第60話 新たなる光の加護と死闘の再来

そこは真っ白の空間に雲の塊がが浮いている不思議な部屋であった。

ピコハンは床に座り込み足の痛みが和らぐ体勢をとる。


「っで貴女が3人目の神様ですか?」


ピコハンが座った状態で上に浮く雲を見上げる。

その雲の底に座った状態でこちらを見る一人の女性が居た。

嬉しそうに微笑みを向けるその表情は美しく金とも銀とも判別できない輝く髪を持つその女性が突如目の前に現れた。


「座ったままで構わんよ」


ピコハンが慌てて立ち上がろうとしたが肩に気付けば触れられておりそう告げられる。

その肩に暖かい何かが流れ込みピコハンの全身を巡る…


「怪我を先ずは治すと良い、この光の加護でな」


光の加護、それは光が体に当たるだけで傷を癒すことも出来るのだ。

みるみるピコハンの骨折は修復されていくのだがそれに本人は気付かない。


「さて、先ずは名乗らせてもらおうか。我はデウス、この世界を管理する5神の一人である」

「あれ?名前が…」

「あぁ、それはお主が複数の加護により我らに近い存在に到り始めたからであろう。我の前にサラとダマからも加護を受け取っておるじゃろ?」


ピコハンは加護をくれた二人の女神の名前を初めて聞くが、以前は聞き取れなかったと言うのにそれがどちらの神を現す名前なのか理解できた。


「しかし、見せてもらったが良くあの状況で扉が魔物だと気付いたのぅ」

「まぁ幾つかヒントはありましたからね」

「もう気付いておるか分からぬがあの腕のような花は石を自由に変化させるハンドストーンフラワー、そしてそのハンドストーンフラワーを操る魔物がマッドアじゃ。花は幾ら倒しても無限に咲くからのぅ」


