8
◆ ◆ ◆ ◆
首の荒らぶりようからしてそろそろじゃないかとは思っていたが、ようやく寝落ちたらしい。鼻が
「なぁ、今こいつ、お母さんって言ったよな? もしかして……いてっ! 巳鶴さん、なにすんだよ! 叩くことないだろ!?」
「いいから。お黙りなさい」
そうだぞ、海斗。お前もう黙っとけ。お前は昔っから一言というか余計なこと言い過ぎなんだよ。
……まぁ、一応のフォローをいれるとするならば、この場にいる皆が同じこと思ってる。断言してもいい。
“あぁ、間違えたんだな”
とはいえ、眠気に負けそうになりつつ、あいつなりに何か考えていたようだからなぁ。その上で離れなかったってことは、
なら、俺達が口出すべきじゃねぇ。
「それにしても、あの野郎に簡単に入り込まれたのはいただけねぇな」
「そうですね。今度青龍社に行って、もう少し結界を強めていただくようにお願いしなければ」
「それには及ばん。もうしておいてやったぞ?」
「……っ!」
いっ、きなり出てくるんじゃねぇよ!
その言葉と共に俺のすぐ隣に
しかも、気づけば綾芽に海斗という常習犯に続き、薫までいなくなっている。
……自分達だけとっとと逃げやがった奴ら、絶対許すまじ。
特に綾芽。そんなに素早く行動できんなら、やれ。日頃から。
「……春道にまたどやされるぞ?」
「なに。ちゃんと
「……ちなみに、なんと?」
あぁ、巳鶴さん。そんな研究者にありがちな好奇心で聞くんじゃねぇよ。
どうせ、こいつのことだ。ろくな内容じゃ……
「ん? あぁ。
「……」
「昨日は全て野菜だったからな。我は知っておるぞ? 人間はこういうのを、ろーてーしょん、というのであろう?」
「……」
……そらみろ。
神さんは何か知らんが、やけにご
まるで、小さな子供が初めて覚えたことを親に披露する時に似ている気がする。もちろん、ソースは雅で間違いない。
それとな、巳鶴さん。視線だけこちらに向けて、聞いて悪かったと謝らんでくれ。俺は何も聞いちゃいない……そういうことになってるんだから。
神は
「雅は寝ておるし、いやはや、残念残念。まぁ、抱きかかえるくらいはできような」
「……やらん」
「なんと。そういうのを何というか、お主、知っておるか? けち、というのだぞ?」
「けちなどではなく、当然の主張だ」
「ふん。まぁよい。雅と我は一緒に散歩した仲だからな」
「我は、抱っこと言われたぞ。見よ」
「おい」
あ、しまった。つい。
雅の父神に対しては、口調は好きにしていいと言われたから普段通りのもんだが、一定の礼節だけは持つようにしてたっていうのに。
しかし、なにが悲しくて、こんな中身が低レベルすぎる会話を聞かされにゃならんのだ……。
あんたら、その話はここじゃなくて、どっちかの
そう声を大にして言いたかった気持ちが漏れちまった。
これじゃあ、雅のこと言えた義理じゃねぇなぁ。
「お二方とも、お互いに御存知だったのですか?」
がくりと肩を落とす俺の代わりに、先程迷惑をかけた
「そりゃあ、年に一度は神
「なるほど」
まぁ、雅が暮らしていたのは違う世界だろっつったって、神さん達にそういうのは関係ないんだろうな。
そもそもの話、神さん達が長い年月を過ごしている場自体が、この人間が暮らす場とは違う。
「で、そこな童が
「あぁ。
「ふむ。難儀よなぁ」
「まったくだ」
どうでもいいが、神さん。あんた、我が娘を強調しすぎだ。
そういう必死なところが雅に嫌われる原因の一つだと俺は思うぞ?
すると、そうだ、と。
青龍社の神さんが何かを思い出したのか、雅の父神の方へ視線を戻した。
「我の庭に
「……後で行く」
あぁ、嫁大好きの神さんのことだ。
いますぐ行きたい。だが、今動けば雅が起きちまうかもしれん。せっかく自分から来たんだ。もう少し
大体こんなところだろう。
まったく。親子揃って天秤にかけなきゃならんようなことがあるようでなにより。しかも、天秤の片方は必ず同じ、雅にとっては母親、神さんにとっては嫁。
……ほんと、あんたらは。仲いいのか悪いのか、まったく分かんねぇなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます