第25話 ダンジョンに行こう
宿を引き払い冒険者ギルドにダンジョンへ行くことを告げてから出発します。
馬車?乗りませんよ。長時間板の座席に座ってられませんもん。しかもこの馬車結構高速らしくて揺れが半端ないという話だ。
門を出てしばらく歩いてからレイディに乗りひとっ飛びする予定です。アス君も怖がらずレイディと仲良くしてます。あのプルプルはそれはそれで良かったのだけど、惜しい気もする。
アス君、私、リュートの順でレイディに跨ると眼の前にケモ耳が来ました。くぅっ、ピクピク動くとついもふもふしたくなりま・・・あ、後ろからもふもふハンドがウエストに回された。
しまった、前に気をとられ後ろを失念してました。
リュートは同い年(元男娼)・・・
「ドウシタ、エル。出発シナイノカ?」
ハスキーボイスに耳元で囁かれてしまった。
「オネーしゃん、顔赤いでしゅよ?」
「な、なんでもないわ、さあ行きましょうレイディ』
「Gyau」
最初に行くのは【四季】のダンジョン。冒険者ギルドも『先ずはここから』と進めていることだしね。
私とレイディなら問題ないけどアス君連れてだからここは慎重にいきます。
リュートも随分体力と筋力取り戻しました。
【四季】のダンジョンの出入口は山肌にぽっかり開いたのトンネルの様な見た目で、そこに扉を取り付け出入りを冒険者ギルドがクロード辺境伯から委託され管理している。
出入口の周りには三重の壁が作られ
内側は石で組まれた壁でその直ぐ外は水のない堀?壕っていうの?まあ深さ5メートル、幅4メートルくらいあるので石壁を乗り越えてもここに落ちる。この石壁内にはギルド職員がダンジョンに出入りする冒険者をチェックする場所がある。
真ん中と外側の塀は木造。真ん中の木造の塀には足場や挟間があり壕に落ちた魔物に対処できる。
外塀との間にダンジョン村があり、警備兵詰所、冒険者ギルド、商業ギルド、宿、食堂、酒場、屋台、武器屋、防御屋、道具屋、薬屋などがある。
ダンジョン村に入る門は一つだけだが、巡回馬車の到着時間には早いので門に並ぶ人は少なかった。
ギルドカードを見せ、金を払って獣魔の首輪を受け取る。二人は初めてのダンジョンということもありキョロキョロしている。
「じゃあ、ギルドハウスに行きましょう」
「うん」
「アア」
村のサイズの割に大きなギルドハウスだ。大きいと言ってもイチニよりは小さいが。
まあ、ここに来るのは冒険者と商人だけだから。カウンターは買い取りを兼ねているのか広めだね。
受付は痩せたお兄さんだった。
「冒険者ギルドエオカ支部【四季ダンジョン】出張所、担当のリックです。ご用件をどうぞ」
「今着いたばかりで【四季ダンジョン】に初めて来たのですが」
「ではギルドカードを」
リュートもカードを取り出しリックさんに渡す。
「パーティー【金色の翼】は2名でしょうか?」
リックさんは後ろのアス君を見る。
「彼はポーターですがパーティーのメンバーです」
「ではリーダーのエルさんのカードに追記します、商業ギルドカードはお持ちですか?」
アス君はカードをだしてカウンターに置くと、リックさんは受け取り魔道具に差し込む。
名前:エル・年齢:16歳・性別:女
出身地:ディヴァン領、オルフェリア王国
職業:魔法剣士、冒険者
所属:ウェイシア王国、クロード領、エオカ支部
ランク:E
パーティー:金色の翼/リーダー
パーティーメンバー
・リュート(武闘家)・アス(ポーター)
賞罰:ー
そういえばパーティーの手続きしたのリュートの登録前だったからパーティー名だけしか載ってなかったのか。もしくはアルカさんの説明忘れか…
「ダンジョン前で入出確認をしてるのでポーターの彼も商業ギルドカードを持ってられるので提出する様にしてくださいね。初めてでしたら道具屋で地図なども販売しているので購入されてはどうですか」
「ありがとうございました、そうですね一度寄って見ます」
無くとも困らないと思うがまあ行ってみよう。カードを3枚受け取るとそれぞれに返す、ちょっと依頼ボードものぞくかな。
「えっと、薬しょうさい…しゅ…むぅ」
「薬草?」
「うっ、やくしょう……」
依頼書を読もうと頑張るアス君は『ソ』発音できなくてうまく出来ない様だ。
ふむ、薬草採取もダンジョン内とあって特殊な種類が多いしランクも(F)なのか。常時依頼でゴブリンなどの討伐系があるのは増えすぎるとダンジョンからか出て来ることがある為。定期的に間引かないとスタンピードの原因になるかもって事か。安くて旨味は無いが襲って来たら倒さないとね。討伐証明部位は『右耳』か、ま、依頼はあと受けでいいか。
「ちょっと道具屋覗きに行こうか」
「「うん」」
レイディにはギルドハウス前の騎獣待機所で待っててもらおう。
「オネーしゃん地図売ってるよ、うわっ高いでしゅ」
うん、四季ダンジョン春階層だけで1万ウルか。春階層って草原とかだだっ広いって聞いたんだけど。
あ、夏階層は倍の2万ウル、いるかな?よく見ればポーション類も高いな。ヒールポーションが街価格600ウルなのが1000ウル、マナポーションが街価格1000ウルのところ1500ウルもする。
自分で作ったら実質瓶代だけだし、マナ草を採取したら即作ろう。ん?アス君が何かをじっと見つめてる。
「【四季ダンジョン図鑑】?」
「あ、オネーしゃん」
アス君が手にしていた本を棚に戻す。
「そいつは【四季ダンジョン】に出る魔物からか採取できるありとあらゆる素材を絵付きで解説してる図鑑だ、一冊あると便利だぜ」
道具屋の親父が売り込んで来た。価格なんと10万ウル!この世界紙は普及しているが印刷は活版印刷が主流でガリ刷りがようやく出て来た感じ。文字だけの本はそれなりに冊数が発行できる。だが図付き、しかも彩色は一冊一冊手作業なのでお高いのだ。
それにしても10万ウルトは、情報代も含んでるんだろうな。そうそう売れるものでも無いし値切って見るか。
ポーション20本分(中身のみ)を一本100ウルで後日追加で30本卸す約束で5万ウルの半額に値切った。
入れ物代引いても4万ウルの売上が見込めるので道具屋のオヤジとしてはさほど損では無いだろう。
「オネーしゃん…」
申し訳なさそうにするアス君に本を渡しながら、アス君に調合を教える約束をする。
そう、ポーションを自ら作ってもらえばいい。
「薬草採取に調合覚えてね」
「うん、頑張りましゅ」
「オレモ薬草採取手伝オウ」
「リュートは?欲しいものあった?」
「イヤ今ハナイ」
「じゃあダンジョン行こうか」
地図は買わなかった。二人にマッピングの練習も必要だと思ったから。
私?《エリアサーチ》と新しく
《地形探索》は扉の向こうもOKなのだ。ある程度の罠も感知可能。これで《気配察知》などのスキルもあげれば言うことなしだね。
ダンジョンに入準備は特にない。いや普通はあるけど《インベントリ》に食料から野営道具に至るまでなんでも入って居るので今更揃えるものはない。
私は剣のほかにクレイブを装備しました。
ではレイディを連れダンジョンの入り口に向かいましょう。
「パーティー名【金色の翼】メンバー1名、ポーター1名、獣魔のグ、グリフォン?う、あ、で間違いない、ですね、予定期間は?」
期間?特に考えてなかったな。まあ3日くらいにしておくか。
「とりあえず3日で」
「わかりました。…【金色の翼】は3日っと、では気をつけて」
