Et Albi Niger
あるかわ
零話
「物語ってどこから始まればいいと思う?」
「知らん」
「いやさ、物事を伝えやすくするためにはさ、最初が肝心だと思うのよ。
人間だってさ、最初は見た目から判断し、自分に対してどういう存在か想像するじゃん」
銀髪碧眼、まるで白を暗示する人物は怪訝に話しかけてくる者を見据えた。
黒髪黒瞳、まるで黒を暗示する人物には、その姿に似つかわしくない、白い翼が生えている。
「……化け物」
「ひっで――そういうお前こそ偽美少女じゃねえか」
「死ね」
白い人物は背負っていた黒い何かを振りかぶり、翼を背負う人物の脳天を叩く。
「酷い……」
「お前は美少女扱いされた人間の末路を知らんからそう言える」
「あ~はいはい。うちの故郷じゃ重宝されるんだがな」
「良い国で育ったな。うちでは良い金づるだ」
「ああ、その意味ではどこも違いねぇ」
「つまりどこへ行っても重宝されるわけだ。扱いに違いはあれど、な」
背負われていたのは、大きな剣。漆黒の刀身は鈍く輝いて、青年……見た目は幼い娘に見える白い人物の背に収まる。
「んで、お前は金づるにはなりたくない、と」
「金は欲しい。いや、飯と寝床があればそれでいいか」
「そだな。人間、それがありゃ適当になんとかなるな」
「金づると言えば、お前もそうだろ。その羽根で大道芸でもして見ろ。俺よりは楽に金が稼げるだろう」
「お、二人そろって大道芸で食っていく?」
「断る。柄じゃない」
「同感。見世物じゃねえ」
「だったら背中隠せよ」
「しまうほどのでかい背中鞄がねぇんだよ」
一羽ばたきで風が舞い、二羽ばたきで白い青年の長い銀髪が靡き、見羽ばたきで道に広がる草花が踊る。
彼を呼称するならば、天使、だろうか。
「しかし、金がないな」
「そだな。俺もないな」
そんな白と黒の二人は、そんな二人をも飲み込むかのような青空を見上げる。
「……大道芸か。やっぱお前やれ」
「……大道芸ね。お前が売り子やるならやってやんよ」
「嫌だ。女扱いされたくない」
「俺だって羽根触られると関節決めて折りたくなるわい」
「物騒な奴め」
「美少女に間違えた一般人を撲殺する人に言われたくない」
「気持ち悪い、死ね。そういうものだろう」
「頼むから、簡単に人殺さないでくれよ。人間は基本、集団行動で活動する生き物なんだから。異端は弾かれるか駆除されるもんよ」
「さっきからお前、自分がまるで人間じゃないように……」
言いかけた白は、ぴょこぴょこと器用に羽根を震わせる黒に言いかけた口を閉じた。
「もう人間止めたんだな」
「失礼な、多分人間だ」
「そうか、じゃあ多分人間。俺の為に金を稼げ、以上」
「横暴だなぁ、異端人間。いつものように普通に労働して稼ごうよ。もしくは狩りして適当に寝床作って、ぐ~たら過ごそう」
黒い瞳は、普段から緩んでいるのがさらに緩み切り、今にもこの大地に溶け込みそうに道端で、どかりと寝転んでしまう。
その隣を、白い大理石のように、無感動なまま腰かける。
「ぐ~たらはしたいが、腹減った」
「同感。鳥でも飛んでないかな」
「空中で狩るのか」
「できそうなんだけど、実はできない」
「駄天使」
「うっさい擬少女」
「死ぬか」
「やってみろ」
そして二人はさらに腹を空かせ、またどこかで繰り返す。
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