第6話 村は追い出されました
「イナミ、イナミはおるか?」
玄関からの呼び声にイナミさんはレミーちゃんの部屋を出て行った。ナミルさんは薬を飲ませる為レミーちゃんを抱え起す。熱でぼーっとしてるようだ。潤んだ眼でこっちを見る。解熱薬をひと匙、その後水をコクリと飲む。問題は解毒薬、蜂蜜をいれてみたがかなりニガニガなんだよね。
「ゃぁ…にがぃ」
やっぱり、レミーちゃんって5歳くらいかな、子供には辛い苦さだ。ナミルさんが優しく諭す。
「レミー、このお薬を飲まないと元気になれないのよ」
「やぁ…まま」
よし、じゃあインベントリからゴソゴソ(インベントリ音しないから)…あった。取り出した瓶の蓋を開け中身を一粒とりレミーちゃんの口に入れる。
「レミーちゃん、ぽい」
「んん、あま~い、?おねーちゃんだあれ?甘いのおいしぃ…」
「おねーちゃんはパパのお友だちだよー、甘いのはね、金平糖っていうの」
そう、金平糖。これも子供の時パパンに貰ったモノ。確か色違いで5個ほど貰い、ちょっとづつ食べて最後は……忘れてしまったのだね~その存在を。ピンクの星が入った小さなガラス瓶をレミーちゃんの眼の前で振って見る。
「にがーいお薬をちゃんと飲めたらご褒美にあっま~い金平糖、レミーちゃんにあげるよ。だから頑張ろう」
レミーちゃんの視線が金平糖と薬を行ったり来たり、最後は金平糖をじいっと見た。
「…のむ」
「ん、いい子だね、レミーちゃん」
ナミルさんが口に薬を持っていくと、レミーちゃんはぎゅーっと目を瞑りイッキにごっくん、「んんん~」と言いながら手を彷徨わせ水を求める。ナミルさんが水を渡すとこれまた勢いよくごっくんした。こっちを見て“苦いの飲んだよ~”って涙目で訴える。キャワええのう。
「偉いね、はい、お口あーん」
まるで雛か鯉のようにパクリと開いた口に、ぽいっと金平糖を入れると、口角を上げた弱い笑いが可愛らしく、また力の無さが痛ましい。疲れた様子を見せたのでナミルさんはレミーちゃんを寝かせ毛皮をかけた。
熱で体力奪われてるから金平糖はカロリー補給にもなるだろう。コルクの蓋を閉めて小瓶をレミーちゃんの手に持たせてあげた。
「ありあと、おねーちゃん」
「いいんですか?、そんな高価なものを」
恐縮するナミルさん。砂糖は平民には高価なのだ。その砂糖の塊と言っていい金平糖は当然高級品扱い。
「(7年くらい前のw)貰い物ですから気にしないで下さい」
レミーちゃんはすーすー寝息を立てはじめて眠ったので看病を続けるナミルさんを残し部屋を出た。テーブルにイナミさんとお爺さんが座っていたが、私の姿を見て立ち上がる。
「イナミを助けていただき礼をいう、村長のワスカじゃ」
「いえ、運良く通りかかって、お助けできて良かったと思っています」
「ところでお前さん、身分証を門で確認しとらんじゃろう、見せてもらえんか」
おおっと、やっぱりそう来ましたか。スルーできるかと思ったけど、パパンの指導行き渡ってるじゃん。
「デュナン領を出るときはあったんですが、領境で魔物に遭遇したときに驢馬ごと荷物を失くしまして困っている次第です」
デュナン領は王都とディヴァン領の間にある伯爵領だ。うちと違ってデュナン領は領主主体のモンスター討伐はあまりされていない。なので塔の近くの領境の森は結構モンスター遭遇率が高い。パパンはデュナン伯爵に再三魔物討伐を依頼しているが放置され、ディヴァン領に流れてくるのだ。
そんな訳で領境で魔物に遭遇してもおかしくないし、驢馬と荷物を失くしたと言えば小さなバック(マジックバックだけどね)しか持っていなくとも怪しまれない。こんな荷物の少ない旅人はいないから。
「そうか、助けて貰っておいてなんだが、ディヴァン領では身分証の無い者を村におく訳にいかんのじゃ、すまんが出て行ってもらおう」
「そんな、村長、私とレミーを助けてくださった恩人です、そこをなんとか」
村長のことばにショックを受けたイナミさんが説得しようとしてくれる。でもまあいいや。パパンの指示をしっかり守ってる立派な村長さんだ。
「イナミさん、いいんですよ、身分証を持たない私が悪いのですから。村長さんは領主の指示を守る立派な方ではないですか」
「そんな…」
悔しそうなイナミさんににっこり微笑みかける。
