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□ □ □ □



 東のお屋敷から車で走ること二、三十分。南のお屋敷の門が見えてきた。


 南のお屋敷は少しの間おとまりしてたせいか、こっちの世界での第二の実家的な感じがする。


 ただいまーなぁんちゃってぇー……って。



「あー!」



 門の扉で隠れて見えなかったけれど、見慣れた顔触れの人達が出迎えてくれた。


 蒼さんが車のドアを開けてくれて、いの一番に飛び出してその人達の元へ駆け込んだ。



「みかどさまー!」

「おぉ、元気そうでなによりだ。待っていたぞ」

「んふふー。……ん、んー?」



 ね、ねぇ? ちょ、ちょっと力強すぎやしないかなぁー? 

 どこにも逃げたりするわけないのに、なんか勝手に逃亡者の気分になってきちゃった。



「今日は役を引き受けてくれてありがとうございます」



 帝様の隣にいた橘さんが薄く笑みを浮かべ、うやうやしく手を胸にあてて頭を下げてきたので、慌ててそれにペコリと頭を下げ返した。



「そうだ、雅。お前にぴったりの衣装も用意させたぞ」

「早速ですが、たけがあってるか確かめたいので、衣装合わせをしましょう。奏様が中でお待ちですよ」

「えっ!? かなでさまもいらっしゃるんですか?」

「はい。あれから、しばらくは交代でこちらにめていただいていて。今回の行事も貴女が役を務めることを話すと、こころよく手伝いを申し出てくださいました」

「そ、そっかー」



 鬼の奏様が大儺の儀のお手伝いしてくれるんだぁー。


 私が複雑に考えてるだけで、本人からしてみると気にするほどのことでもないのかなぁ。



「雅さん? どうしました?」

「あ、んーん。……なんでもない、です」



 帝様達はしっくりこない私の様子に首を傾げていたけど、とりあえずはと私の両脇に立って手を繋いで屋敷の中へと足を向けた。


 奏様、どこだろー?


 奏様くらい力が強いと自分の気配を消してしまえるから、探し出すのは至難しなんわざだ。神様の力を使うほどでもないし、使っちゃダメって言われてるけど、そんなズルっこしたってダメなんだから、これはもう地道に探すしかない。



「誰かをお探しですか?」

「んー。えっとねー」



 通りかかる障子や襖が開けてある部屋を不躾ぶしつけにならない程度に覗き見ていると、帝様がすかさず助け船を出してくれた。



「奏殿ならば、奥の広間でそなたの衣装をあらためているぞ」



 ほわっ!? 衣装ってもしかしてもしかしなくても大儺の儀で着るやつだよね? 

 私がいないと最終的なチェックとか終わらなくて困るヤツじゃないですか!



「……あの、わたし、かなでさまのところいってきてもいーですか?」

「あぁ。彼女もそなたが来るのを心待ちにしていた」

「なんと。じゃあ、いってきます!」



 お仕事で忙しいはずの奏様を待たせるなんてできようか、否! できるはずがないっ!


 場所も分かったし、善は急げだ。


 

「あ、こら、廊下ろうかを走ると危ないですよ!」

「はーい」



 思わず駆けだしてしまった私の背に、橘さんの声が追いかけてくる。


 振り返るのもそこそこに早歩きに切り替え、奏様が待っていてくれているという広間に急いだ。



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