第46話 鬼の住む地下世界

薄暗い部屋の中に数名の女性が捕らえられていた。

誰もが震えながらいつ自分の番が回ってくるのか恐怖しながら身を寄せ合って日々を生き抜いていた。


「気をしっかり持って!きっともうすぐ助けが・・・」

「ふざけないで!もう終わりなのよ!一緒に探検していたトミーもアーロンも殺されたわ、もう終わりなのよ!」


気が狂いそうになっている女性の両肩を掴んで別の女性が落ち着かせようとするがまるで逆効果であった。

そうしていると石のドアを開ける音が響く・・・


ゴゴゴゴゴゴ・・・


女達は手枷も足枷もされていない、だがその石のドアを開けることが出来ない為に脱出できないのだ。

そして、開いた石のドアを全身真っ黒の鬼が頭を下げて潜ってくる・・・

身長は3メートル近くあり、全身筋肉質で一目見ただけで人間がどうこうできる生物では無いのが分かる。


「次の雌は・・・」


その中に居る女達を見回す黒鬼。

誰もが小さく悲鳴を上げながら萎縮する。

そんな中一人だけ気丈に黒鬼を睨む女が居た。


「私が行くわ!」

「ほぅ・・・」


彼女こそキャベリンの親戚の娘であるアンナであった。

新しく発見されたダンジョンを探検しているチームの一人が水溜りに足を取られその中へ沈んだのを見てチーム全員で後を追った為に居るのだ。

そのメンバーは洞窟を抜けた先でほぼ全員が殺された。

生き残ったのは彼女と直ぐ横で震えている女だけであった。

他にもここへ通じる道が在るようで定期的に女だけがここへ連れて来られる・・・

きっと男は全て殺されているのだろう。


「お前はまだ抵抗しそうだから後回しだ!こいつにしよう」

「ひっ!?いや、いやぁああああああああああああああああ」


黒鬼の手が一人の女の肩を掴んで引っ張る。

巨大な手で肩から脇まで指が回り掴まれているので逃げようにも身動きが取れずそのまま持ち上げられる。


「ま、待ちなさい!」

「くくく・・・威勢がいいな、だがお前は後回しだ」

「きゃぁ!」


黒鬼に手で払われてアンナは吹き飛ばされる。

そうしている間に肩を掴まれた女は痛みを訴えながら連れて行かれる。

そして、黒鬼と共に外へ出て石が再び動かされ蓋をされる。

こうして数日に1回ここの女は連れて行かれる。

誰一人戻っては来ないのだ。


「もう・・・いっそ死んだほうが・・・」


一人がそう呟くが彼女の脳裏には同じように摑まって自殺をした人の最後が焼きついていた。

ここには武器になるようなものは一切無い、なのでその人物は自分の髪を使って首を吊って死んだのだ。

だが次に鬼が来た時に彼女はそのまま連れて行かれた。

外へ出る時に鬼が小さく呟いた言葉は彼女の耳に残っていた。


「今夜は肉が喰えるな・・・」


それを聞いていた為に彼女は自殺を思い留まる。

だがこのままではどっちにしても鬼に連れて行かれるのは目に見えている・・・

アンナ以外の誰もが全てを諦めていた。

アンナも特別何か策があったり助かる見込みが在るわけではない、ただの強がりである・・・

だが彼女は知っているのだ。

最後まで諦めなければ奇跡は起こるかもしれない!

