セウスベルグの飛獣騎兵 エピローグ
「お手柄だったな」
「いえ……」
戦闘隊がきたのは、キヴァリが魔獣たちを捕縛してからすぐのことだった。
その戦闘隊を指揮していたのは、なんと部隊長であるドミニク・ブレイハであった。
後の始末を全て戦闘隊に任せると、ドミニクはアダルベルトと人の姿になったラウラを呼んだ。ふたりは彼についていき、魔獣討伐の現場から少し離れた場所で立ち止まった。
「魔獣が現れるとは想定外だな」
「そうですね……」
今回の訓練はただの哨戒任務だったはずなのに、いつの間にか魔獣討伐任務に変わってしまっていた。
一気に経験値が増えた気がする、と遠い目をしながら思う。
「本当は偵察部隊がお前を襲うはずだったんだがなぁ」
何でもないように言われた言葉に、アダルベルトは素っ頓狂な声を上げた。
「は?」
彼の発した言葉の意味を、理解することを頭が拒んでいる。
「正しくは偵察部隊の飛獣が、魔獣のフリをしてお前たちを襲う予定だった」
驚きのあまり、気が遠くなった。
「……何故とお聞きしても?」
「何故って……訓練に決まっているだろう。突然のことにも、どの程度対処できるかどうかを見るためにな」
当たり前のように言われてしまい、アダルベルトは納得する反面、訳もなく意気消沈した。
「本物の魔獣が出てきたおかげで偵察部隊は暇そうだったがな」
……それはそれは。待機していた偵察部隊のみなさんご愁傷様です。
と、いうことは。
「もしかして、ブロニスの方にも?」
彼もまた、先日飛獣を喚び出すことに成功していた。ラウラと同じ鳥の姿をした飛獣。彼も飛獣を喚び出してから慌しくしていたからまだちゃんと会えていなかった。
今日はブロニスも訓練という名の哨戒任務に出ているはずだ。彼の方にもひとり、キヴァリと同じ戦闘隊が同行していた。
「もちろんだ。あちらも見てきたが……偵察部隊が張り切って戦っていたな」
それは……なんというか、本物の魔獣が出てくれて良かったかもしれない。
あとでどんな風だったのか彼に聞いてみよう。そしてこちらで起こった出来事を話してみよう。彼ならば、全部笑い話となってしまうだろうが。
アダルベルトがそんなことをつらつらと考えていると、ふっと息を吐き出す音が耳に届いた。
「……まあ、これでお前の周りもしばらくすれば落ち着くだろう」
アダルベルトがドミニクを見ると、彼はぎこちなく笑みを浮かべた。
「?」
彼がそんな笑みを浮かべる理由が分からずに首を傾げる。
「あいつらも悪い奴ではないんだ。ただ、〈
「それは……」
これまでのことを言っているのだと気付いた。そのことについてドミニクから何か言われたことは無かったので、彼は知らないのだと思っていたのだが。
「私が何とか言っても良かったんだが……それでは、贔屓になってしまうだろう?」
確かに、それは一理ある。
アダルベルトが彼らの側であったならば、何故あいつだけ、と思ったに違いない。
それでもここ最近は、息苦しい思いをしたのだ。もしもできたならば、何か一言ぐらいあっても良かったんじゃないかと、思ってしまう。彼が悪いわけでは、ないのに。
「それに、これで屈するほど柔では先が思いやられると思ってな。あえて傍観していた」
「……」
信頼されている、と思っていいのだろうか。
不安が焦りとなり、視線を逸らしてしまいそうになるのを堪える。
だが、彼の動揺は表れていたのだろう。ドミニクは結んだままの唇に、微かな笑みを浮かべた。
「――改めて君たちに伝えるとしようか」
飛獣騎兵部隊の部隊長はびしっと姿勢を正した。
それに習うように、アダルベルトも自然と背筋が伸びる。その隣でラウラも同じように直立した。
「ようこそ飛獣騎兵部隊へ。我々は君たちを歓迎する」
目を丸くしたアダルベルトはラウラを見た。彼女はその視線に気付き、見上げてくる。――そこに、不安の色は見えなかった。
「大丈夫です」
それで深い安堵を覚えた。感じていた不安も一気に吹き飛んでしまった。
ドミニクに向き直ると、アダルベルトは頭を下げた。
「よろしくお願いします」
こうして、飛獣騎兵アダルベルトとその相棒である飛獣ラウラは飛獣騎兵部隊としての一歩を踏み出したのであった。
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