第31話 盗賊の財宝
「ヒヒヒッ調子に乗るからだ!」
炎に巻かれたピコハンがそのまま焼け死ぬ光景を親玉と思われる男は想像したのだろう。
だがピコハンは慌てずに地面を蹴った。いや踏み抜いた!
途端にひび割れと共に炎が様々な方向を向いて散る。
少しピコハンの衣類が焦げたがそれでも火傷と言った後が殆ど残っておらずピコハンは一瞬にして男の目の前まで突進した。
「おわっ?!」
一瞬で目の前まで移動したピコハンに送れて風圧が男を襲う。
後方では炎がまだ燃えておりピコハンはそっから一気に進んで来たので炎がまるで道を作るように流れた光景を見て親玉と思われる男も唖然と立ち尽くす。
次の瞬間にはピコハンの目の前の男もピコハンの手で意識を刈り取られその場に崩れる。
「ちょっちょっと待て!」
慌てる親玉。
それはそうだろう、ピコハンが踏み抜いた地面の後や一瞬で移動した速度を見て絶対に敵わないと理解したとピコハンは考えた。
だがしかし、ピコハンは忘れていた。
3人気絶させ火に撒かれてから更に1人気絶させ目の前には親玉と思われる男。
そう、1人何処かへ行っていたのだ。
「あいたっ?!」
後方に炎の灯りが在り自分の体で陰になっていた前方から矢が飛んできてピコハンの左足に突き刺さった。
それを見て親玉の男は後ろを嬉しそうにピコハンを見つめる。
足をやられては先程みたいな動きは不可能だからだろう。
ジワジワと近付き手にした棍棒を振り上げる親玉!
それと同時に再び矢がピコハンの右足めがけて飛んできた!
「てぇいやっ!」
ピコハンはその瞬間宙を舞っていた。
足を狙われているのをまるで予測していたように右足でジャンプしてそのまま右足で親玉の棍棒を蹴り上げ棍棒を吹き飛ばして、よろけた親玉の腹部に着地と同時に抱
きつくようにタックルをした!
まるで演舞を行なっている様な動きに奥で矢を構えていた男も固まったのだろう。
その一瞬でピコハンは親玉と言う盾を使って奥へ突撃した!
親玉とピコハンの身長差は40センチ、親玉は体をくの字に曲げ弓を構えていた男と共に奥の壁に叩きつけられそのまま二人共意識を失うのであった。
「ふぅ・・・やっと消えた。」
ピコハンは戻って燃えていた火を土をかけて消していた。
一酸化炭素中毒と言うものを理解していた訳ではない、単に煙たかったから火を消したのだ。
それでも盗賊の男が設置していた最低限の光源となるランプが洞窟内を照らしておりピコハンは続いて6人分の衣類と所持品を全て共有箱に仕舞った。
6人はパンツを硬結びでしっかり縛られ下着のみで洞窟内に他の盗賊達と同じように放置される。
「あっ忘れてた。」
そう言ってピコハンは左足に刺さっていた矢を抜く。
驚く事に筋肉に止められて矢はそれほど深くは刺さっていなかった。
少し出血をしたが、それでも走ったりするのに支障が出るほどでは無かったと言うのは驚きだろう。
「さて、んじゃなにが在るのかな?」
ピコハンは親玉が対峙しながらチラチラ見ていた壁の方へ近付く。
一見普通の壁だがきっとここに何かが在るのだろうとピコハンは手で触りながら調べていると指が引っかかり動かせることに気が付いた。
本来なら盗賊の男2人掛かりで動かして居た岩なのだがピコハン一人で片手で動いているのをもし盗賊達が見たら驚きの声を上げていただろう。
「おおぅ!これは中々!」
その岩を避けた奥には盗賊達が溜め込んでいたであろう貴金属や宝物が一箇所に固められていた。
そして、その横に数名の人影が在った。
一瞬盗賊の残りかとピコハンは警戒したがどうにも宝の詰まった箱に鎖で繋がれているようである。
「だ・・・だれ?」
その中の一人が声をあげピコハンを警戒した。
だがピコハンの身長を見て盗賊の仲間では無いと考えたのか警戒心が一気に解かれた気がした。
「ここの盗賊やっつけたらここを見つけたんだけど君達・・・」
「で、出られるの?!」
ピコハンは目を疑った。
そこに居たのは6人の子供であった。
だが、その子供達は全員頭の上に耳が、動物の耳が生えていたり手が毛深かったりと多種多様な子供であった。
獣人、この世界では奴隷制度が無いので人間に価値は無い。
だが一部の貴族や金持ちが獣人を飼って育てる事があるのだ。
主にペットや愛玩動物として扱われる獣人達に人権といった物は適応されず飽きたら捨てられると言うまさに家畜レベルの扱いを受けるのが現実であった。
その為ピコハンは獣人という存在すらも知らず魔物に呪われた子供だと勘違いした。
「だ、大丈夫か?!今助けてやる!」
「お、おいやめろこの鎖はとても硬くて・・・」
パキンっとピコハンが力任せに鎖を引きちぎりその光景に唖然とする獣人の子供達。
そして、少し怪我が多そうな子供にピコハンは共有箱から包帯の様なモノを取り出し巻いてやる。
獣人は基本的に身体能力が人間よりも高く力も勿論強いのだがピコハンの力は異常であった。
更に獣人にとっては上下関係と言うモノが本能的にあり、目の前のピコハンはいつの間にかこの子達にとってボスとして認められていた。
「それ何やってるんですか?」
「ん?宝物をここに入れて送ってるんだ」
「手伝います」
「僕も」
「私も」
それ程多くない盗賊の宝であったが子供達の協力もあり直ぐに全ての宝を共有箱に仕舞い終えたピコハンは子供達を見つめる。
「みんな帰る場所在るのか?」
「・・・ううん、人間達に襲われた時に村ごと・・・」
「そうか、なら俺の村に来ないか?」
「お兄ちゃんの村?」
「あぁ、最近孤児院が出来てな。行く宛てが無いならそこで暮らさないか?」
暫し考えながら見詰め合う獣人の子供達。
人間に村を滅ぼされたのなら人間を警戒してもおかしくないのであろうが彼等はそうは考えない、野生を生きる獣人にとって殺されると言うのは弱者だからだと認識しているからだ。
弱肉強食と言うのが彼らの世界の根本的なルールなのである。
「私・・・行ってみようかな」
「僕も・・・」
「俺も・・・」
次々にピコハンに同行する事を決めた子供達を連れてピコハンは洞窟の外へ向かってパンツ一枚でそのパンツを縛られた盗賊を完全に放置して脱出するのであった。
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