8
よく分からない場所だけど、声がずっと聞こえてるせいで道に迷ったりしないから全然問題じゃない。
それは、それだけはっ! 問題じゃないけどもっ!
「……これは問題だよぉ」
人が好きだった。
神位の低かった自分を
毎日せっせと掃除をしてくれ、話しかけてくる人が、好きだった。
人が、好きだった、のに。
神様の気持ちが流れ込んでくる。
人が好き“だった”と過去形になっていることに、神様は気付いているのかな?
ううん。気付いているから余計に悲しいんだ。本当に人が大好きな神様だからこそ。
ズズッと出てきた鼻水をすすった。視界が
「助けて」
今までで一番その声が大きく聞こえた時、気付いたら少し離れた先に誰かが背を向けて立っていた。
その人が、伸ばした片手をゆっくりと上げていく。何をする気かなんて、背後から聞こえてくる音でよく分かる。
後でとんでもなくお腹が減るだろうけど、そんなこと気にしてられない。
音がする方を振り返って、自分にできることをしなきゃいけないんだから。
「神様はっ! この土地が、ここの人達が大好きなんじゃないのっ!? 自分で
あっ。どうしよう。やっぱりすごく怖い。
土砂
ただ一つ救いなのは、ここがまだ山の中腹の開けたところだってこと。
いつのまにか、人には通れない道を通ってきたのかもしれない。遠くに温泉郷の明かりが見える。
そうだ。
神様だけじゃなくて、私にだって、あそこに守りたい人達がいる。
一人だったら絶対に逃げ出してただろうけど、というかこんな所に来さえしないだろうけど、今の私は一人じゃない。
離れていても、同じ時に頑張っている綾芽達がいる。
だから私は頑張れるし、頑張るしかない。
今、どれだけ自分の力があるのか分からないけど、自分にできる限りの全力を出し切る。
そう決めて
土石流が流れてくる方へ手を伸ばし、急いで広範囲に結界を張って流れをせき止めた。
でも、神様してきた年月が違い過ぎるから、いつまでコレが防げるかは分からない。下手したら山全体が崩れちゃうってことも十分にあり得る。
それを根本的に解決するには、やっぱり神様を止めないとダメだ。
「私は聖人君子じゃないからっ! 全員を助けようとは思わないけどっ! 助けられるとも思ってないけどっ! せめて自分の大好きな人達には笑顔でいて欲しいと思うよっ! 神様はっ!?」
声を張り上げて、離れた所に立っている神様に向かって
それでも神様がこちらに反応を見せてくれることはない。
あぁ、もうっ! なんで声が届かないの!?
神様は助けを求めてきているはずなのに、自分で自分の耳を
……なんだかすっごくイライラしてきた。
そもそも、今の時代まで人柱が続いたのも神様が途中で断らなかったからだと思うのよ。信仰心が本物なら、ちゃんとやめてると思うの。
こうなったのも、確かにこの土地の人達のせいってのもあるけど、神様だって少なからず悪い。
つーまーりー。
「ふっざけんなー!」
ご
大事な場所や大事な人達なら、自分で守らなくちゃ誰が守ってくれるっていうのさ!
感情が
張っている結界の範囲が一気に広がっていく。
「はい、どうどう」
声と同時に見覚えのある背中が目の前に立ち
白く長い髪がフワリフワリと宙に浮いている。
「あんまり
「オネェさん!」
「ハッアーイ。……ふふっ。やっぱり元の姿の方がイイじゃない」
「……あ」
い、今はそれどころじゃないよね?
目の前のことに集中する方が大事だと思いまーす。
「オネェさん、これ、なんとかできる?」
「まぁね。可愛らしくおねだり」
「ねぇ、オネェさん。とっても困ってるの。お願い」
そんなのお安い御用だ。
若干言いかけたのもあったみたいだけど、ショートカットさせてもらいますよ?
だって、時間がないんだもの。
片手で服を
「なにこの子。やだこの子」
ブツブツ聞こえるけど、気にしてられないくらい私はこれでも
オネェさん、今の状況本当に分かってる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます