第13話 差し芽株分けお福分け
「おたくのバラの苗、差し芽できませんかねえ?」
とお隣の奥さんに尋ねられたのは、去年の10月初めのこと。
我が家のつるバラ、ピエール・ド・ロンサールの枝が二メートル以上に伸びきっている割りには花が咲かずやきもきしていた頃であった。
「うーん、やった事はないんですけど差し芽は可能だそうです。で、どうして?」
と、私にはなんとなーく、
奥さん、バラの苗を欲しがってる?
と思えたので聞いてみると、
「いやね、バラの盆栽に挑戦してみたくなって」とガーデニング的にかなりハードル高そうな鉢物。盆栽にチャレンジしてみたい。とその奥さんはなんのてらいもなくおっしゃったのだ。
その白髪の美しい奥さんは私より数ヶ月前からアパートの隣の部屋の住人でいらして、震災で自宅が半壊して工事が終わるまでの仮住まいだということ。
65才で定年退職して今は趣味のマラソンとテニスと絵画と書道に打ち込んでらっしゃる趣味三昧の日々を送っていて、
年に一回は海外旅行に行ってらっしゃる、
しっかり年金貰ってる世代の勝ち組マダムであることが一年以上近所付き合いしてきて段々と解ってきた。
将来年金貰えるかどうかも解らぬ40過ぎたばっかの私には、
うらやますぃなあ~。
と思うだけで、奥さんは率直にものを語るさっぱりした気性の人なので「かなり人見知り」な私でも気持ちよくご近所付き合いが出来たのであった。
話を本題に戻そう。ちょうど枝を切りたかったし、差し芽に興味があったし、何よりお世話になっている人へのプレゼントになるなら、
いっちょうやってみるか。
と「差し芽での殖やし方、バラ」でネット検索してみた結果…
1、太さ4~5ミリほどの葉のついた枝が適切。
2、アルコール消毒したカッターかナイフで長さ10センチ間隔で斜め切りする。
3、切り口に発根促進剤「ルートン」(通販かホームセンターで手に入ります)をまぶして、あらかじめ水を含んだ差し芽用の土に5
センチほど差します。
4、葉っぱは差した枝一本につき、3~5枚ほど。大きい葉の場合は半分切り落として水分が蒸散する面積を小さくしましょう。
5、時期的には10~11月頃が一番適しています。
どおりにAmazonでルートンを購入し、差し芽用のポリ鉢に土を入れて湿らせ、さて…
研いだばかりの包丁にアルコール除菌スプレーで消毒してからすとん、すとんと50センチのバラの青い枝三本を10センチずつ切り離して大きい葉っぱを切り落としてから、
斜め切りした先にルートンをちょい付けしてから土に差して、ベランダの日陰に置いて、さあ作業終わり。
あとは、土が乾いたら水やりと、時々忘れる事です。
こうして10月の中旬に差し芽作業を終えて適当に面倒見た10本の枝は、11月の初めごろには切り口からうにょうにょと根っこを出し、11月下旬には10本の内一本から新芽が生えていた。
そして12月の初め、
「自信を持って『この子は苗です』と言えるものに仕上がりました!」と新芽を出して一本の苗を奥さんをお渡しすることが出来たのである。
こちらで余ってしまった物を人に分けるのがお裾分け。というが、
相手が年長者の場合は敬意を払った贈り物という意味の「お福分け」としてお渡しする。
こうしてバラのお福分けを終えた2018年12月の大晦日の夕方、奥さんは作りすぎたおせち料理のお裾分け。を弁当箱4つぶん私に下さり、
結構幸せな気分で新年を迎えることが出来たのである。
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