3
皆が助けに来てくれなかった理由は、しばらくしてアノ人がやって来た時に分かった。
首を僅かに傾げたアノ人が、すっと何かを払うように手を横に払う。すると、今までの人気のなさが
きっと、皇彼方が誰にも邪魔されないよう、結界かなにか仕掛けていたんだろう。
誰も通りかからないんじゃなくて、誰も通りかかれなかったんだって、ちょっと一安心。
すぐに廊下の角からおじさん達が顔を覗かせた。
「な、なんだなんだ!?」
「この泣き声は本当に幼い子供のものだろう?」
「チビがまたさらに縮んだか!?」
「「……」」
おじさん達は少しフリーズした後、示し合わせたかのように一斉に回れ右をして逃走を図ろうとする。
「ちょっとまって!」
逃してなるものかと、追いかけて一番近くにいたおじさんのズボンを引っ張った。
やっと来た頼れる……かどうかはこの件に関してはまだ分からない。だからこの際横に置いといて、大人は大人。私よりも人生の経験値はある。この三人、どうして捕まえておかずにいれようものか。
……ちなみに、アノ人には最初から戦力外通告を出してある。どう考えても小さな子供をあやしている姿が想像できない。
まぁ、それを言っちゃうと、こちらでの保護者の綾芽にも言えることなんだけど。でもまぁ、綾芽は綾芽で
だから、何が言いたいかって言うと。
「ちょ、引っ張るな! 脱げる! 脱げるから! 分かったから!」
「やっとぉ、とおりかかってぇ」
「分かったから、泣くな! 泣くなよ!?」
「お前が泣くと余計面倒なことになるんだから、
「ぅあい」
やけくそで返事をする私に、おじさんが私の頭に手をポンポン乗せてくる。
そんな私達の後ろで、おじさん三人組のうちの一人がまだぐずっている子供を抱き上げ、ためつすがめつ、くるくると回している。
すると、また新たに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「なんですか? この泣き声は」
「みつるしゃん! まってた! まってたよ!」
おじさんの手をすり抜け、巳鶴さんの方へ飛んでいく。
後ろで、さっきまであんなにすがりついてたのにって、なんだか恨みがましいことを言われた気がするけど、こんな時の巳鶴さんの安心感は絶大だと思うんだ。安心・安全の巳鶴さん印。すごい。
巳鶴さんは駆け寄ってきた私に目を向けた後、今度はおじさん達の方へ視線を移した。そして、また私の方へ戻しかけ、おじさんを、正確にはおじさんが抱き上げている子供を二度見した。
廊下を
「あの子は一体どうしたんですか? なぜここに?」
「これにはその、ふかーいわけが……そのぅ、ありまして」
「その深いわけとやら、夏生さん達も一緒に教えてもらいますよ」
もしかして、知ってる人、だったり? 色々とまずい立場の人、だったり?
……皇彼方め、やっぱりろくなことしない奴だ。
「それと、お父上は一体どのようなご用事で?」
「え?」
巳鶴さんの視線の先を追い、庭の方を見ると、アノ人が膝を抱えてしゃがみ込んでいた。地面に枝で何かを書いている。
……ちょっとばかし忘れてた。
「……さ、さぁ?」
「お茶をお出しするので、一緒に夏生さんの部屋へいらっしゃい」
「……はーい」
いつものような、えーっという返事は駄目そうだ。
仕方なしに大人しく返事をして、庭に出るために
「ねぇねぇ、みつるさんがよんでるから、いこ」
「……」
「ほら、はやく」
いつまで経っても行こうとしないから、仕方なしに腕を掴み、立ち上がらせる。
「こうして見ると、仲良し親子だな」
そのまま手を引き、夏生さんの部屋へ連れていく私を、子供を抱っこしたおじさんと他二人が冷やかしてくる。
「良かったですね!」
「……そう見えるか?」
「はいっ」
「……ふむ」
ちょっとそこ! 仲良しじゃないし、よくもないよ! それからそこ! ふむ、ってちょっぴり嬉しそうにしないで!
まったくもう。
それにしても、本当にこの人は一体何しに来たんだろう? こんな日に限ってやってくるなんて。
気分が上昇してそうなアノ人とは真逆に、私の気分は落ち込んでいった。
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