確認をおえ、ギルドカードを返してもらい扉へ進む。高さ3メートル横2メートルの扉の片方が解放された状態だ。
二人はやや緊張している様だ。レイディは「Gyua!」っとひと鳴きいつも通り。
では出陣です。
扉をくぐると教室ほどの広いスペース。まず目につくのはど真ん中にある直径2メートル高さ3メートルの水晶の柱。
これは『転移水晶柱』と呼ばれるもの。この【四季ダンジョン】では5階層毎の中ボスを倒すと現れる階段部屋には真ん中に同じ様な『転移水晶柱』があり、『セーフティゾーン』になっていてモンスター達は入って来ない。
ただ稀に例外がある。魔物大発生の時とか、なぜか『転移水晶柱』が使用不能になるのでこの『転移水晶柱』が魔物避けになっていると考えられている。
各階層の『転移水晶柱』に触れるとこの入り口に転移でもどってこれる。反対に入り口の『転移水晶柱』から使ったことのある『転移水晶柱』へも転移できるシステムだ。
2度目以降無駄に1階から再出発しなくていいから便利だね。
ちなみに1~4階は小ボスを倒さなくとも階段部屋に行けるらしいのだが5階毎の中ボスはモンスターをスルーして進めない作りになっている。
正面の下り坂になっている通路を進むと【四季ダンジョン】1階だ。5階層までは春エリアになっている。
通路の中は向こうの出口から差し込む光でほんのり明るかった。
そこは一面花畑だった。かなりの広さで反対側の壁が見えない。
情報では25㎢くらいと聞いていたが天井には空が見える・・・
うん、深く考えるのはよそう。考えても無駄、ダンジョンはこういうものとして捉えておこう。花畑はそれなりに起伏があり所々に木が生えている。
「オネーしゃん、花畑には【ハニービー】ってモンしゅターがいて巣から蜂蜜が取れるんだって」
アス君が早速図鑑を調べてます。広げて見せてくれたページには【ハニービー】と巣がカラーで描かれている。
【ハニービー】は見た目ミツバチだが体長20センチもある。針には麻痺毒があり刺されると暫く痺れて動けない。大量に刺されると心停止するので要注意とな。これは魔法&飛び道具で遠距離攻撃だ。
「《
私の《探索》範囲は半径1キロほど(ちょっと延びた)情報では階段部屋は入り口の対になる位置と思われる。
ぽつぽつと小物&薬草各種ある様なのでレイディに周囲の警戒をしてもらいながら3人で採取しつつ進む事にする。
「Gyua!」『ご主人、なんかきたのなのヨ』
レイディの鳴き声にアレクス君が反応し、辺りを窺う。
「エル、多分ゴブリン、3匹ダカラオレガヤロウ」
タタタタタッ
シュパッ
「グェ」
ドサ
「ギュエェ」「ギャギャ」
ザシュッ、シュバッ
「「ギャァァ……」」
ドサドサ
テクテク…ブシュ
「エル、終ワッタゾ」
ええ、リュートの爪に斬性強化しましたから、切れ味抜群です。しかしリュート普通に動けるようになりました。解説しましょう。
タタタタタッと走りながらスローイングナイフをシュパッと投擲、一匹目のゴブリンの喉に命中すると、ゴブリンは「グェ」と呻いて倒れました。
残り2匹のうち1匹を爪で胴のところでひと薙ぎ、返す刃でもう1匹を袈裟がけに両断、「ギャァァ…」と叫びながら倒れるゴブリン達を尻目に、最初の喉をやられたゴブリンの元へ行き留めの心臓への一突きで終了です。
ゴブリンの右耳を切り落とし、額の部分を削り魔石を採取。死骸はダンジョン内では放置するとダンジョンに吸収されるので埋める手間いらずです。耳は小袋に入れポーチにしまって魔石も別の小袋に入れポーチにしまった。
リュートは人型の魔物に対する忌避はない様ですね、私もゴブリンはサクッとやれましたが。
