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「じゃあ、私、あの人間についておくわね。せっかくこの子が頑張ったのに、またねらわれちゃたまったもんじゃないもの」

「あ、わたしも」

「貴女は大人しくおにぎり食べてなさい。……かっわいいわねー」



 ちょ、待って待って!

 おにぎりが、おにぎりがつぶれるっ!


 オネェさんにいきなり持っているおにぎりごと抱き込まれた。



「ぐ、ぐるじぃ」

「あらやだ。ごめんなさい」



 オネェさんの容姿についてはもう慣れっこだし、正直似合ってるから何も言わないけど、せめて力加減は覚えてくれないと困るよ!


 分かる? 私、今、おこだよ、おこ。



「やぁだ。雅ちゃんは純粋培養なだけで、おバカな子ではないわよ?」

「ん?」

「え?」



 会話ってキャッチボールじゃなくて、バッティングだったっけ? 全く意味が分からない返事が返ってきたんですが。


 ……しかも、さらっと心の声に返事されてるし。



「今、君が思った“おこ”っていうのは古語で、ようするにバカ、たわけって意味だよ」

「なんですと」



 に、日本語むずかしー。

 昔と今じゃ同じ言葉でも違うんだもんね。



「まぁ、僕からしてみれば、あながち間違いじゃないと思うけど」

「えーっ」



 馬鹿なことはしていない……と、信じてる。


 信じる者は救われるってよく言うしね!


 ……あ、でもそれ、外国の神様のだったわ。異国の神様見習いでも許容範囲に入れてくれると嬉しいなぁ。



「じゃあ、何かあったらまた連絡するわ」

「うむ」



 オネェさんがアノ人の肩をポンっと叩いて姿を消した。



「つづきさん、おそいね」

「どこまで追いかけてるんだか」



 あの時、部屋の窓の外にいたのって誰だったんだろう?


 ……そうだ。窓の外で思い出した。


 鳳さんがスペースをあけてくれたベッドのはしに並んで座る隣の千早様の方を見た。



「ねぇねぇ。さいしょ、このへやにきたとき、まどのそとにいたのってなんだったんですか?」

「……知りたい?」

「う、うん」



 今日ので結構耐性がついたような気がする。一歩大人に近づいた的な。



「赤黒い皮膚つきの片目だよ。窓いっぱいに広がる」

「……なんの?」



 千早様はニヤッと笑うと、そのまま口をつぐんでしまった。


 世の中には知らない方がいいこともあるってことですか。そうですか。


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