を抱っこしている状態だ、非常に恥ずかしい。
緊張でごくりと唾を飲み込むと胡蝶を支えるために太ももに手を回して少し持ち上げた。すると胡蝶は俺の首に両手を回しグイッと顔を俺の耳に近づけて囁いた。
「ふふふ、聞いたぞ大我、私はお前の彼女だそうだな」
なっ、それは!
「それはお前が無理やり俺に言わせたんだろ!」
「私は黙ってただけだぞ一体何をしたって言うんだ、くくく」
「あ、う……うう」
心臓がバクバクと激しく動いても何も言い返せなかった。
「いいだろう大我、お前の彼女になってやるよ良かったな、ふふふ」
「……えっ?」
えっ? 何? どういう事?
胡蝶が俺の彼女?
俺は突然の事で胡蝶の言っていることを理解するのに数秒掛かった。
最後に胡蝶は浮気したら〇すとだけ言って俺から降りた。
久我大我、二十四歳、人生初の彼女は人形だ。
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