8
◇ ◇ ◇ ◇
部屋の
目の前の
お菓子で
……そういえば、あの時のアメちゃんファミリーパック! 返してもらってない!
「いらないの?」
「べー」
「……可愛くない」
い、痛い痛い痛いぃっ!
お兄さんが力の加減をまるっと無視して
皇彼方はどこかへ行っちゃったから部屋には私とお兄さんだけ。必然的にお兄さんを止める人は誰もいない。
「はにゃしぇっ!」
うぅ、痛い。これ、絶対赤くなってるやつ。
うりゅうりゅと頬を両手で挟んで撫でくりまわした。
「ちからのかげんかんがえて!」
「……これ位で泣くの?」
「な、ないてな、い……ズッ」
泣いてない。こんなことで泣くもんか。
私を誰だと思ってる。
都の治安を守る東の部隊の一員ぞ?
こんなことで……やっぱり痛いぃ。
「あやめぇー」
お兄さんが立ち上がる気配がして、その少し後に
もう戻ってこなければいい。
そしてしばらくすると、泣き疲れてゆっくりと
ここはどこだろう?
山? それに
一度も見たことのない景色に辺りをよくよく見渡した。
近くを人が通ったけれど、小さいからかそれとも姿が見えないようになっているのか、誰も気がつかない。
「鉄之助っ!」
聞き覚えのある声が穴の中から聞こえてきた。この声は……お兄さんだ。
穴の入り口に駆け寄って、中をそおっと
「……何が人のためだ、国のためだ。お前達は結局、自分の都合の良いように生きたいだけじゃないかっ!」
「あっ!」
お兄さんが懐から取り出した鈍く光る短刀の刃が、お兄さんの胸を突く。
「……奏おね、ちゃ。うそ……つ……」
お兄さんの体が前に崩れ落ちた。
分かった。
これはお兄さんの過去だ。お兄さんが命を落とした時の。
すると、やはりというか、もう一人と折り重なるようにして地面に横たわっているお兄さんの背後に皇彼方が現れた。
「久しぶりだね、栄太。早速だけど、僕とおいでよ。奏にもう一度会いたいんだろう? まぁ、行かないと言っても連れて行くけどね。……彼は……ふぅん。あの男の
そう言って、皇彼方はお兄さんの体を
「だめ!」
穴の入り口から出ようとする皇彼方を通せんぼして通さないようにした。
絶対、絶対にここを通しちゃいけない。
でも、皇彼方はなんなくその横をすり抜けていった。
そして、さらにフッと軽く笑う声が上から聞こえてきた。
気づいている。
気づいてるんだ、この男!
「まって!」
去っていこうとする皇彼方の背に
「ダメだよ。歴史を変えちゃ。君とはまだ初めましてと言ってはいけないんだから」
「おーぼーだっ!」
「どうして?」
「だって、じぶんだってかえようとしてるじゃない!」
「僕が?」
「だってもし、あなたがいまここにいるのなら、そんなこといえるはずないんだから!」
この時を生きているのであれば、お兄さんの過去で出会った皇彼方からそんなセリフがでてくるはずがない。
そして、初めましてと言われたあの時、本当はそうでないことをこの人自身は分かっていたとしても、この人は初めましてと言うだろう。
ということは、少なくとも一度は未来で私と出会い、過去に戻って今ここにいる。
私自身どうしてこんなことができたのか分からないけれど、きっとこれも神様の力なのかもしれない。
でも、だったらこの人は何者なんだ。
奏様の兄というからには、鬼、なんだろう、けど。
「……フフッ。君は賢いのか、それともそれを突き抜けて
「それは……」
「それに、ただ
「かなでさまがそんなことのぞんでなかったとしても!?」
「君は分かってないね。彼はそれでもあの子に会いたかったんだよ。たとえ、あの子に
「……それであなたはまんぞく?」
「あぁ、もちろん。結果的に奏が約束を忘れずにいてくれるなら」
……この人をこうまで突き動かすその約束。
この人と奏様が顔を合わせた時の奏様の様子を見る限り、良いものではないことぐらい分かる。
けど、一度、ちゃんと聞いてみないといけないかもしれない。
この人が、その約束とやらを周りの人を巻き込んでまで果たすつもりなら。
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