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□ □ □ □



 いやっほぅ!  フィーバー!

 ……フィーバーってどういう意味だっけ? まぁ、いいや。そんな感じに近い。



「そぉら、お待ちどおさん」

「いえー!」


「「いえー!」」



 南の人達はお祭り大好きな人が多くて、すぐ乗ってくれるから……好き。



「私達の分までありがとう」

「いやいや。二人分追加するくらい構わんですよ」



 奏様と千早様も朝ご飯はまだだったみたいだから、私がお誘いした。桐生さんも快くオッケーしてくれたから、私の気分は最高潮だ。



「いっただっきまーす!」

「「あーっす!」」



 今日の献立は三種類。その中で私のチョイスは麻婆丼。桐生さんにはちょっぴり辛めのオーダーで頼みました。

 奏様は肉豆腐定食、千早様は茄子と牛肉の甘辛炒め定食を頼んでいた。



「あら、雅ちゃん。口元についてるわよ?」

「へ?」

「あぁ、待って。動かないで。……ほら、取れたわ」

「ありがとー」



 おっと。……豆腐がプルプルして掴みにくい。そーっとそーっと……やったどー!


 ……あ。



「すみません。スプーンかレンゲを貸してもらえるかしら」

「あぁ、はいよ」



 お箸、もっと上手く使え るようになりたい。とほり。


 桐生さんからレンゲを借りて、えっちらおっちら豆腐と一緒にご飯を口に運んでいると、ヌッと真横に影ができた。



菊市きくいち?」



 立っている男の人からジッと見下ろされる中、私も上目遣いで大きく口を開けた状態でしばしフリーズ。


 あのね、菊市さんとやら。お話あるなら後ではダメですか?



「……チビちゃん、ちょっとそこを退いてくれるかな?」

「な、なっ!」



 なんですとっ!?

 私から朝ご飯を盗ろうっていうの!? 許さん。許さんぞ!


 お盆を抱えてシャーッと威嚇いかくすると、全く気にせず器を向かい側まで動かされ、今度は私も千早様の横に脇を担がれて下ろされた。そして、自分はちゃっかり奏様の隣に腰を下ろしている。



「美しい」



 菊市さんとやらは奏様の隣に来たからといってご飯を食べるでもなく、ただただ奏様を見てポウッとなっている。



「あー、また始まったか。菊市の悪いクセ」

「美しいとか綺麗とかそういうもんに目がねぇっていうか……まぁ、こいつの場合は」

「こいつのばあいは?」



 すぐ後ろの席で話していたおじさ、んんっ、お兄さん達の会話に混じってみた。


 千早様は我関せずで食事を続けているし、奏様は……。


 ね、ねぇ、千早様。なんだかピリピリするの。空気がじゃなくて、物理的に肌が。もしかしてもしかしなくても、奏様がお怒り、ですか?



「あぁ、本当に美しい。でも、美しい者を美しいと言える僕の心も美しくないかい?」



 ……うわぁ。もしかして、この人。



「……いっそ清々しいまでのナルシスト野郎なんだよ」



 奏様の手元にあるお箸が、普通に持っていれば鳴るはずのない音を立てる。

 千早様はチラリとそれを見て、黙ってお盆を持って席を移動してしまった。


 ちょ、ちょっとちょっと、千早様。こんな状態の奏様を放っておいていいの!?



「……」

「え?」



 俯いた奏様が何かボソボソと言っている。

 聞こえなかったらしい菊市さんが聞き返した。



「だーかーら」



 奏様がキッと顔を上げた。



「……っ!」



 あ、あれ? 奏様が何か叫んでるみたいだけど、何言ってるか聞こえない。それに、何か耳を両側から押さえられてるような感触が。


 ……はっ! もしや!



「このてをはなしてくだしゃい」

「教育的措置だ」



 やっぱり! 貴方だったんか!



「み、雅ちゃん。その人、まさか」

「うむ。これのパ」

「あかのたにんいじょー、しりあいみまんってやつです」



 言わせないよ?


 ……なんでみんなおまた押さえてるの?



「食事中に騒々しい」

「……失礼」



 奏様はニコリと笑って何事もなかったようにお箸の替えを要求している。



「こ、このっ、この僕にっ」



 菊市さんはさっきまでの溌剌はつらつとした表情ではなく、まるで亡霊のようにごっそりと生気を抜かれてしまったような青い顔でどこかへフラフラと歩いて行ってしまった。


 ……ちょっとなんて言われたのか気になるかも。



「かなでさま」

「なぁに?」

「きくいちさんになんていったの?」

「……女の子が知る必要ないわ。ほら、せっかく温かいのだから、冷めてしまう前に食べてしまいなさい」

「はぁい」



 奏様に上手くはぐらかされちゃった。


 でも、奏様の前を通ってお盆を片付けに行くおじさん達はなんだか若干へっぴり腰になっている。



「おじ……おにいさんたち、どこかけがしたの?」

「あ、いや」

「大丈夫よー。怪我してないから。身体的には。……まだ」



 ニッコリ笑う奏様はそれ以上の会話を許しちゃくれなかった。



「……はぁ。まったく。人間嫌いにも程がある」



 黙々と食べ続けていた千早様がお箸を置き、呆れたようにジト目で奏様を見た。

 奏様はそれを否定せず、きょとんとしている。



「えっ!? にんげん、きらいなの?」

「あら、雅ちゃんは人間じゃあないじゃない」

「え、あ、うん。そう、なんだけど。……あやめたちもきらい?」

「……雅ちゃんが好きなら、好きになる努力をするわ」

「はぁ。……相変わらず女子供にはゲロ甘だね」

「当然じゃない。まぁ、甘くしたくない子もいないわけじゃないけど、基本的には優しくしてあげるべきでしょう? 可愛いは正義だもの」

「そう! かわいいはせいぎ!」



 やっぱり奏様は同志だった!

 甘い物といい、それといい、私達、そっくりだね!


 ……うまうまー。



「……はっ! でじゃびゅー」



 しれっと私の口元にレンゲを運んでいたあの人。


 ……ドウモアリガトウゴザイマシター。 

 おかげで口を開けて待っとくだけでご飯にありつけてるよ。



「さ、雅ちゃん。ご飯を食べたら早速あなたの今の実力とかを計るからね?」

「あい!」



 ピシッと敬礼。


 あー、ちょっと実力って言われたらなんかテストするみたいでドキドキしてきた。この感じ、とっても久々だ。


 上手くできますよーに!



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