第8話 イベントって起こるんだ
エイデ辺境伯領都城壁が見えて来た。領都イチニは大昔は隣のウェイシア王国に対する防衛拠点の城塞であった為塀が高い。今はリュミエール神皇国とオルフェリア王国と三国同盟結んでいるから諍いなんてないけど。
領都は従魔などを連れて入ることが出来るのでレイディも連れて行ける。城壁近くまで飛んでいくと飛行魔物と間違えて撃ち落とされるので手前で降りて街道を歩いて領都入りしなければならないけど。
ふと前を見ると街道に土煙が上がっている。
「馬車でも跳ばしているのかしら」
人通りの少ない街道を突っ走る馬車、もしかして…
「レイディ、近くまで行ってみましょう」
『あいなのヨ、御主人』
まず見えて来たのは馬に乗ったボロい装備の男達5人。その前を2頭立ての上等な馬車と、その脇をブレストプレートの剣士が馬で並走している。彼はごえいだろう。
コレは間違いなくアレだ。テンプレキターー!
「レイディ、馬車の横の馬に寄せて」
「Gyua!」
ひと鳴きすると高度を落としながら馬車に近づく、ボロい装備の男達の頭上を追い越した時、男達の驚愕の表情が見えた。うん、どこから見ても【盗賊】だ。こんな真昼間から出るんだねぇ。
馬車の少し手前で着陸し、レイディは走って護衛の剣士の横に並んだ。護衛の剣士は一瞬ギョッとした顔を見せたが、すぐさま剣を構えた。
「盗賊に追われているとお見受けしますが、ご助力いたしましょうか?」
盗賊の仲間と間違えられて攻撃されたくないので助けがいるか声をかける。いつも思うが考えを言葉にすると自然に上品な物言いができる。教育が染み付いてますね。
「出来れば、お願いしたい」
「承りました」
馬車を引いている馬はそろそろ限界のようでスピードが落ちて来ている。レイディに止まるように合図して、後方の盗賊を振り返る。
「《
魔法一発、盗賊の進行方向に突然高さ1メートルの石の壁が出現する。先頭とその左右を走っていた三頭の馬が止まる事も避ける事も出来ず脚を取られ転倒した。その勢いで乗っていた男達はゴロゴロと転がり落ちる。よかったね馬の下敷きにならなくて。残り二頭はギリギリ止まったようだ。
レイディからヒラリと飛び降り剣を構えた。
「さて、今なら見逃して差し上げますが」
転がった3人の内2人が立ち上がる、1人は打ち所が悪かったのか気を失っているようだ。無事だった2人も馬から降りそれぞれ武器を構えた。
「は、言うじゃねえか、お嬢ちゃんよ。多少魔法が使える様だが、男5人に勝てると思ってんのか」
「そちらこそ、何かお忘れじゃありませんか?」
ばかだ、こいつら。私の言葉に後ろのレイディが吼える。
「Guryuuu~」
「「「「ひっ」」」」
あ、レイディの威圧にやられてやんの。私がグリフォンに乗ってたの見てたろうに。
「くそっ、引くぞ」
武器を構えたまま後退る4人、気絶した奴は放置のようだ。馬に乗ろうとした男達は、泡を吹き硬直した馬の姿に驚く。馬達はさっきのレイディの威圧にやられてました。
「チッ、畜生」
1人だけ私に剣を振りかぶって向かって来たが、残りは走って逃げようとする。見逃すほど甘くないよ。
「レイディ!」
「Gyua!」
逃げた3人はレイディに任せ、向かって来た男に対処する。おお振りに振り下ろされた剣を半身を躱して避けつつ脚を引っ掛ける。男はつんのめったものの持ちこたえたが、すかさず剣の腹で背中を殴りつける。
「グエェ」と潰されたカエルのような声を出したところに、剣を振りかぶり、しかし柄頭で頚部に一撃を食らわして意識を狩った。うん、呆気ない。戻って来た騎士に声をかける。
「ロープか何かお持ちですか?」
「あ、ああ持ってくる」
いやに顔色が悪いな、この騎士。汗いっぱいだし、あれ?そう思ったら騎士の身体がぐらりと揺れ膝から崩れ落ちる。
「ウイル!!」
馬車から飛び降りて来たのは10歳くらいの女の子、上等なドレス姿といい、馬車と言いどっかの貴族令嬢だろう。ウイルと呼ばれた騎士を見ると、腹の一部が破れ血が滲んでいる。ああ、やられたのか。結構深そうだぞ。こんな怪我で馬を走らせ剣を振るってたのか。
「ウイル、ウイル」
ご令嬢は苦しそうな騎士を揺さぶる、やめたげて、苦しそうな上、出血増えるよ?
