第28話 4枚刃でも「切れてな〜い」

 



 

 

 

 4階層はただっぴろい草原でした。そしてポツポツと生えてる木は【ウォールナットトレント】ですね。

 草は高さ1メートルほどありアス君が頭以外埋もれてしまってます。多分身長は120センチくらいと思う。年齢の割に小さいのはやっぱり栄養不足でしょうか?エレーニアは165センチくらいです。16歳だしまだ伸びるかな。


 クレイブで草刈りしながら進むと時間がかかるのでアス君にはレイディに乗ってもらおうとしたのですが。


「僕歩きましゅ、大丈夫だから」


 って拒否られました。背伸びしたいお年頃でしょうか。


 この草原では【レッドセンチピード】は埋もれて見えないので《サーチ》全開でいきます。ああ、50メートルほど先にワラワラと固まっておりますね。火魔法だと燃え広がるかな。


「《しゅトーンウォール》で囲ってから燃やちましましゅか?どうしぇちょ材とれないでしゅ」

「そうね、そうしましょうか」

「ン、チョット縦斬リニデキルカ、技ヲ試シテミタカッタンダガ」


 何気に難しいことに挑戦しようとしてませんか?リュートは。ダンジョンに来てからワイルドに目覚めました?半獣形態を取り続けているのが影響する?

 まあセンチピードは横に切り離してもすぐ死なないから縦斬りの方が最終的には手間が少ないので正解ではあります。

 だけど散らばると面倒なので魔法で。


「《#石環の壁__ストーンサークルウォール__#》からの《ファイヤーボール》」

「《ファイヤーボール》」


  《フレイムストーム》一発で片付くんだが、アス君の魔法鍛錬も兼ねて共同作業です。


「【ビッグマンティス】ガ出テ来タゾ」


  【レッドセンチピード】を燃やしてるとひょっこり【ビッグマンティス】が顔を出した。マンティス系は群れないのでリュート1人でも問題ないでしょう。






 実は【レッドセンチピード】も【ビッグマンティス】もソロならDランク、チームでEランク推奨のモンスターなのだが、エル自身Aランク以上の実力がある上、アス君もリュートもいつの間にかCランク並みかそれ以上の実力を発揮していることに3人とも全く気付いていない。エルは冒険者の各ランク相当の力量については全く無知識である。

 2人は元々の素質、獣人としてのスペック、エルの常識外の指導(魔力纏とかは戦士系にとっては会得高難易度スキル)、エンチャントしまくりの装備。そしてダンジョンに入ってからの大量のモンスター討伐によりステータスが上昇しているのだった。

 オマケだが安く買った装備はエルがエンチャントしまくったせいで買値の10~30倍の価値が付いている。1種のエンチャントはさほど難しくはないが2種以上のエンチャントは高レベルの魔道士、錬金術師、付与術師のジョブが必要なのだ。






「エル、マンティスノ討伐証明部位ハドコダ?」

「右鎌だけど鎌は両方換金できるから、あと羽も換金素材だよ」

「了解」


 どうやらリュートは《瞬足》スキルを覚えたのか、あっという間に【ビッグマンティス】の後ろに回り首チョンパで瞬殺でした。この様子じゃ《縮地》もすぐ覚えそう。敏捷私より上だったものね。あ、鎮火したかな?【レッドセンチピード】の牙だけとってさっさと進もう。



 草原を進むとゴブリンや角兎も発見、お初なところで鳥さんです、雲雀?いや鶉かな、随分でかいですがダンジョンにいるからには魔獣ですね、角鶉ってとこでしょうか。ニワトリの倍くらいの大きさなのだが詰め物して丸焼きにしたいな。


 そしてスモークウッドシリーズ【ウォールナットトレント】は近づくとーー以下同文。


 ゴブリンは上位種でしょうか、弓を持った【ゴブリンアーチャー】や初級魔法を使ってくる【ゴブリンメイジ】が現れた。よく見ると普通のゴブリンも武器が錆びてなくて革の胸当て?防具着てるよ。鑑定したら【ゴブリンウォーリアー】って出た。

 リュートが【ゴブリンウォーリアー】と楽しそうに2、3度打ち合ってからズバッと袈裟懸けに斬りつけ終わり。リュートが間違った方向に成長してるような気がします。(戦闘狂に…)


 アス君は呪文を唱える【ゴブリンメイジ】をクロスボウで頭を撃ち、呪文が完成前に昇天されました。【ゴブリンアーチャー】はレイディの前脚の一撃で矢をつがえる間もなし。そして出番のない私でした。


 その後二度ほど【レッドセンチピード】の塊と遭遇、すでに作業化した討伐ですね。【ビッグマンティス】もポロポロ出て来ますがリュートとレイディが競争するがごとく、スパスパ終わらせてます。