爪に着いた血糊を《ウォーター》で洗い流し払うリュート。チョットした手入れで武器の寿命が変わるのでこれを面倒くさがる剣士は一流になれない。
もう、立派な冒険者だね。
ゴブリンの持ってた武器は錆びたナイフや棍棒なので放置しました。
この後1時間ほど採取を続ける間にレイディがゴブリン11匹、ハニービー15匹、角兎3匹。
リュートはゴブリン8匹、ハニービー5匹、角兎2匹を討伐。ハニービーはスローイングナイフで落としてからトドメを差す。討伐証明部位は針で、これは鏃とかに加工されるのだ。
アス君もクロスボウで角兎2匹、ハニービーを3匹ほどやっつけた。うん、命中率上がったね。
さてそろそろ下にいく階段があってもいいと思うのだが、目の前に小山があるだけだ。しかしその小山から『ブブブ、ブブ』って音が聞こえる。
「オネーしゃん、これハニービーの
え、図鑑のイラストよりデカくないかい?近づき過ぎてしまい途端にブブブブワーっとハニービーが大量に出てきた。これは個別にはむりだ。
「二人とも下がって《
火魔法の《ファイヤーウォール》だと上が空いてしまうので上級炎魔法で一気に殲滅。炎の竜巻に吸い込まれる様にあっという間に50匹ほどのハニービーの丸焼きが出来上がった。あ、討伐証明部位残ってるかな?巣の表面は焦げたけどそのままある。蜂蜜採れるかな。
これで終わりかと思いきや巣に近づくと『チキチキ、ブブブ』と言う音が聞こえてきた。
「【クイーンハニービー】でしゅ」
現れたのは体長50センチ程の【クイーンハニービー】。
キバをチキチキ鳴らして威嚇しながらお尻をこっちに突き出す。
シュッ、シュッ
「危ナイ!」
カンカン!
アス君を狙って【クイーンハニービー】が針を飛ばしてきた。それをリュートが爪で弾く。
私がクレイブで飛んでる【クイーンハニービー】を斬り落とそうと思ったが、
シュシュッ、トストスドスッ
あ~、リュートのスローイングナイフが2本【クイーンハニービー】の胴体に、アス君のボルトが眉間に刺さりあっけなく落ちた。
しばらくウゴウゴしてた【クイーンハニービー】が徐々に動きが少なくなり、パタリと力つきるとなぜか小山の様な巣がごごっごごごっと音を立てて崩れ出した。
崩れていく巣の向こうに階段部屋へ続く通路が現れる。【クイーンハニービー】がこの階の小ボスだ。
あれ?小ボス倒さなくとも階段部屋へ行けるはず…と思ったら巣と通路に結構距離がありました。裏に回れば戦わなくとも良かったのか?
ハニービーの巣が無くなった後にはなぜか某黄色いクマの縫いぐるみが抱えてそうな陶器のツボが3つポツンと残っていた。
蓋をあけると中には蜂蜜、しかも《鑑定》すると1つは【マジェスティハニーゼリー】となっていた。ドロップ品ゲットだぜ。
みんなで取れそうなハニービーの針と魔石を回収してから階段を降りた。階段部屋でお昼ご飯にしよう。そう言うと二人は手を繋いで
「ごっはん、ごっはん、きょーおのおっかずは、なーにっかなぁ」
と歌いながら階段を降りる。
アス君の歌に合わせてレイディが時々「Gyua!Gyua!」と、合いの手を入れていた。
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1階の獲得品
ヒール草55本、マナ草89本、ロキ草43本、ゴブリンの耳22、ハニービーの針53本、クイーンハニービーの針1本、角兎5匹、蜂蜜2壺、マジェスティハニーゼリー1壺
魔石
ゴブリン22個、ハニービー59個、クイーンハニービー1個、角兎5個
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