「お嬢さん、ちょっと失礼」
ご令嬢を護衛から引き離すと、後ろからメイド服のおばさん(うん、おばさんだ)が馬車から降りて来てご令嬢をおいかけて来ていたのだろう、ご令嬢を引き受けてくれた。
護衛は剣を突き立て懸命に倒れないよう耐えている。バックから出したように見せかけてインベントリからヒールポーションの小瓶を出しふたを開ける。魔法使った方が早いけど魔法使うの見せたくないんだよ。
「飲めますか?ヒールポーションです」
疑わしげに睨む護衛。え~、ヒールポーションに一服盛るなんてしないよ?そんな手間かけなくとも放置すればいいんだし。
「お疑いでしたら毒味しますが?」
「いや、かたじけない」
逡巡したのは一瞬で、騎士は小瓶を受けとり一気に飲み干す、あ、半分傷にかけた方が良かったのに…仕方ない。インベントリからもう1本取り出し傷にふりかける。
「かたじけない」
「いえ、困った時はお互い様ですよ、とりあえず休んだ方がいいでしょう。傷は治っても失った血は戻りませんから」
護衛に肩を貸し街道横の木陰に座らせると、ちょうどレイディが戻って来た。口に2人加え(キチャナイ)前脚で1人引っ掛け引きずっている。御者が馬車を引いて戻って来たので盗賊の乗っていた馬を集めてもらう。護衛はメイドにまかせた。
ご令嬢は護衛の横に跪いてオロオロしている。
インベントリからロープ(ホント、なんでもはいってるよな)を取り出し、盗賊の手を後ろにしばり端をもう1人の首に括るという作業をする。逃げると仲間の首が閉まるという寸法だ。え、だって目覚めて逃げられてもめんどいし。レイディには角兎のモモ肉をあげ、殺さずに連れて来たので褒めておく。んじゃこいつら放置で護衛の様子見にいこう。
顔色はまだ悪いが随分マシになった様だ。メイドに水をもらって飲んでいる。ご令嬢も落ち着いたようだ、近づくと立ち上がってお辞儀をする。護衛も立ち上がろうとしたので手でそのままでと、制止する。
「危ないところをお助けいただきかたじけない」
「ウイルだって不意を突かれなかったらあんな連中一捻りだったんだからっ」
いや、お嬢さん、不意打ちくらった時点でダメでしょ。それが解っているのか護衛はご令嬢を見て苦笑する。
「私はウイリアム=カーチス、こちら「わたくしはアンネロッテ=クロード、ウェイシア王国、クロード辺境伯爵令嬢よっ」」
護衛の言葉に被せ気味に自己紹介をするご令嬢、護衛もメイドも、御者もあ~あって顔をした。馬車に紋章がないし、この護衛多分騎士だろうけど紋章なしのブレストプレートだし、お忍びだったんじゃね?ご令嬢台無しだよ。護衛の困り顔を見て「あっ!」って言ったよ。こっちはにっこり笑顔で返しておく。
「私はエルと申します、冒険者になる為領都イチニに向かう途中でした。こちらは私の従魔のレイディ」
紹介されたレイディは「Gyua!」とひと鳴きした。
「魔法といい、その従魔といい、どちらかのご令嬢かと思っておりましたが…いえ、我らもイチニに向かう途中でした本当にありがとうございます」
騎士さんはお互い事情ありと判断したのか追求を避けた。何か言いたそうなご令嬢をメイドが抑えている。
「お邪魔でなければイチニまでご一緒しませんか。あいつらに背後が無いかどうか尋問するにもイチニへ連行しなければなりませんし、ウイリアムさんもヒールポーションを飲んだとはいえ、今日1日は無理しない方がよろしいでしょう?」
「よろしいのですか、お言葉に甘えさせていただきます」
ここからイチニまで馬車だと1時間くらいか、その間の護衛も必要だろう。御者と2人で盗賊を叩き起こし馬に乗せる。馬の怪我はこそっと《
ウイリアムさんには馬車に乗ってもらって出発だ。レイディに乗って馬車の横を並走する。
これってラノベによくある【盗賊に襲われている馬車を助ける】ってやつよね。
ヤッタネ!テンプレイベントクリアーだ!
