第34話 話結構な金額になりました

 


「おう、遅かったな。悪いが先に残りのトレント出しても貰えるか」


「いいですよ」


 食事を済ませてから商業ギルドに戻るとコナリーさんが待ち構えていた。

 さっき通った通路奥の査定解体所から2号倉庫に行くドアの手前のドア前でコナリーさんが説明する。


「ここが洗い場の入り口だ。ハッシュに言ってあるのでスタッフに話はついてる。自由に使ってくれ、鍵もかかる」


 解体で汚れるから身体が洗えるようになってるのか。ふむふむ。

 話を聴きながらそのまま第二倉庫へ行きチェリー3本、残り3種を2本づつ出す。隣に腕枝もチェリー6本、他4本づつだして置く。


「しかしあれだな、そんなけ入りゃあ輸送業でも儲けられるぜ。じゃあ売上金渡すんで俺の部屋に来てくれ」


 二階の所長室に入る。応接セットがあり、3人がけのソファーにリュートと座り、アス君を膝の上に座らせた。


「……オネーしゃん、僕普通にしゅわりたいでしゅ…」


 ええ~、残念。アス君は私とリュートの間に座った。


「……………始めていいかな」


 コナリーさんが呆れたような視線を向けるがスルーで!


「まずはチェリートレントがそれぞれ8万8千、9万、9万1千だ。アップルトレントが10万2千、ウォールナットトレントが11万7千、オークトレントが11万2千。

 腕枝はチェリーが6本で6千、アップル2本で3千3百、ウォールナットが2本で3千8百、オークが2本で2千2百だ。腕枝だけ切り落としてくる冒険者はいるんでまあ腕枝の価格はそれほど高くはない」


 初値からさほど上がってはないか。まあ、まだあるってわかってるからかな。


「合計615300ウル、エルは5級だから税金49220引いて566080ウルだ、確かめてくれ」


 テーブルに小金貨5枚大銀貨6枚小銀貨6枚小銅貨8枚が並べられた。


「はい、確かに」


「明日エオカに行くんだろう、向こうで明日競りをするならこっちのは3日後を予定してるんだが、売上金渡しはその後になると思う」


「そうですね、夏階層が何日くらいかかるかわからないので、終わり次第顔出します」


「夏階層じゃ鉱石やゴーレム系の素材が手に入る、マーブルゴーレムなんか高値で売れるぞ」


 ニヤリと笑うコナリーさん、それはとってこいという事ですね。

 大理石か、硬そうだな。


「狩れれば持って帰ってきますよ」


「すまんな、じゃあ部屋に案内する。3階は男、4階が女に別れてるんだが、子供はどっちでもいいぞ」



 コナリーさんが立ち上がりドアを開け人を呼んだ。

 やって来たのは受付けにいたお姉さんだった。


「彼女が部屋に案内する。エル、いい取引ができたよ、今後ともよろしくな」


「こちらこそ、宿を提供していただきありがとうございます」


 握手をしてから受付けのお姉さんについて行った。








 さあ、先にお風呂に入ってしまいましょう。一旦部屋に入ってから先ほどの洗い場で待ち合わせをする。アス君?私と同室ですが何か?


「結構広いな」


「井戸しかないでしゅね」


 水道系の魔道具ではなく、樽の中の水を温める魔道具だった。井戸から水を樽に汲みあげ、温めたお湯で身体を洗うのか。

 排水設備のある区切られたスペースが3つあり、扉が付いているが上は空いているシャワーブースなかんじだ。ギリギリ風呂桶が置けそうかな。アス君も《ホットウォーター》が使えるようになったが風呂桶一杯は厳しいので私が最初は入れるのだが、足し湯、かけ湯の必要はない。それはそれでさみしい…。


「じゃあ先に入ってね。私はレイディの様子見てくるから」


「ああ」

「うん」


 リュートは久しぶりのお風呂に少し嬉しそうだ。

 レイディは商業ギルドの厩舎に入ってもらってる。ちょうど馬車が出払ってて馬がいなかったのでよかった。一緒だと馬が怯えるからね。

 3日間ずっと一緒だったからちょっと寂しそうなレイディに角熊肉をたっぷりあげてしばらくスキンシップ。食べ終わったら頭をスリスリして来たので嘴を拭いてやる。そのままだとこっちが汚れるからね。


「明日はエオカまで乗せてね。ダンジョンではお疲れ様、助けてくれてありがとう」


『あたち強い!オネーサンなのヨ』


 グリフォンの1歳はもう大人なんだけどなあ、甘えん坊は年齢云々より性格なのか?うーん、オネーサンと思えるということは成長してるのかな。レイディにもたれてそんな事を考えてたら、湯上り美少年がやって来た。


