第26話 四季ダンジョン2階層



 階段を降りると薄暗くてよく見えないので《ライト》で明るくする。

 2階層の階段部屋は洞窟の様な感じで何もない。後方に降りてきた階段と前方に2階層への通路。

『転移水晶柱』はないので壁を背に両サイドに《ストーンウォール》で壁を作って昼ご飯にする。

 ちゃんと他の冒険者が余裕で通れるくらい開けてあるからね。


 レイディには兎肉を出す。私たちはシチューとサラダ、ソーセージを挟んで作ったホットドッグ。

 インベントリに入れてたからシチューは熱々です。あ、二人にはダンジョンに来る前にインベントリの事は話してあるよ。マジックバックじゃ熱々のご飯は出て来ないからね。「ナイショだよ」って言ったらアス君ブンブン頷いてくれました。


 食休みが終わったら通路を出て2階層へいざ行かん。

 これまた広い林です。花をつけた木がいっぱいで、あれはもしかしてもしかすると、桜の木?。綺麗……


「オネーしゃん、あれは【チェリートレント】でしゅ」


 また図鑑を広げて見せてくれるアス君。其処には桜の木に枝の鼻とうろの目がついた【チェリートレント】の絵。焚き木にすると良い香り、肉を燻すと美味しい燻製ができる、とな。これはゲットでしょう。

 《エリアサーチ》で木と【チェリートレント】を見分けながら伐採しましょう。


 植物系の魔物は移動可能なタイプと不可能なタイプがある。

 普通のトレントは根っこを引き抜いて足のように使い移動するのだが、ここ四季ダンジョンのトレントは移動しない。

【チェリートレント】は近づくと枝を鞭の様にしならせて攻撃して来る。なぜか左右の2本の枝しか使わないので、アス君とリュートが囮りをかって出た。

 2人は右に左に軽やかなステップで枝の鞭をヒョイヒョイと躱す。さすが獣人です、見惚れて…る場合じゃありませんでした。


【チェリートレント】は切り倒して根から切り離すとあっという間に昇天されます。他に冒険者が居なそうなのでミスリルの槍を取り出し《ウインドブレード》付与して後ろから忍び寄りサクっと切り倒します。

 切り倒した【チェリートレント】はアス君とリュートが枝打ちをしてくれました。とりあえず10本ほど伐採終了。

 トレント系の魔石は目のうろの中にありました。脳ってあるのかな?

 トレント系の討伐証明部位は鼻枝、他の枝より色が濃く先が丸くなっており、他の枝と見分けがつく。鑑定しても【◯◯トレントの鼻枝】となるので他の枝でカサ増ししようとしてもバレるのだ。


 伐採中辺りを警戒してくれてたレイディはゴブリン8匹と角猪1匹狩ってましたよ。


 トレントの切り株に座り休憩してるとアス君がまた図鑑を見せてくれる。


「2階しょうには【ワーキングアント】がいるみたいでしゅ」


【ワーキングアント】体長1メートル程の黒い蟻、働き蟻かよ。殻は硬く防具の素材に使われる。

 ただ剣などの刃が通りにくく、ハンマーなどの打撃武器がオススメ。

 ・・・打撃系無いな。ハンマーとかメイスとかモーニングスターとか持ってない。

 倒す方法としては魔法で行くか、関節部分を狙うかだね。




「Gyua!」『ご主人、なんかきたのなのヨ』


 噂をすればなんとやら、列を組んでやって来る【ワーキングアント】3匹。


「2人とも躱しながら関節部分を狙って、レイディ、1匹お願い」


『了解なのヨ』


 レイディは【ワーキングアント】に突進し撥ねとばす。飛んでった【ワーキングアント】は木にぶつかり『グシャッ』と潰れた。あ、これも打撃系?


  リュートは爪で牽制しつつスローイングナイフを投げるが動く【ワーキングアント】の関節には当たらず攻殻に『キィン』と弾かれる。


 アス君も避けながらクロスボウを打つも動きながらでは命中率が落ちるようでなかなか苦労している。


  そして私は後ろから土魔法

「《石抱きの刑ストーンプレス》」


 突如上空に現れた50キロの石材が数個【ワーキングアント】の上に落ちる。それだけでは無く、【ワーキングアント】の下の地面がギザギザの山形に変わり硬質化する。

 時代劇なんかで見た【石抱きの刑】をそのままイメージして見ました。山形の板の上に正座させられ足の上に石を積み上げるってやつです。

 流石に3つも落とせば【ワーキングアント】は2匹ともグシャって潰れました。いや~ちょっと見ためよくないな、中身はみ出た感がグロい。この魔法あんまり使わないでおこう。


 石は魔法で撤去して素材回収。討伐証明部位は触覚2本、なんか潰したから全部で4本2匹分しかないや。次は普通に火魔法で燃やすか、風魔法で関節部分狙おう。



【チェリートレント】の伐採で結構時間くってしまった。ダンジョンは不思議空間、太陽が無いのになんとなく天井が夕焼け色に変わって行く。


「オネーしゃんあれ」


 アス君がリポ草の群生地を見つけた。リポ草は体力回復効果があってマナポーションの必須素材だ。1階層でマナ草を採取してあるのでここでたっぷり採取すればマナポーションが作れる。

 マナポーションはマナ草、リポ草、魔石で作る。ポーションは使う魔石により回復効果が変わるので魔素量の少ない魔石だと効果が薄くなるのだ。

 


 色々採取しつつ降り階段を目指すと、またも小山が立ち塞がる。これ蟻塚だよねー。高さ5メートルくらいだけど地下にも多少広がってそう。うん、避けて進もう。

 ぐるりと周って小山の後ろへ…あ、しまった。


「Gyua!」


 ドスドスドス…


 レイディが1匹出てきた【ワーキングアント】を踏み潰した。仕方ない。


「下がって、魔法で巣ごと焼くから出てきたのを各個撃破で」


「はいっ」

「ワカッタ」

「本日2度めの《炎の竜巻フレイムストーム》」


 ゴオオオォォッっと燃え上がる蟻塚、そこからワラワラと出て来る【ワーキングアント】

 レイディはジャンプしては両前脚でどーんっ、ジャンプしてはどーんっ、を繰り返し頭を潰している。それ、討伐証明部位潰れてないか?まあいいけど。


  リュート熱さでパニックを起こし這い出てくる【ワーキングアント】の首をスパン、スパンっと跳ねている。

【ワーキングアント】の注意が私達より、炎から逃げ出すことにいってるせいか、先ほどよりも動きが直線的で狙いやすいようだ。


 アス君は《ストーンピラー》で地面から石の柱を生えさせ、【ワーキングアント】を下から突き上げる。築き上げられた【ワーキングアント】の上半身が浮いたところでクロスボウで首を狙い撃つ。すごいな、そんなのどこで覚えてきたの?


 私はミスリルの槍に《ウインドブレード》付与で片っ端からクビチョンパです。


 2度ほど追加で《炎の竜巻フレイムストーム》を唱えた。

 アス君はボルトを撃ち尽くし今はマンゴーシュで牽制したのリュートが屠って行く。

 どれくらい経ったか二人の疲れがピークに達したか息が上がり動きも鈍くなってきた頃、ようやく蟻の行進が止まった。


「アア、疲レタ」

「もう蟻はいいでしゅ」


 よく頑張った。100匹位は倒したのではないでしょうか。


「もうひと頑張りよ。解体は後でやるからマジックバックに放り込んでアス君のボルト回収優先しましょ」


 片っ端から【キラーアント】をインベントリに放り込んでボルトだけ取り出すという裏技を使う。

 わざわざ刺さったボルトを引き抜かなくても簡単に回収できる。あっという間に回収作業が済んだので蟻塚の後ろの階段をさっさと降りた。















「ギギッ、チキチキ…ギギッ」


 牙を鳴らし体長3メートルの【クイーンアント】が巣から現れた時、そこには【ワーキングアント】の死骸も憎き冒険者の姿もなく、【クイーンアント】の威嚇音だけが風にさらわれ消えて行く。













 

 

 

 今日は3階層の階段部屋で野営するかな。

【転移水晶柱】がないので厳密なセーフティゾーンではないけど普通の階層よりは格段に安全だし、結界魔法&レイディで見張りなくとも大丈夫だ。

 本当は訓練も兼ねて交代で見張りをたてる予定にしていたのだが【ワーキングアント】戦で疲れてしまったようで、アス君は夕食を食べつつ舟を漕ぎ出した。魔法もいっぱい使ったからね。


 お風呂は無理そうなので《ピュリフィケイション》で綺麗にしてからアス君を先に休ませた。


「エルハマダヤスマナイノカ?」


 今後の事も考えてマナポーションを作っておこう。

 クロスボウのボルトが50本用意していたのだが【ワーキングアント】戦で減ってしまった。

 硬い攻殻の所為で先が潰れてしまったのだ。アス君は今後魔法を使う事が増えそうだから、マナポーションは準備しておいた方がいいと思う。


 2時間程でマナポーション50本分作り上げた。瓶は2種類各20本しか購入してなかったのでこれで終わろう。残りは甕に入れてそのままインベントリに収納する。

 ヒールポーションも作ろうかと思ったが、アス君に作ってもらうと約束しているので明日にしよう。


「レイディ、私も休むから何かあったら起こしてね」

『了解なのヨご主人、あたちオネーサンなのヨ、まかせるなのヨ』


 なぜかいつもよりはりきっているレイディの頭をわしゃわしゃしてからアス君の横に並んで眠ることにした。

 リュートは変わらず獣化状態ですが、こちらの方が気配に敏感なのだそうです。









 モゾモゾ



 ゴソゴソ


 ん?




 薄眼を開けるといつの間にかアス君がしがみついてました。おうふっ。寝返りした時にひっ付いたのか。うう~ん、睫毛長いし白い、眉毛はちょっと茶色がかってますね。うふふふ、思わぬご褒美いただきました。

 そんな事を考えつつまた眠りに落ちた。

 









「エル、朝ダ」


「おはよ、オネーしゃん」


「おはよう、ちょっと待ってね、顔洗ったら朝ごはんにしよう」


 ハッ。またもや早起きな二人に起こされる。私だってお寝坊さんじゃないのにな。

 目覚めれば二人は身支度すみ。寝顔見られて……よだれ垂れてないよね?


 この世界には歯ブラシあります。木の持ち手に動物の毛や何かの植物の繊維を使ってます。桶に水を入れて3人で並んでゴシゴシ、ガラガラ、ぺっ。

 リュートは両手持ちで四苦八苦してます。


 朝は作り置きのサンドイッチと牛乳でさっと済ませる。昨日は夜は解体をせず寝てしまったので3階層に出たらまず【ワーキングアント】の解体から始めましょう。


 春の3階層、そこは小川の流れる林のエリアでした。相変わらず広くてワンフロアだよ。コレ地図っているの?

(エルは地図を見てないので知らないが階段の位置だけでなく、出て来る魔物の種類やボス、採取できる素材、罠の場所なども記載されている)


 小川の横で解体開始。使い物にならなさそうなものは小川にポイする。その辺にポイしても時間がたてばダンジョンに吸収されるのだが邪魔なので投棄だ。アス君にはボルトの手入れもするように言ってある。


 解体の成果は触角82対、魔石73個、やはりレイディに潰された分で採取出来ないのがありました。

 攻殻69体分、焼けて使えなさそうなやつはポイ、いっぱいあるからいいよね。


 小川で手を洗ってから出発準備。



 あ、忘れずに2人にマナポーション5本づつ渡しておこう。


「昨日採取した分でマナポーション作ったから持っておいて。今後魔法使う機会が増えるかもしれないから」


 二人は受け取ったポーションをポーチにしまう。


 さあ、ではダンジョン2日目、今日も頑張ってまいりましょう。






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2階層の獲得品

ヒール草22本、マナ草35本、リポ草86本、ゴブリンの耳8、チェリートレントの鼻枝10本、チェリートレント10本、ワーキングアントの触覚84対、ワーキングアントの攻殻72体、角猪1匹、


魔石

ゴブリン8個、チェリートレント10個、ワーキングアント76個、角猪1個






おかしい、いつまでたっても恋愛に突入しない…

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