「食料が乏しかったので小麦粉や乾燥野菜が欲しいところですが、エイデ領の領都ならば身分証がなくとも入都料を払えば入れますし。そこまで狩や採取をしながらいけばなんとかなるでしょう」
「いや、恩人に対して礼もせず追い出すほど恥知らずではないつもりだ。食料はこちらで用意しよう」
あら、言ってみるものね、食料ゲットだぜ!お肉は道々狩りながら集められるし、調味料も隣のエイデ領までは余裕と思う。まあインベントリに何がどれくらいあるのか確かめないといけないなぁ。
インベントリからモノを取り出すには欲しいものを思い浮かべ、該当するものがあれば脳内にリストアップされる感じなのだ。色々な物を入れた事も忘れてる(と言うより意識的に忘却したふしがある。【片付けできない】状態からの逃避ではないかと私衣瑠は思うのだよ)
前世の記憶を取り戻す前の自分エレーニアと前世の自分衣瑠は微妙に性格が違った様だが今の自分はどうも混ざり合ったのかどちらも自分の様で自分でないみたいな中途半端な感じがする。
「ありがとうございます、村長さん。ではお言葉に甘えさせていただきます」
村長に向かって頭を下げる。
「いや、礼を言うのはこちらの方じゃ。イナミをゴブリンから助けてくれただけでなく、病気のレミーの薬まで分けて貰ったのだから、重ねて礼を言う」
村長も頭を下げてから、門の所で待ち合わせする約束をし、用意をすると言ってイナミさん家を出て言った。では私もそろそろお暇しよう。その前にインベントリから探し物。
「では私も失礼します。イナミさん、レミーちゃんの体力が落ちれば解熱薬の効きも悪くなるのでその時はコレを飲ませてあげてください」
インベントリから出した初級ポーションの小瓶を渡す。ナミルさんがレミーちゃんの部屋から出てきた。村長との話を聴いていたのだろう。
「色々よくしていただいたのにこれ以上はいただけません」
と、小瓶を押し返す。
「可愛い女の子が苦しんでいるのに見て見ぬふりはできませんよ、私にも小さな弟がいたんです…」
二人はハッと息を飲みお互いの顔を見合わした。
小さな弟がいた・・・・・・・…嘘じゃ無いですよ、もう大きくなっただけで。こんな言い方すれば勘違いするでしょうけど、も一度言っとこう、嘘じゃ無いです。
「「ありがとうございます」」
二人は深々と頭を下げた。では門の所で村長が来るまで待ちますか。
待つことしばし。
村長さんが結構大きな背負い袋を持ってイナミさんとやってきた。
「袋に小麦粉と何種類かの乾燥野菜を入れてある。結構重いが大丈夫かの?」
17歳のボンキュッボンの美少女だが剣を振り回す体力も腕力もあります。村から離れればインベントリに入れるしね。
「大丈夫です、こう見えても冒険者になろうと鍛えていますから」
背負い袋を受け取り一旦足元に置く。マジックバックから取り出すふりをしてインベントリから魔石をいくつか取り出した。小麦粉の料金としてはお釣りが出るだろう数を。
「ありがとうございます、少ないのですが代金がわりに」
魔石を村長さんに渡す。小さな農村だから金銭の余裕はあまりないと思う、領主パパンの娘として領民に負担はかけられないのだよ。村長とイナミさん二人と多少押し合いながらも受け取ってもらった。
ガルフさんが門を開けてくれたので背負い袋を持って出る。最後に三人に別れを言って歩き出すと静かに門がしまった。じゃあ次目指しますか。
塔で1週間ボッチで過ごしたせいか、久しぶりの人間イナミさんに思わぬ肩入れをしてしまった。
道中 〈エリアサーチ〉で獲物を探しつつ移動する。アオ村を出たのは昼をとっくに回っていたが日暮れまで頑張って進んだ。
獲物:角兎3匹、角豚2匹、食べれる野草、各種薬草、各種茸類。
何気に豊作だ、この辺りの土地は肥えているようで、季節も春というのがよかったのだろう。
狩りながらなので大して進めなかった。明日はもう少し進もう。では早めに夜営準備しますか。
街道脇の森の中で夜営に良さげな場所をさがす。今日は〈ストーンウォール〉で高さ2メートルの壁も作って中に一人用テントを張った。インベントリにあったテントも魔道具です。魔力を流すと形状記憶よろしく勝手に広がる。そしてテントの中に塔から持って来たベッドを出すと余分なスペースが無くなった。まあ寝るだけだしいいか。
