第29話 ピコハン、村の為に盗賊を潰しに出かける

「こんな…まるで奇跡だ」


ルティアのやっと絞り出した言葉も仕方在るまい、特にルティアは兵士になるために修練を積んだ人間だ。

ならばこそ何人も四肢を無くしたり使えなくなって道を閉ざされたり生きていく事すら出来なくなった人間を見てきた。

だからこそアイの身に起きた奇跡にただ驚くのみであった。


「アイ、その目見えてるの?」

「はい…見えてます!」


ルージュの問い掛けに泣きそうになりながらアイは答える。

ピコハンは思わず呟く…


「綺麗なオッドアイだね…」

「えっ?」


ピコハンの言葉にアイが驚いて聞き返す。

ピコハンの言う通りアイの目は元からあった黒目の右目と治った真っ赤な左目がピコハンを見詰めていた。

誰も知らなかったのだ。

この世界には鏡は高級品でお金持ちくらいしか所持してない、アイの家もアイが人捨てされるくらいだから鏡が在るわけもなかった。

更にピコハンが女王蟻の巣でアイを見付けた時には既にアイは右目を無くしていた。


「本当だ…」


アイは家に在る鏡を見詰めて口にする。

ルージュ、アイ、ルティアと3人も女が暮らしていてピコハンのお陰で膨大な大金が在るこの家には勿論鏡がある。

いや、この村だけで一軒に数枚の鏡が在ることを考えればピコハンによるこの村の稼ぎがどれ程凄いかを垣間見ることが出来るだろう。

盗賊が目を付けるのは当たり前だった。


「おわっ?!」


突然ピコハンの胸の中に飛び込むアイ。

驚いて声が出たが不意を突かれたのにも関わらず一切バランスを崩すことなく受け止めて頭を撫でてやるピコハン。

その光景に少し嫉妬しながらも今回は見逃そうとお互いを見詰めるルージュとルティアであった。






「それで、盗賊が来てるんだね?」


アイが泣き疲れてピコハンに抱きついたまま寝ちゃったんでそのままソファに座ってアイを膝枕してやりルージュと話をする。

一応見張り兼護衛のルティアはピコハンの斜め後ろに立っている。


「えぇ、数日前に突然襲ってきてね…」


ルティアが実際に防衛に当たったらしいのだが、この村に居るのは職人ばかりだがピコハンが狩った蟻から取れた具材の武具が協力なので一方的な強盗被害には至らなかったらしい。

事実ピコハンが帰って来た時に襲って来ていた盗賊達は総力戦で襲撃を仕掛けてたと捕らえた男の話だ。


「そいやあの門番の兄ちゃん凄い勇敢でしっかりしてたね」

「あぁ彼ね、ルティアの同期の兵士らしいんだけど融通が利かないとかでクビになってたそうでこの村で雇ったのよ」


ルージュやり手である。


「なんにしても盗賊か・・・」

「ピコハンさんなんか嬉しそうですけど・・・」

「ん?いや、盗賊のアジト襲撃すれば結構美味しいかなと・・・」

「「「・・・・・・・」」」


ピコハン、考え方がダンジョンでの考え方に完全に染まっていた。

だが・・・


「私は村長に危険な事はして欲しくないんですが・・・」

「ダーリンはもっとゆっくりしててイイのよ」

「ピコハンさん、近くに居て欲しい・・・」


アイもルージュもルティアもピコハンに傍に居て欲しいというのを隠さない。

裏で女の戦いが始まっていたりするのだがピコハンは気付かない・・・

だが・・・


「でもさ、俺が居ない間にまた襲われて困ったら大変だからやっぱり潰そう」


ピコハン、女心のまだ分からない10歳であった。

いや、筆者30台だがまだ分からないので・・・以下略






「くっ殺せ!」

「男にその台詞を言われると凄くガッカリする不思議だね」


ピコハンは村の牢屋に入れられている男の元へ来ていた。

頭の毛が半分くらいになり無理やり抜かれたので頭部は真っ赤になっていた。


「これからさ、お前の居た盗賊のアジト襲撃するんだけど場所教えてよ」

「はっそれを教えて俺になんのメリットがあるってんだ?」

「残りの毛・・・要らないの?」

「悪魔かお前は?!」


男もピコハンに敵わないというのは身に滲みて理解しているのだろう、これ以上髪の毛を抜かれたら間違い無く再起不能になるのを理解しているのか渋々了承する。


「安心してよ、盗賊団潰したらお金渡して解放してあげるから」

「はっそんな事言ってどうせ殺すんだろ?」

「いや~殺したら死体処理面倒だしそんな事しないよ~」


ピコハン目がマジなので男は渋々場所を条件の言質を取る前に教えてしまう。

その場所はダンジョンを挟んで村から丁度反対側であった。


「そっか、ありがとね。」


そう告げて男の元を離れて村の入り口へ向かうピコハン。

その姿を数名の職人は見て呟く・・・


「また領主の家に遊びに行くのだろうか・・・」


ピコハン、結構酷い事を考えられていたが本人のみ知らず楽しそうに遊びに行く感覚で村を出発する。

入り口であの門番とルティカに一応挨拶だけして一人で盗賊のアジトへ向かう。


「なぁ・・・ここの村長があんな強い子供だったのには驚いたが、これから何をしに行くって?」

「村長、襲ってきた盗賊潰すんだってさ」

「はぁ・・・俺はこの村に来てから驚く事ばっかりだよ」

「あっそうそう、村長から伝言だよ。アンタは出来る男だから給料アップだってさ」

「全く、最高の村長だぜ」


二人の見詰める先を一人歩いていくピコハン。

盗賊の運命は風前の灯である!

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