 ん~、やっぱりギルドが『最初はここから』って言うだけあって弱いモンスターしかいないのかな(激しく勘違い)







 階段手前で【フォーブレードマンティス】が徘徊してるのが見えた。


「オレニヤラセテクレナイカ」


 リュートがニヤリとニヒルに微笑み訴えてきます。うーん、やはり出会った頃と性格が違うような……

「【フォーブレードマンティス】は【ビッグマンティス】と違って一撃って訳に行かないと思う。飛ばれると厄介だからアス君と先に魔法で足止めするよ?」


「大丈夫、オレヒトリデ…」


「だーめ、無理して怪我して、半獣形態も維持できなくなったらどうするの」


 不服そうなリュートだがここは譲らない。


「必要のない無茶をして怪我して欲しくないの、魔法で治せるとしてもね」


『魔法がある』と言われる前に釘をさしておく。過保護と言われようが嫌なものは嫌なんです。


「兄しゃま、オネーしゃんに心配をかけるのはダメでしゅ」

「アー、アス…」

「慢心はしゅきをうみましゅ、僕はオネーしゃんに賛成しゃんしぇいでしゅ」

「解ッタ、協力シテ倒スヨ」


 ふんすっと拳を握るアス君。そんな弟に説得され苦笑いのリュート…


「オネーしゃん?」


 はっ、思わず萌え狂いそうでした、あ~なぜか見てるだけで癒される~~



 気をとりなおして【フォーブレードマンティス】戦開始しますか。レイディには周辺を警戒してもらう。ポツポツと【ビッグマンティス】の反応があるのだ。小ボス戦中に入って来られてもうっとおしい。




 最初にアス君が土魔法で【フォーブレードマンティス】の動きを鈍らせ追加で私が木魔法発動。


「《泥の沼マッドポッド》」

「《拘束する蔦アイヴィレストレイント》」


  突然足元が泥沼になりめり込んだ【フォーブレードマンティス】は驚き、脱出しようともがくがすかさず生え伸びた蔦が沼に捕らえられなかった残りの脚に絡みつきつつシュルシュルと下半身に絡みつく。これで羽も広げられないので飛んで逃げる事もない。


「いくよっ」


「《ウインドカッター》」


 アス君の牽制の魔法が飛ぶ。だが魔法の刃は4枚の鎌で弾かれた。

「あ、風耐性あるかも」



 リュートが右の鎌、私が 左鎌を担当する。ミスリルの槍の突きを鎌で払われた。およ、やりおるな、槍は折れてないけど(すんません、ベタな駄洒落言いました。謝ります)


 上から振り下ろされる鎌をリュートは右の爪で迎え撃つ。

「クッ、硬イ」

 鎌の一撃を反対に切り落とすつもりで迎え撃ったのだろう、爪の刃が鎌の三分の一ほどで止まっていた。


「あっ」


 マンティスは爪が食い込んだ鎌を引き寄せつつもう一本の鎌で横からリュートを打ち付けるように薙ぐ。

 左の爪で鎌の軌道をそらしながら腹部に蹴りを入れ一旦距離を取る。


【フォーブレードマンティス】の注意がリュートに向いている間に、私は左の鎌を一本関節から切り落としてやった。


「シャーーーッ」


 鎌を切り落とした衝撃でマンティスの上半身がぶれ、リュート狙いの右鎌の一撃がそれた。ザクンと鎌先が地面に突き刺さる。リュートは余裕で躱し、右爪で関節を狙い斬りつけた。と、同時にアス君の放ったボルトが右眼に命中する。


「キシャーーーーッ!」

 マンティスは狂ったように残りの鎌を振り回すが、こちらは後退すれば当然余裕で避けられる。


 シュッ

 ドスッ!


「シャシャッーッ」


 さらにボルトがマンティスの胸部に刺さる。リュートは少し距離をとってからそのままマンティスに向かってジャンプする。おお、高いぞ。

 ボルトの一撃でマンティスの身体が拘縮した瞬間を狙って爪が振り下ろされた。


 ザシュッ


 マンティスの頭が胴から離れポロリと落ちる。私はミスリルの槍を切り上げ上半身と下半身を切り離した。どさりと落ちる上半身。下半身は蔓が絡みついているのでそのままだ。


「「イエーイ」」


 走り寄って来たアス君とハイタッチをかわす。


「やったね」


 リュートがこっちにウインクしつつサムズアップ。


「思ッテイタ以上ニ硬カッタ。ヤッパリヒトリジャ無理ダッタ。エルゴメン」


 うんうん、ちゃんと反省もできる。


「爪ノ扱イガ今一ツ馴染ンデナイノカ」

「うん、兄しゃまも僕ももっと練習頑張ろう」


 え?あれで馴染んでないっていうの?