イチニまでの道中、特になにも起こらなかった、ヨネ?
馬車の窓からご令嬢が顔を出して話しかけてくるぐらいで。
「ねえ、どうやったらグリフォンをテイムできるの?
ねえ、わたくしもグリフォンに乗ってみたいわ
ねえ、女性に人気があるのはペガサスって聴いたけどペガサスはいないの?
ねえ、わたくしも大きくなったらテイムできるかしら。
ねえ、あなた腰に剣を差しているけど女性でその剣は重くないかしら?
あれ、あなた他に荷物はないの?もしかしてマジックバックなの?
ねえ、わたくしもマジックバックが欲しいとお父様にお願いしてるの、でもまだ早いって 」
「お嬢様!!」
さすがにメイドが止めた。申し訳なさそうにこちらを見て頭を下げる。
騎乗用の従魔として人気があるからと言って誰でもテイムできるわけではない。大型の騎乗用モンスターをテイムしているのはかなりの実力者だ。
学園在学中にワイバーンをテイムできれば、卒業後無条件で【翼竜騎士団】に入ることができる。【翼竜騎士団】は【近衛騎士団】に次ぐエリートと言われている。【翼竜騎士団】の団長は火龍に乗っているが、ほぼ式典要員と化しているとかいないとか。大きな戦争はここ30年ほどオルフェリア王国では無い。これは現王の政治手腕の賜物と言われている。王妃様は隣国ウェイシアから嫁いで来られた現ウェイシア王の従姉妹にあたる王族だったんだ。
しかしよく喋るご令嬢だ。
「そうですね、女性に人気のある騎獣は確かにペガサスですが、ペガサスをテイムしている女性の話はあまり聞き及んでおりませんね。私の騎獣はこのレイディだけですし」
「そうなの?残念だわ。わたくし14歳になったらオルフェリア王立学園に留学しますの。お父様がおっしゃるにはウェイシア王国の学園より良い魔法の先生が揃っているらしいですの。
いまのオルフェリア王太子の婚約者のディヴァン侯爵令嬢はものすごい魔法の使い手なんですって」
ぎっく~、そんな噂隣の国まで流れてるの?そりゃ時期王妃だしありえなくないか。まさか姿絵とか出回ってないよね。オルフェリア国内ではそれなりに顔を知られている(貴族階級限定)けど、ウェイシア王国までは大丈夫と思ってたが慎重にした方がいいかも。ーあ、でも婚約破棄までは知られてないのね。
「そろそろイチニに着きますよ、検問に並ぶ人達が見えてきました」
ほっ、良いタイミングだった。これでご令嬢のお喋りが終わる。入都を待つ検問の列の最後列に馬車をつける。途端に周りがざわつき始めた。なに?馬車に貴族の紋章つけてないから貴族側の入り口に並ばなくてもおかしく無いよね。あ、盗賊つないでるから?
