起こしてはならぬモノ

1


□ □ □ □



 病院の事件から一週間が過ぎた。


 今日もまた、朝起きていつものラジオ体操にスローガン発声。


 それから……



「遅い」



 スプーンを口にくわえた千早様が広間で私を待っていた。手にはプリンのカップを持っている。



「おはよーございますっ!」

「うむ。おはよう」



 帝様がほんわかした笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。


 広間には他に誰もいない。


 ……この二人がどんな会話をしていたのか、ちょっと気になったりならなかったりなったりしちゃうね。



「たちばなさんはー?」

「私ならここです」



 反対側の廊下ろうかから橘さんが朝食のぜんを持ってやってきた。その後ろには鳳さんの姿もある。


 あの日から三日と経たずに鳳さんは屋敷での療養をお医者さんに訴え、それが許可されたらしい。

 で、何故南のお屋敷にいるかというと、これには大人の思惑おもわくが多分にからんでいるみたいで教えてくれなかった。


 でもいいんだ。桐生さんがとっても嬉しそうだから。


 その他の料理人さんや裏方さんは仕事をここでも続けるという鳳さんにちょっと微妙な顔だったけど、それでもやっぱり嬉しそうだった。



「んふふ」

「どうした?」

「んーん」



 嬉しくって身体を左右にユラユラとらしていたら、帝様にトンッと指で止められた。


 ……早くこんな日常が戻ってくればいいなぁ。

 せめて皆が早く帰ってきてくれれば。凛さんや蒼さんや茜さんも喜ぶだろうし。


 そして、是非とも東に一緒に行っていただいて、ホラー鑑賞会を止めるか道づ……ゴホン。一緒に観客になっていただきたい。





 朝ご飯を食べ終わって、少し大人のお話があるからとお部屋を出ているように言われた。千早様もみんなと一緒だ。


 仕方ないから縁側に腰かけ、紙風船をポンポンさせながら待つことにした。ただ上にポンポンさせるだけじゃつまらないから、お手玉みたいに片手交互にポンポンさせていく。


 ポンポンポンポンポ


 ……あ。


 上にあげた紙風船が風に吹かれ、門の方まで飛んで行ってしまった。



「まってー」



 丁度下駄をそこに置いていたから、急いでいて追いかける。運よく道路に出る前に捕まえられた。


 紙風船を拾って身体を起こしたら、目の前に足。


 ……なんだかこんな展開、前にもあった。


 スルスルとさらに上を向くと、明らかに伊達メガネに違いないものをつけた人と目が合った。だって、前に会った時はメガネなんてつけてなかったもの。



「やぁ、一週間ぶりだね」

「……スゥ。ちは……むがっ」

「おっと。今日は是非ぜひとも君を招待しなきゃと思って来たんだから、君が大人しくついて来てくれないと無駄足になるんだよ」



 はーなーせー!


 大きく息を吸ってそれから千早様の名をさけぼうとしたら、例のお兄さんに口元をふさがれた。同時に、ひたいをツンと押された。

 なんだか変な感じがする。身体の周りに見えない膜ができたような。これは……そう、普通の人に姿を見えないようにしてる時とおんなじ。


 ……ってことは!



「賢い子は嫌いじゃないよ?」



 私はお兄さんが嫌いですぅー!


 しかも、どこからどう情報を仕入れたのか、お兄さんの背後からヤツが出てきた。ニュルッとして、長くて、シャーシャー言ってる……とても大きなへび


 やっぱり撤回てっかい

 お兄さんなんか大っ嫌いだぁ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る