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□ □ □ □



 るーんたったるんたった。


 例の件は解決までもうちょっとかかるらしい。


 それでも私は今日もご機嫌です。なぜかって? うふふん。


 今日は薫くんと買い物当番の池上さんと神坂さんとお買い物ー。晩御飯の買い出しなのです。


 帝様が皆と同じものを食べたいとご所望になってから、薫くんを除いた料理人さんの頭を悩ませていた食費問題は消えた。

 まぁ、その代わり毎回毎回緊張して料理に挑まなきゃいけないってプレッシャーはあるみたいだけどね。


 私? 私はもちろん美味しいご飯いっぱいなので満足以外の言葉はありませぬ。クフフ。



「チビ。何してるの? 行くよ」

「あーい」



 てててっと走って行って、池上さんと神坂さんの真ん中に陣取った。二人の服のすそをチョンとつまむ。

 すると、上からンンッという何か詰まらせたような咳払いが聞こえてきた。



「どーかしましたかー?」

「歩き疲れたのかい?」

「んーん」

「抱っこかおんぶかしようか?」

「だいじょーぶ!」



 ニカッと笑うと、二人もニヘラッと笑い返してくれた。


 お散歩も兼ねてるとはいえ、二人は買い出しっていうお仕事中だからね。余計な力は使わせません。

 それでもどーしてもこれ以上ムリって時は……お願いしよっかな!


 いつもの業務用スーパーに着いて、神坂さんがカートにカゴを乗せた。

 一瞬、小さい子供を乗せられるカートを見てこちらを見てくるものだから、首を横にフリフリ。もちろん、ノーセンキューですってば。


 さてさて、今日のご飯はなーにかなー?



「んー。おにくたべたいなぁー」

「そう。良かったね。今日は陛下のご所望で、すき焼きだよ」

「ほんと!? ねぇ、ほんと!?」

「本当だからはしゃがない。おやつ抜きにするよ?」

「はしゃぎません。わたし、おりこうだから!」

「よし」



 ピシッと右手は耳横、顔はドヤ顔。それを薫くんに確固たる意思表示として見せる。


 東の序列において、今の私の中では綾芽や海斗さんよりも薫くんの方が上位にいることは間違いない。



「あ、ちなみにチビは陛下と同じ鍋だからね?」

「えー? いいのー?」

「何言ってるのさ。チビだからいいんだよ」

「と、いうことは?」



 ニヤァーと自然と口元がほころんでいく。



「一番美味い肉いーっぱいだ」

「ひゃっほぅ! ……はしゃがない。はしゃいでない」



 池上さんが親指を立てて教えてくれた嬉しいお知らせを聞いて万歳する私。それを薫くんがジトッとした目で見てくる。これはセーフだよねとキリッとした顔をしつつ、そろそろと両手を下げた。池上さんと神坂さんはそれを見てプッと笑っていた。


 それから野菜コーナーで薫くん達が野菜選びに入ると、途端に手持無沙汰になった。


 基本的に何でも食べられちゃう私に好き嫌いを聞く必要もないから、どんどん自分達の目利きだけでカゴに野菜を放り込んでいく。


 ここでちょっとは子供らしく、人参はいやーとか言ってみたほうがいいんだろうか。


 ……いや、駄目だな。


 日頃の行いからして、私の好き嫌いのなさは薫くん達には知れ渡っている。

 それなのにそんなワガママを言ってみた日には、変な病気になったからとおかゆのみにされるだろう。もちろん、巳鶴さんの特製お薬付き。


 そんな夕食、嫌すぎる。


 だから私は黙ってカゴと薫くん達の手を目で追うだけ。正直、あんまりというか全然楽しくない。



「はい。かおるりょうりちょー」

「なんでしょうか。おチビさん」

「わたしはおかしをしょもうします。なので、おかしうりばにいってまいります」

「ダメです。迷子になると面倒です」

「だいじょうぶです。まかせてください」

「任せたくないので却下です」

「ぐぬぬっ。……ひとりでおつかいもいったのに、げせぬ」



 薫くんは野菜に目をやったまま、こちらをチラとも見ずにおねだりを無きものにしてくれた。


 いくら広い業務用スーパーとはいえ、たった四つ向こうの棚に行くだけだというに。


 薫くん達の視線がこちらにないことを確認しつつ、そろりそろりと離れていく。


 なぁに、さっと行ってぱっと帰ってくる。何も問題はない。気付けばいつの間にかカゴにお菓子が入っていたっていう手品があるだけだもの。問題ないなーい。


 というわけで……急ご。



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