奇跡は諦めない人間にしか起こらないのだ。


そして、アンナは他の人達が寝静まるのを確認して最後に目を瞑る。

明日こそはきっと助かる、だから明日まで頑張ろう・・・

それが寝る前に彼女が考える唯一の事、決して諦めない彼女の誓いであった。

その願いが叶うのを信じて・・・







「なるほど、分かった」

「聞きたい事はそれだけか?」

「あぁ、お前達が俺達人間の宿敵だって事は良く分かったよ!」


鬼の話を聞いたピコハンは怒りを露にしていた。

種族的に他種族の雌を孕ませて繁殖するという話はまだ納得が出来た。

だが雄は邪魔なので殺すだけ、相手に敵対心があろうが無かろうが関係なくである。


「意思疎通が出来る生き物として分かり合える可能性を考えていたのに・・・」

「俺達鬼がお前達みたいな下級種族の人間と分かり合える?冗談でも止めてくれ」

「分かったよ」


そう言ってピコハンは赤鬼に女王蟻の剣を向ける。

それを見て赤鬼は目を瞑る。

自らよりも強者であるピコハンに殺されるのなら本望と考えているのだろう。

だがピコハンはやはり最後の一線が超えられない。

無抵抗の相手に止めを刺すのには抵抗があったのだ。

その為、ピコハンは剣を半回転させ峰打ちで赤鬼の後頭部を強打する!


「ぐっ」


そのまま意識を失って倒れる赤鬼。

その体から光の粒子が出ない事から死んではいない事を確認しピコハンは先へ進む。

荒れ果てた荒野を真っ直ぐに進むと在ると言う地下空洞を目指すのだ。


「待っていろよ、一人でも多く助けてやるからな!」


荒野を真っ直ぐ走り続けること30分、日が暮れてきたのか天井から入る光が弱くなって来た頃にそれは見えてきた。

巨大な岩をくり貫いて斜め下へ道が続いていたのだ。

入り口には同じく赤鬼が2人立っていた。


「んっ?!なんだお前は?!」

「人間の雄の子供だと?ちっ取りこぼしか、狩り担当は何やってるんだ?!」


そう叫び2人の赤鬼は手にしていた金棒を片手で持ち上げピコハンの方へ走ってくる!

雄だと判断した途端に大人も子供も関係なく殺そうとする赤鬼にピコハンは手加減する気は全く無かった。

何よりここで仲間を呼ばれて囲まれる方が恐ろしい、なので先手必勝でピコハンは一気に加速した。


「なっ消えっ?!」


一瞬であった。

左側に居た赤鬼の膝に足を置いて飛び上がり赤鬼の顎を左拳で強打して叩き上げ、がら空きになった喉に突き刺すような蹴りを空中で打ち込む!

一度戦っている赤鬼の強さからこれくらいでは死なないと踏んでいたピコハンは1秒にも満たない時間で1人を無力化した。


右側に居た赤鬼は目の前からピコハンが瞬時に消えて驚く、そして打撃音と共に隣の赤鬼が後ろに倒れるのに気付いて視線を移した。

だがその頃にはピコハンは蹴りで喉を打ち抜いた赤鬼の前から姿を消していた。

まるで宙返りの要領で右側に居た赤鬼の真上に飛んでいたのだ。


「なっ何がっ?!」


横を向いた赤鬼の真上で逆さまになっているピコハンは両手で赤鬼の両耳を同時に叩く!

パンッと言う音と共に赤鬼の両鼓膜は破壊され驚きと痛みで耳を押さえてしゃがみ込む。

そこへ背後からしがみ付いて腕を首に回し首を絞める。

鼓膜を叩いた衝撃で金棒は落としており両手が耳を押さえている隙間から腕を回したのだ。


「ぐぇっ?!」


喉を圧迫されて呼吸が出来なくなり苦しさに抵抗しようとする赤鬼。

首に回された腕に掴みかかろうとしたその時にピコハンの頭突きが赤鬼の後頭部に叩き込まれた!


「ふんっ!」

「ごげがっ?!」


その一撃でもう一人の赤鬼も白目を向いてそのまま崩れ去る。

この間、僅か3秒の出来事であった。

だがそれでも言葉を話せる相手を殺すのだけは抵抗のあったピコハンは、無力化した2人の赤鬼を横へずらして隠し、大岩にある穴へ足を踏み入れるのであった。

ピコハンはまだ知らない・・・

その奥で人間の女がどんな酷い事になっているのかを・・・

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