「いた、オネーしゃん、お風呂空きました」


「じゃあ私も入ってくるわ、先に部屋に戻っててね、これ部屋の鍵」


 アス君に鍵を渡して立ち上がる。リュートはレイディを撫でていた。いつのまにか仲良くなったのね。


「兄しゃまはどうしましゅ?」


「オレもエルの部屋で待っていていいか」


「あ、うん。いいよ」


 今後の相談もしたいし呼びに行く手間が省けていいか。


「じゃあまた後で」

「うん」

「ああ」

「Gyua!」


 なぜかレイディも返事をする。さあ久しぶりのお風呂、ゆっくり堪能しましょう。







 

 

 お風呂を終え部屋に戻る。扉をノックしてから声をかける。


「ただいま、アス君開けてくれる?」


 トットット、カチャリ


 よしよし、エオカで戸締りの習慣を心がけるようにいったが実践されてます。


「おかえり、オネーしゃん」


 部屋は抑えめの《ライト》の魔法が1つ灯されていただけで薄暗かった。部屋の中は二段ベッドとテーブルに椅子2つ、作り付けのクローゼットとシンプルだ。

 なぜかリュートは二段ベッドの下ですでに睡眠中だった。眠るリュートに気を使ったから暗めなんだね。テーブルの上には図鑑と【初めての混合魔法】が置いてあった。

 アス君は本を差し出しながら


「オネーしゃん、これ読み終わりました」


 初歩の1巻は魔法の成り立ちなどの魔法を使うための基礎知識、2巻は風火水土の4元素魔法、3巻は光闇雷魔法。初歩はこの3冊で終わりなのだが、通常学園では3巻まで一年生(14歳)で習う。まあ大概の貴族子息令嬢はカテキョで終えているが。

 この【初めての混合魔法】から中級魔法までが二年生(15歳)の教科になる。そして三年生(16歳)で上級、四年生(17歳)で上位属性だ。しかし上位属性習っても使えるようになるかどうかは別の話。ちなみにエレーニアは一年生の時点で上位属性使えました。だって8歳時点でインベントリ使えるし。


 そう、カテキョがついてで10歳までに中級魔法は使えるようになるものだが、アス君はあっという間に初級を終えてしまった。この辺の魔法の才能は獣人族らしくないのだが、私は加護が関係しているんじゃないかと思っている。


「じゃあ次は中級かな。でも復習や調べモノに使うからその本はそのまま持っててね」


 インベントリから【中級魔法の基礎】と【中級魔法の応用】の2冊を取り出す。嬉しそうに受け取りリュックになおしこむアス君。


「今読まないの?」

「今からオネーしゃんと図鑑の続き見ましゅ」


 言いながら椅子を引いてくれたので座る事にする。アス君は向かい側に座るのかと思いきや、図鑑を持って横に来た。はっ、もしやこれは……


「……えっと…/////」


 はい、ご褒美タイムです、先ほどのお約束もありますし。

 私はアス君を膝にのせる。膝の上の予定ではなかったのだがアス君は諦めたのかそのままテーブルに図鑑を広げ2人で見れるようにした。

 私はアス君のケモ耳を撫でながら、2人で図鑑を読み、楽しくお喋りしたのだった。




 し・あ・わ・せ・♡










 薄眼を開けてテーブルの2人を見る。嬉しそうにアスを膝に乗せるエルと、楽しそうに図鑑をめくるアス。

 ほんの数日で自分たち兄弟を取り巻く環境が激変した。

 自分は死を覚悟し、弟を何とか生き延びさせる方法を探していたのに。

 強い眠気と、仄かな明かりのせいか、見えているモノが幻のごとくゆらぐ。

 穏やかな時間がまた奪われるのではないか、手を伸ばせば消えてしまうのではないか、そんな焦燥感が身の内を駆け巡る。


 その時アスが振り向きエルに何かを言った。エルはそれを聞き笑い声をあげすぐに手で口を抑える。

 二人はこちらを見て「「しぃーっ」」と口の前に指を立てる。


 まぶたが落ちる。開けているのが辛い。だが身の内の焦燥感は霧散し暖かな何かが取って代わった。それがなにかはわからないが『放したくない』と強く思った。











 朝、ゆっくりと目覚める。隣ではアス君がすぴー、すぴーと寝息を立てていた。昨日は遅くまで図鑑を見て話しをしたのでよく眠っている。リュートは結局あのまま眠ってしまったので起こさないことにし、上段でアス君と2人眠ることにしたのだ。