「アス君、眼に命中させるなんてすごいよ」

「もうちょっと威力があれば頭とばしぇたんでしゅが」

「そうだね、もう少し大きなクロスボウの方がいいかも」


 アス君が小さいからとコンパクトなクロスボウにしたが普通のでも余裕で扱えそうだ。子供でもやっぱり獣人の力は人より強い。


「Gyua!」

「レイディもお疲れ様」


 3匹の【ビッグマンティス】の死体を引きずって戻って来たレイディをなでなでする。

『あたちがんばるなのヨ』


「じゃあ、解体してしまいましょ」

「はーい」

「アア」

「Gyua!」









 

 

「それじゃあ、ご飯にしましょう」


 解体を済まして階段部屋で野営の準備をする。


「オネーしゃん、今日のご飯はなんでしゅか?」

「作り置きの料理で、生姜焼きがあるけど」

「今日獲ッタ鳥ハ?アレハ食ベナイノカ?」


 こう見えて二人は肉が好きだ。出会った当初は長く満足に食べていなかった上、リュートはかなり弱っていたので胃腸を気遣っていたのだけど、調子がよくなったら肉がいいようだ。ん〜虎獣人だし肉食だよね。

 角鶉か、しかし焼くと煙と臭いが出るので厳密なセーフティエリアじゃない階段部屋だと魔物寄せになりそう。

 狭い空間なんで風魔法で散らしにくい。臭いはそのものの分子が散って鼻粘膜に付着し感じるって聞いた気がする。じゃあ風魔法で分子を集め何かに吸着させればいいのか。

 消臭といえば炭が思い浮かぶ。ふむ、風と火と木魔法の合成で《消臭》できるかも。


「ちょっと時間かかるかも、それでもいい?」

「ウン、待ツ」

「ポーション作って待ってましゅ」

「ジャア、アス、手伝オウ」


 ということで二人は調剤道具を出してヒールポーションを作り出す。リュートは薬草を潰す担当ということで私の乳鉢と擂粉木を貸してあげた。


「兄しゃま、力入れしゅぎ、もっとしょーおっと回して」

「ムムムムム」

「もっとゆっくり、回しゅの早しゅぎ」

「ムムムムム」


 アス君はヒールポーション一人で作れるようになったから、リュートには厳しい先生のようです。

 リュートは両の手のひらで擂粉木を挟んで今ひとつ扱いづらそう。


 そんな二人を横目に見つつ、角鶉に米や野菜、キノコ類を詰めて蒸し焼きにしましょう。

 獣人だからって肉だけじゃ栄養偏るもんね。







「おいしい、オネーしゃんコレおいしい」

「中ノ米ニ肉ノ旨味ガシミテイル」

「お代わりあるよ」

「おかわり」

「オカワリ」


 角鶉はジューシーで脂がのっているのにしつこくなく、美味でございました。



 二人の作ったヒールポーションはリュートの薬草処理が甘かったのかやや効果が落ちたので、ちょっと魔石ランクを上げることで底上げし、初級ヒールポーション50本分完成しました。

 アス君的には不満の残る仕上がりのようで眉間にシワを寄せています。

 指でアス君の眉間をこしこしする。


「そんな顔しない、ご飯の片付け終わったら、寝るまでにマナポーションの作り方教えるからね」

「後片付けしましゅ、兄しゃま、洗い物しゅるよ!」

「……マダ食ベテル途中ナンダガ」

「兄しゃま、食べ過ぎ」


 アス君は調合が楽しいようだ。うんうん、頑張る子お姉さん大好きだよ。

 しかしリュート、その細い体のどこに入っていくんだろう?彼細マッチョなんだよ。多少毛でわかりにくいけど。

 人化はほぼ一瞬しか見てないけどあの時はガリガリだった。うん。

 今もそんなに大きくはないと思う。


 ダンジョンに入ってからかなりの数のモンスターを倒してきた。この世界にもレベルは存在する。表示星マークだけど。

 レベルの上昇でHP、MPの回復量が上がればリュートは人化状態を保てるんじゃないだろうか?












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 4階層の獲得品

 ゴブリンウォーリアーの耳5、ゴブリンアーチャーの耳3、ゴブリンメイジの耳3、ウォールナットトレントの鼻枝6本、ウォールナットトレント6本、レッドセンチピード牙37対、ビッグマンティスの鎌18対、ビッグマンティスの羽18対、フォーブレードマンティスの鎌3、フォーブレードマンティスの羽1対、角兎5匹、角鶉2匹



 魔石

 ゴブリンウォーリアー5個、ゴブリンメイジ3個、ゴブリンアーチャー3個、レッドセンチピード37個、ビッグマンティス18個、フォーブレードマンティス1個、角兎5個、角鶉2個


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