それはピコハンが戦った先程の石像達の事である。

ピコハンは何体か倒しても存在の力が自らに流れてこないこと、そして撹乱させる為に動いた時に扉から死角になる時は石像達の動きが一瞬戸惑うのに気付いていたのだ。


「確信を持ったのは腕の多いやつを死角にして攻撃を加えた時じゃな?」

「その通りです」

「しかしまぁ、叩き潰される直前に石刀を投げたのには驚かされたもんじゃ。全く彼を思い出したぞ」

「彼?」

「まぁ気にするな、それよりも…」


デウスはピコハンに地面を滑るように近付いてくる、少し驚いたピコハンであるが動くことなくデウスを見つめる。


「ふふっそう身構えなくてもよい。さて、本題じゃ…ちょっと動くなよ」


そう言ってデウスはピコハンの額に自分の額を密着させ目を閉じた。

目の前に美しすぎる女神の顔が在る状態に緊張して動けなくなるピコハン。

数秒間がかなり長く感じられたがゆっくりと向こうは緊張した様子もなく額が離れる。

そして、デウスはピコハンの目の前で目を見開く。


「近い…確かにそれらしいモノを感じはするが何か違うな…うーむ…」

「あ、あの…近いです」


ピコハンが照れるがデウスは気にした様子もなく真っ正面からピコハンを見つめ続けた。

少しして何かを感じ取ったのか突然顔を壁の方へ向けて見つめる。

一つ一つの動作が美しいデウスに見とれそうになったピコハンだったが予期せぬ言葉がデウスから発せられる。


「なんじゃこいつは?お主と因果が在るようじゃが…」


因果と言う言葉が今一理解出来ないピコハンではあるがデウスが見る方向の壁を見るとそこに映像が映し出されていた。

それ事態にも驚く事だがそれよりもピコハンはそいつを見て全身から冷や汗が流れ出る。

そして、映像を見ると同時にその音と声が耳に届いた。


『がははははは!!!おもしれぇ!!!おもしれぇぞ!!!!もっとだ!!!もっと俺と戦えぇぇ!!!!』


そこには素手でピコハンを握り潰そうとしたあの大仏を3体同時に一方的に破壊し続ける一人の男の姿が在った。

大仏も互いを攻撃されている間に攻撃を仕掛けようとするのだが巨大な拳も逆に殴り返され大仏の腕ごと吹き飛ばされる。


「こ、こいつは?!」

「なんじゃ?知り合いか?」


そう、その姿は成長しては居るが間違える筈がなかった。

髪からチラリと見える角、戦いを心の底から愉しそうに味わう表情、そしてあの声。


「酒呑童子!」


ピコハンの体に力が入る、以前負けた事もあり命からがら助かった事による恐怖を押さえていたのだ。


「ふむ、これはちと不味いな」


デウスがそう言った時であった。

大仏の後ろに居た宝石のような体をした人形のヤツを壁へ蹴り飛ばしていた。

大仏の腕ごとへし折る攻撃力を持つ酒呑童子の一撃で破壊されないそいつの硬さは驚きであったが壁にめり込んだ時点で結末は見えていた。


『こいつは良い!これならどうだ?これなら?これは?これは?これは?!』


自らの攻撃で中々壊れないそいつを心底嬉しそうに何度も何度も殴り付ける酒呑童子、それと共に壁はどんどん破壊され遂に突き破った!

そして、その場所を見たピコハンは慌てる。

そう、そこは自分が先程戦った場所だからだ。


「俺、行きます!」

「ま、待ちなさ?!」


デウスが止めようとするが直ぐに入ってきた扉からダンジョンへ戻るピコハン!

扉を潜れば神であるデウスはその向こうへ干渉出来ない。

止める間もなく飛び出したピコハンは叫ぶ!


「おい!酒呑童子!!」


その言葉に反応を示した酒呑童子はその足を止めた。

ピコハンが慌てた理由、それは財宝の回収を終えたアリーとクリフに気付いて酒呑童子がそちらへ足を進め始めたからであった。

二人もピコハンの声に気付き酒呑童子の姿を見る。

一見すると人間に見えなくもないそいつは二人の中でもアリーに興味を持っていた。

強い人間の女、それは人間を拐って孕ませて繁殖する鬼族が最も好むモノである。

だが酒呑童子にとって聞こえた声は忘れもしない声だったのだろう。


「ピーコーハーンー!」


唯一自分が逃がした獲物を戦いを生き甲斐にするそいつが忘れる訳がなかった。

互いに一度名乗っただけなのにその名前を二人とも口にして向かい合う。

酒呑童子は15年と言う歳月で成長しているがピコハンは殆どあのままであるが、それを気にした様子もなく向かい合った二人は歩いて近付く。

ピコハンの骨折がこの短時間で治っている事に気付いたアリーとクリフであったが、二人から昇る闘気の様なモノを感じとり口を挟むことなく見守る。


「行け!」


ピコハンの怒声の様な声が二人に送られビクッと反応を示す。

だが目の前でそんな事を言われて酒呑童子が二人を見逃す筈が無かった。

先に仕止めようと振り返る酒呑童子であったがその隙を見逃すピコハンではなかった。


瞬間的に飛び出し後頭部に全力で肘打ちを仕掛け、半回転する勢いで横腹に回し蹴りを叩き込む!


「早く行け!」


着地と同時に叫ぶピコハンであったが蹴り飛ばされた酒呑童子はフワリと着地をして嬉しそうにピコハンを見る。

その酒呑童子の手の位置でピコハンは辛い表情を浮かべた。

右手は後頭部、左手は横腹に添えられピコハンの不意打ちはガードされたのである。


「いいぞぉ!やっぱお前は最高だよピコハン!」


叫ぶと同時に一瞬で距離を詰められ殴り飛ばされたピコハンは後ろの壁まで物凄い勢いで吹き飛ばされ壁にめり込む。


「くくくく…やっぱお前は最高だよ!」


壁にめり込んだピコハンは両腕をクロスして防いでいたがそれでも鼻血が吹き出しその顔は血塗れになっていた。

酒呑童子にとって女よりも戦いを生き甲斐にするのをピコハンはその攻防の中で思い出していた。

不意打ちが不意打ちになっていなかった事に悔やみながら壁から抜け出し顔の血を拭うのであった。

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