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◇◆◇◆



「ほぉーん。お前さんがちびっこのお師匠さんか」

「あい。ちはやさまです」



 厨房に行くと、桐生さんが豆のさや取りをしていた。


 それのお手伝いをする代わりに、その豆を使った豆ごはんでおにぎりを作ってもらっている。



「良かったな、ちびっこ。何かを学ぶにはその道のプロにつくのが一番だ。我流でも悪かぁねぇが、師弟関係ってのはお互いが成長できるし、困った時にも相談しやすい。まぁ、仲良くやんな」

「あい」

「……どうした?」



 さっきのことがやっぱりどこか気になってしまって上の空になりがちな私に桐生さんが気付いた。


 出来上がったおにぎりを乗せたお皿を持って、私達が座るテーブルまでやって来た。



「あのねぇ、わたしのちから、つかっちゃうとおなかがへっちゃうの」

「あぁ、綾芽がなんか言ってたな。それがどうした?」

「それいがいにもなにかあるみたい。さっき、かなでさまがみんなにおはなしがあるってどこかにいっちゃった」

「ほぉー」



 桐生さんはここで会った人達の中では年嵩の方だ。


 自然と不安が口から出ていた。



「わたしにできることはすくないのに、これもダメっていわれるのかなぁ」

「……お前は誰かに自分が決めたことをダメだと言われたら諦めるのか?」

「え?」

「自分がこう進みたいと自分で決めた道を、周りに反対されるからと諦めてしまうのか?」

「……」



 こっちの世界に来たばかりの時に、自分の中で決心した。


 みんなを守る。みんなの傍にいる。


 その二つの事を叶えるために進む道はもう定まっている。



「……あきらめないよっ!! きりゅーさん、わたし、あきらめないから!!」

「分かった分かった。ほれ、これでも食って落ち着け」



 そう言って桐生さんは私の口におにぎりを突っ込んだ。


 隣に座っている千早様は黙ってこちらを見ていた豆を食べている。



 ……美味し。



「いいか? ちびっこ。よーく聞け」

「あい」

「自分で決めた道を行くも退くも自分次第だ。ただな、退くのと諦めるのは行動としては同じに見えるかもしれねぇが、芯は全く違う。お前はお前が決めた道を絶対に諦めず振り返らずに進め。途中で迷ってもいい。幸いお前には親父代わりがたくさんいるからな。お前が迷った時は傍にいてやるくらいするさ。もちろん、俺もだ」

「……おとーさん」

「やめてくれ。残念ながら俺はまだ独り身だ」



 本当に桐生さんがお父さんだったら良かったのに。


 絶対尊敬できるお父さんになってたと思う。



「まぁ、確かにアノ人よりかは父親っぽいよね」

「うん。……って、こころのこえよんだ!?」

「読んでないよ。君、言われない? 心の声、駄々洩れだって」

「い、いわれ……ます」



 よーく言われます。


 綾芽とか、海斗さんとか、薫くんとか。



 そして、読んでないってことは読めはするってことなんですね、千早様。


 これからはちゃんと気をつけよっと。



「しっかし、こーして話してるとこ聞くと薫にそっくりだな」

「やっぱり!? わたしもそーおもった!!」

「生意気そーなとことかまんまじゃねーか。ん? 年齢的に薫がお前さんにそっくりなのか」

「失礼な人間だよね、あんた」

「これは失礼しました」



 千早様はムスッとしながらも本当に怒ってはないみたい。


 さすがそっくりな薫くんを見てきたからか、それは桐生さんにもちゃんと分かっているらしく、謝罪もごくごく軽いものだった。



「美味いか?」

「ん。おいしー」

「料理人の俺にとってはその言葉と笑顔が何よりの褒美だ。お前も自分にとって褒美となるようなもんを得られるような行動をすればいいさ」

「……はい!」



 年の功とはよく言ったもの。


 桐生さんの言葉のおかげで、私の中にあったモヤモヤがすうっと晴れて行った。




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