ついでに闇魔法の〈認識阻害〉と〈気配消去〉もかけておく。念のため〈ウインドバリア〉に〈
さて、貰った小麦粉使ってパンをこねる。と言ってもイーストないからまたナンもどきだ。街に着いたらイースト買わないとな。まあ焼きたてパン買ってインベントリに入れて置く方が楽だが、備えあれば憂いなしと言うし。獲物は全部解体して角豚とキノコと山菜使ってシチューを作る。ミルクがないのがさみしい。焼きたてナンもどきで夕食をすます。本日も美味しゅうございました。
流石にお風呂は無理だ、何かいい魔法ないかな。光魔法の〈
「〈ピュリフィケイション》」
白く淡い光が身体を包み込む、なんだか暖かくって気持ちがいい。あ、終わった、だいたい3秒くらいかな、見回すと服の汚れがなくなっている。身体も微妙にさっぱりした感じがする、コレは成功ではないだろうか。よし、お風呂の気持ちよさとは違うが野宿でコレはいい方でしょう。食器系もコレ使えるのかな?でも洗い物に〈ピュリフィケイション〉まで使うのはちょっと気がひける。まあ、水魔法でできるし、寒くなったらお風呂の時みたいに水と火の合成魔法の〈ホットウオーター〉で洗えばいい。さあ寝ましょう。
朝です。あた~らし~い~あ~さがきた、きぼ~うのあ~さ~が〜きた~よ~
顔を洗ったら朝ごはんだ。昨日のナンもどきがインベントリ内でホカホカで保存。魔道オーブンとかあったらいちいちフライパンでひっくり返したりせずに焼けるのにな。大きな街に行ったらさがしてみるか、流石にインベントリには無かった。角豚のお肉をスライスして塩胡椒で焼く、野草と一緒にナンもどきに挟んで昼用のサンドイッチにする。
朝食は昨日のスープの残りとナンもどきに角豚炒めです。うまうま、合掌。
では片付けのち出発、今日も狩りながら参りましょう。〈ストーンウォール〉で作った石壁は忘れずつぶします。
そしてひたすら歩く
テクテク
テクテク
あ、獲物みっけ。
テクテク
今度は野草みっけ。
テクテク
そんな感じで街道を歩き続けるが今日はたいして事件も起こらず、1日が終わってしまった。
今日の獲物:角兎3匹、角猪1匹、角鼠3匹、しかし角鼠は食べる気しないので魔石角だけとって後は森の栄養。食べれる野草、薬草、茸類。
昨日から《エリアサーチ》使いっぱなしの所為か熟練度が上がり検索範囲が広がった。ヨシヨシ。
野営準備しよ。
う~ん、もう朝か、2日目にしてテント暮らしに慣れて来たな。と言ってもベッドと各種魔道具と、インベントリのおかげでかなり快適生活ですが何か?
ちょっとゆっくりし過ぎか?ほとんど距離稼げてない。ある程度肉ゲットしたのでスピードアップしよう。通常徒歩だと隣のエイデ領まで5日、さらにそこから隣国ウェイシア王国まで馬車を使ったとして10日ほどかかる。
エイデ領都に着いたら冒険者登録だけして速攻隣国に行こう。国内では偽名を使っていても見つかる可能性が高い。うちのパパン優秀だし。
『旅に出ます、探さないでください』って置き手紙した………した?………あれ?したっけ?書こうとして後でって思って………
ヤバい、忘れたよ、置き手紙。しかし今更戻るのも邪魔臭い。どうしよう、でも塔に幽閉して放ったらかしにされたんだから逃げたって仕方ないって思ってくれるよね。うん、ダイジョーブ、ダイジョーブ(棒読み)
移動速度を上げる方法はいくつかあるが、ここは自力より他力、とゆうことで。
【召喚魔法】行ってみよう!!
学院では召喚魔法を使って模擬戦をする授業があった。乙女ゲームの中で【召喚獣バトル】がある設定だからかな?ミニダンジョンRPGの中で倒したモンスターと【従魔契約】し、召喚魔法で呼び出すとやってきて、相手の従魔と戦うのだ。どこぞのポケ◯ンバトルのようだ。
契約した従魔は小型なら学園の自室で自ら世話するが大型の従魔は厩舎で世話をしている。エレーニアの契約しているのは大型なので春休みで王都の自宅に戻った時、自分ちの厩舎に連れて帰った。今頃寂しがってるかも。では従魔さんをお呼びしよう。
「君に決めたっ!!〈
君に決めたって呪文は必要ないw言ってみたかっただけだから。
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