第６６話 対処法は諸刃の剣
パンッ！
ピコハンの拳がスライムの表面に触れると共にスライムに波紋が広がり少し凹む。
だが直ぐに凹んだ部分は中から押し戻され何事も無かったかのように元通りとなった。
「ちっ打撃は効かないか」
後ろに飛び退いてスライムから距離と取ると同時にスライムの触手の様な物が先程ピコハンが居た場所へ降り注ぐ！
叩きつけるというより飲み込むつもりなのだろうと理解したピコハンは忘れていた。
「いてっ？！」
後頭部に触れたクリオネが数匹同時に破裂して衝撃が走ったのだ。
流石に無意識の方向からの攻撃にはピコハンも痛みを大きく受けて一瞬視界が揺らぐ。
慌てて自身の後方へ裏拳を振り回す！
パパパパンッ！！！
その拳に更に数匹のクリオネが破裂しピコハンの拳を傷つける。
「ってこいつの破裂なんか強くなってないか？！」
ピコハンは当たった拳の皮が破裂の衝撃で切れているのに気が付いた。
事実クリオネの破裂の衝撃は大きくなっていた。
このクリオネ、生物が発する静電気を感知するとその身を破裂させて周囲に自身のフェロモンを撒き散らすのである。
このフェロモンが他のクリオネを成長させ凶暴性を強めて獲物を集団で襲うのである。
「くそっ・・・前はスライムで後ろはこの変な生き物・・・挟み撃ちって訳か・・・ん？挟み撃ち？」
そこまでピコハンは口にしてスライムと一定の距離を保ちながら逃げつつある事に気が付いた。
そう、クリオネ風の生き物が出てくるのはピコハンが落ちてきた穴であるがスライムはこの大広間の天井の穴から次々と流れ込んでくるのである。
だが今までと違い部屋全体に広がるのではなく一箇所に集まって一つの個体の様に形を作っている。
そして、クリオネもこのスライムから一定の距離を取っているのである。
「確か服に当たっても破裂しなかったよな・・・」
ピコハンはクリオネが近付いてこない位置で着ていた服を脱ぎ始める。
それを右腕に巻きつけてスライムから一気に遠ざかった！
「予想通り来たな！」
スライムから距離と取れば一斉にクリオネ達はピコハンを包囲するように全方向から集まってきた！
それを確認したピコハンはスライムの方向に向かって頭上に居るクリオネを巻き込むように服を巻いた右腕を上げながら走り出した！
「これならどうだ？！」
そして、スライムに向かって数匹のクリオネを投げつける！
そのクリオネ達がスライムに接触すると共にスライムに変化が現れた！
「ピギイイイイイイ！！！！」
まるで洞窟内を風が通過した時に出る音の様な物を発しながらスライムの一部が霧になるように飛散したのだ！
そして、散ったスライムの破片はそのまま蒸発するように消えていく。
そう、このスライムとクリオネ風の生き物はこの洞窟内に生息する天敵なのであった。
このクリオネ、前述した通り破裂すると共にその固体からフェロモンを周囲へ放ち周囲の仲間を凶暴化させる上に成長させ獲物を狙わせるのである。
「ってマジか？！」
今までピコハンを挟むようにスライムとクリオネは位置していたが、スライムとクリオネが接触したと同時にクリオネ達は集合体の巨大なスライムも標的として一気に攻撃を仕掛け始めたのだ。
その為、今まで偏っていたクリオネが一斉に全方向からピコハンとスライム目掛けて飛んでくる！
「くっそぉおおおお！！！」
ピコハン、必死に服を巻いた右腕を振り回して襲ってくるクリオネを弾いていく。
だが所詮片腕一本で防げる範囲なんて狭い物で次々にピコハンの体は背中を中心にクリオネの破裂で傷が増えていく・・・
「ピギイイイイピギイイイイイイ！！！！」
まるで断末魔の叫びの様に部屋に居るスライムも暴れていた。
次々に襲ってくるクリオネを触手の様なもので叩き落したりしているのだが、触れると同時にクリオネは破裂しスライムの体は飛散していく。
「うわぁあああああ！！！」
ピコハン、流石にこれにはお手上げの様でクリオネの中を突っ切って少しでも遠くへ逃げ出す。
既に服を脱いでいる為に胸や背中はクリオネの破裂の衝撃で傷だらけとなりピコハンは血塗れとなっていた。
だがそんな事はお構いなくクリオネはその数を穴から更に増やしピコハンとスライムへ向かって襲い掛かる！
あちこちの天井の小さな穴からはスライムが更に追加で部屋に流れ込んでくるが直ぐにクリオネが触れて破裂し大きい固体と融合する前にその体を飛散させる。
そして、部屋の端まで行った時にそれは起こった！
「ま、マジかぁあああ？！？！？？！！」
そう、部屋の重力がピコハンが近付いた方向へ変化したのだ！
そして、それが意味するのは・・・
「ピギィィィィイイイイイイイイイイ！！！！！！！！」
あの巨大なスライムが大量のクリオネを巻き込みながらピコハンの方へ落下してきたのだ！
直ぐにそれに気付いたピコハンは走って逃げようとするが・・・
「あづっ？！」
左足の痛みに気付いてそこへ視線をやる。
するとそこには重量が変化した時に触れてしまったのか小さいスライムがピコハンの左足にへばり付いていたのだ。
そして、その小さい体でピコハンの左足を消化し始めていたのだ。
「こ、このっ？！」
素早く手刀で散らして事なきを得るが既に左足は肉が少し溶かされ踏ん張りが利かなくなっていた。
この足では素早く走って逃げる事は不可能・・・
そして、頭上から降ってくる巨大スライム。
ピコハンは覚悟を決めて拳を強く握り込んだ！
「くっそぉおおおおおおお！！！！」
凄まじい叫び声と共に落下してきたスライム目掛けてピコハンは拳を連続で突き出すのであった！
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