体脂肪

鐘辺完

体脂肪

 山に造成されたニュータウンの坂の続く道をジョギングする。

 朝はまだ自動車もあまり走っていなくて空気は新鮮で清涼だ。

 これまでろくに走ったことがないからすぐに息が切れてしまうが、すぐに慣れるだろう。

 とにかく、体脂肪を落とさないといけない。


 後ろから誰かが走ってくる気配があった。

 見ると、二十歳くらいの女性がリズミカルな足取りで走っていた。

 彼よりもペースが速く、すぐに追いつかれた。

「おはようございます」

 女性はにこやかに会釈をした。

「あ、おはようございます」

 彼は照れたように少し口ごもりながらあいさつを返した。

 ふたりは自然に並んで走った。

「初めてお会いしますね。今日ジョギングを始めたんですか?」

「はい。そうです。今日から」

 彼女は走っていることを忘れてるかのように普通に話すが、彼は短く息を放つようにしゃべることしかできなかった。

「ダイエット、しようと、思って」

「ジョギングは体脂肪燃焼にはいいですけど……」

「そうです。体脂肪、を、減らさないと、いけないん、です」

「ってあなたは『体脂肪計つき体重計』であって『体脂肪つき体重計』じゃないですよ」


 体重計はその日だけでジョギングをやめた。

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体脂肪 鐘辺完 @belphe506

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