「おい、あれグリフォンだぜ」
「ひぃ、モンスターがっ」
「人がのってる、グリフォンってテイムできるのか?」
「うわっ、喰われる~」
……って、私ですか?こんな大きな街なんだから従魔連れくらい珍しく無いだろうに。
ざわつきが波紋のように伝播していく。ん?門の方から兵士っぽい人が走ってきた。
「どこにモンスターがって、うぉっ!グ、グリフォン?」
兵士っぽい人が槍を構える。あのですね〜、人が乗ってるんだから野生じゃ無いですよ?従魔ですよー。
「槍を向けないでください。この子はむやみに人を襲いません、私の従魔ですから、ねえレイディ」
「Gyua!」
冷や汗をかいている兵士っぽい人にレイディがひと声鳴いて挨拶をする。その時、馬車からウイリアムさんが出てきた。
「イチニの警備隊の方ですか、ちょうどよかった、途中襲ってきた盗賊を捕まえ連行してきたのですが引き渡してもよろしいでしょうか」
「なに、盗賊だと、ちょっと待ってくれ、俺1人では無理だ、上司を連れてくる」
警備隊(でしたか)の男はウイリアムさんの話を聴くとまた走って行った。男は上司らしき男のほか、同僚2人、計4人でやってきた。そのうちの上司らしき男が話を聴くということで私とウイリアムさんを門横の警備隊詰所に案内した。テーブルに向かい合わせに座ると、
「俺はイチニ警備隊第3隊副隊長のビルだ。さっそくだが身分証を見せてもらえるか」
ウイリアムさんは身分証を取り出して渡した。私は新たに考えた言い訳を言って見る。
「実はグリフォンで飛行中に荷物を落としてしまいまして。身分証をなくしてしまったんです。戻って再発行してもらうより、イチニで冒険者登録をして新たに作ろうと思っている次第です」
テヘペロってか?ビルさんは立ち上がって出て言ったと思ったら水晶玉のようなものを持ってきた。
「判定球だ、手を乗せてくれ」
言われるまま右手を乗せると、判定球と呼ばれたそれは青く光りを発した。これは犯罪歴があると赤く光る。仕組みが全くわからない
「問題ない、それじゃあ入街税五万メルだがこれは冒険者カードを持ってくれば返金される。あと、あんたは従魔を連れているから、従魔の入街にさらに五万メル。これも街で従魔が問題を起こさなければ出ていくときに返金される」
合計十万メル、日本円で言うと十万円くらいか、結構するな、ま返ってくるからいいけど。
通貨単位はメル。同盟三国共通単位でそれぞれの国が発行した貨幣のデザインは違うが問題なく使える。ユーロみたい?お札はなく最小貨幣が十メルの小銅貨、百メルが大銅貨、千メルが小銀貨、一万メルが大銀貨、十万メルが小金貨、百万メルが大金貨である。
カバンをゴソゴソするふりをして大銀貨10枚をインベントリから出してテーブルに置く、小金貨もあるけど、普通平民はあまり持ち歩かない。
ちなみにウイリアムさんは隣国の騎士の証明書だったので五千メル、平民だと大人千メル子供五百メルだそうだ。
ビルさんはお金を数えるとキャッシュカードサイズの銅板(五万メルの預かり証だ)と従魔の証明用の首輪を渡してきた。首輪は魔道具でサイズ自動調整機能付き。壊すと弁償として五万メルは戻ってこない。今レイディは馬車のところで待っている。
盗賊は別室で取り調べられ判定球は当然赤く光り牢屋にぶち込まれ、別途詳しく尋問される。盗賊確定だと死ぬまで鉱山で働かされる。この国奴隷制度ないから。でもガガート帝国には奴隷いますけど。逃亡奴隷とかの引き渡しでよく揉めるんだよね。
ウイリアムさんが経緯を説明する。
「犯罪者である事は確認できたので、盗賊1人につき捕縛で1万メル、犯罪歴によって報奨金がでる。後日連絡を入れるので連絡先を教えて欲しい」
「捕らえたのはエルさんなので、報償金はエルさんが受けとってください」
ウイリアムさんはそう言って報償金を辞退する。私?今後お金も何かと必要なので遠慮しませんよ。私はビルさんにお風呂に入れるおすすめの宿を聴きそこにしばらく滞在する事、移動するときは知らせることを伝え警備隊詰所の扉からイチニに案内された。
「ようこそ、エイデ辺境伯領都イチニへ」
ビルさんはそう言って送り出してくれた。馬車の一行は私たちが警備隊詰所にいる間に手続きを済ませたようで警備隊詰所の領都内側の入り口の前で待っていてくれた。レイディも素直について来たようだが、なんだかビクついてる警備隊員に警戒されてるよ。
ん〜、無事イチニに到着しました。
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