 そろそろ起きて朝ごはん作るかな。


「…ん、オネーしゃ…」


「まだ寝てていいよ、も少ししたら起こしてあげる」


「ん…」


 毛布をかけ直して、このまま寝顔を見ていたい気持ちを抑えベッドから出る。下段のリュートはいつの間にか居なくなっていた。


 朝食は蜂蜜とブルーベリーがあるからビスケットでも焼くかな、このビスケットはケンタ風のやつだ。あとはベーコンと野菜スープかな。



 まるで見ていたのかというタイミングでリュートがやって来た。

 朝食を食べながら2人に昨日の収益を分配する。足らない椅子はインベントリから出しました。

 最初の冒険者ギルドの報酬とトレントの配分は1人59830ウルだ。1回の金額が5桁超えるのは初めてで大銀貨で渡すのも初めてだ。

 金額に2人の目が点になってる、でもコレ半分以下なんだよね。昨日の依頼達成分にまだ出してない蜘蛛系とゴブリン達の武器、トレントの競りの済んでない分とエオカで出す分。まあこの金額ほとんどトレントだけど。



 シーツ等に【ピュリフィケイション】をかけ綺麗にしてから部屋を出る。1階で受け付けのお姉さんに鍵を返し礼を言う。


「あ、エルさん。所長から伝言です。支払った税金が20万ウルを超えましたのでギルドランク昇級になります。そちらの1番ドアから中にお入りください」


「そんな制度あったんですか?」


  受け付けのお姉さんは少し戸惑いつつ説明をしてくれた。


「通常4級の方に対する処置なのです。5級の方が納税20万ウルを超えることはないのでエルさんは説明を受けてられないと思います。あと国によっても違いがありまして、ウェイシア王国は冒険者の国と言われますが商人の国でもあります。ウェイシア王国では商人の出入りを推進していますので。」


 ああ、だから5級半額とかもあったんだね。じゃあ1番ドアから入りましょ。


 ノックに返事が返ってきたのでドアを開け入る。カウンターに男性が座っていた。


「エルさんですか?」


「はい、そうです」


「所長から指示を受けてます。ギルドカードをお預かりします。それとこちらの判定球に手を置いてもらえますか」


 まめにチェックするのね。最低でも更新時にチェックしたら1年に1回はチェックできることになるのか、なんて考えながら青い光をぼーっと見てた。


「ではお待ちください」


 



  一旦奥に引っ込んだ男性職員はしばらくすると商業ギルドカードを返してくれた。


「記載に間違いが無ければ魔力を通してください。そうすればカードが認証されます」



  名前:エル・年齢:16歳

  出身地:ディヴァン領、オルフェリア王国

  拠点(登録地):オルフェリア王国、デュナン領、イチニ支部


  5級(オルフェリア王国) 登録:春の第二月

  3級(ウェイシア王国)登録:春の第二月


  賞罰:春の第二月、条件達成にて昇級


 イッキに2階級特進ですね。あ、あとの分税率5%になるのか。3級になったからと言って商会も立ち上げないし店舗も持たないけどね。こうしてみればアス君たちと出会ってまだ1ヶ月経ってないなんて、もう随分長く一緒にいる感じがする。


「それでは貴方に商売の女神の幸運が訪れますように」


 あ、ちょっと意識他へ飛んでましたね。も一度受け付けのお姉さんに礼を言い、あとコナリーさんに戻ってくるのに2〜3日かかるかもと伝言を頼む。リュートの武器新調するのに時間がかかるかもしれないから。


 商業ギルドを出て道具屋に行く。

 約束のヒールポーションを30本分納品、ついでに容器がなかったアス君謹製マナポーションを10本分7000ウルで売却しヒールポーション3000ウルと合わせて1万ウルをアス君に渡す。


「コレは図鑑の代金なのでオネーしゃんのでしゅ」

「うーん、じゃあこのお金はためてまた本を買いましょう」


 花が綻ぶように笑うアス君が可愛すぎてたまりません!

 本当に本が好きなんだね。





 昨日貰った8番の木札、持って受付カウンターへ行く。朝のラッシュタイムは終わった頃を見計らったので今の時間は人が少ない。


「冒険者ギルドエオカ支部【四季ダンジョン】出張所、担当のルイジです。査定結果ですね」


 ルイジさんは8番の札を見て一瞬眼をむく。


「ではちょっとお待ちください」


 トレーを持って戻ってくると


「今回の依頼でエルさんとリュートさんはDランクにアップですね。アスさんはポーターなんですか?10歳以下ですが獣人は試験を受ければ登録可能ですよ。出張所じゃあ試験はやってないんでエオカで受けてもらうことになりますが」


 ちょとまて、試験?どうゆうこと?


「エオカでは10歳以下は登録できないって訊いたんですが?」


「それは人族の場合で、獣人や妖精族は特定の能力値が人族より高いので能力を示せば登録できますよ」


 ルイジさんはしばらく何かを考えてから


「えっと、説明を受けた担当は誰だったか覚えてます?」


「エルフの女性で、確か名前はアルカさんとおっしゃいました」


「ああ~…」


 ルイジさんが遠い眼をした。


「申し訳ありません、彼女時々やらかすんですよね、当然10歳以下の冒険者登録についての資料も貰ってないですよね~」


 は、なんですと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る