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 お風呂から上がり、歯磨きも済ませた。


 後は布団に入って寝るだけ。



 オネエさんは一旦帰ると言って消えてしまった。



「雅はここね」

「えー。まんなかー?」

「小さい子供は寝る時真ん中って決まってるの」

「えー」



 聞いたことないけどなぁ。


 まぁ、決まってるんじゃしょうがない。


 でもまだ眠くない。



 とりあえずは横になるけど、目はバッチリ醒めている。



「ねーねー。なんかおもしろいおはなしして」

「面白い話? そうねぇ……私が話すよりも、雅の話を聞きたいわ」

「わたしー?」



 何か面白い話あったかなぁ?



「面白い話じゃなくても、あなたが普段どういう風に過ごしてるとかでもいいのよ」

「ふだんー? まずあさおきて、あやめおこしてー」

「あやめ?」

「わたしのこと、ひろってくれて、おせわしてくれてるひとー」

「そう。優しい人?」

「うん! ちょっとなまけぐせがあるけど、やさしいよ!」

「そっか。それから?」

「ラジオたいそうして、かおるくんのつくったごはんたべて……すっごいおいしいんだよ!?」

「食い意地はってないでしょーね」

「は、ハッテナイヨ?」

「……怪しすぎよ」

「そ、それから、りゅーさんとしえーさんとにほんごのおべんきょーするの。それからちょっとあそんで、おひるごはんたべて、おひるねかおさんぽするよ!」



 危ない危ない。


 だってみんながこれも食えあれも食えってくれるんだもの。


 だから食い意地がはってるわけではないと主張します!



「それがおわったらにっきかいて、おやつ! それからとうばんのおてつだいして、よるごはんたべるの。それからおふろはいって、みんなにおやすみなさいしてねる!」

「ちゃんとお手伝いしてるのね。逆に邪魔してない?」

「し、て、ない……と、思う」



 みんな私ができる仕事を選んで当番につけてくれてるし。


 たまに仕事をサボらないよう見張る係なんてのも割り当てられるくらいだから。



「ねぇ、雅。……神様修行、頑張りなさい」

「うん」



 お母さんがぎゅっと私のことを抱き寄せる。


 これが最後ってわけでもないんだから、大げさだなぁ。



「もうよいぞ?」

「あら、やっぱりバレてましたか」



 襖の向こうから聞き覚えのある声がして、すーっと襖が開かれた。


 廊下に膝をついていたのは奏さまだった。


 明日また来るって言ってたのに、どうしたんだろう?



「明日、それなりに大きな捕り物が入ってしまって。ちょっと忙しくなりそうなんです。起きているようなら、今からでも構いませんか?」

「我は構わぬ。そなたらはどうだ?」

「だいじょーぶです!」

「……支度を、しますね」



 お母さんは起き上がり、枕元に置いていた羽織を羽織ると部屋を出て行った。


 奏さまがその後ろ姿を見届け、部屋の中に入ってくる。



「親子水入らずの時間を邪魔してしまってごめんなさいね。どうしても貴女に教えておかなくちゃいけないことがあって」

「なんですか?」

「私達元老院は人と人外の調停機関。もし、貴女が自分が持つ力を使って人に障りをもたらすようなら、私達は貴女を捕らえなければならない」

「えっ?」



 だ、大丈夫かなぁー? もう結構やらかしちゃってるよ!? 



「まだ大丈夫よ。院則にも色々抜け道があるの。それは追々教えてあげるわ。でも、これだけは忘れないで。貴女が望もうと望むまいと、貴女は神の子。生まれてたかだか十何年とはいえ神は神。神が持つ力を欲して寄ってくる有象無象の輩に取り込まれないように。私達人外が持つ力は、誰にとっても決していい面だけではないんだから」

「……はい」



 後ろからすっと脇に手を差し込まれたかと思えば、ズルズルと布団の上をお尻が滑っていく。


 辿り着いたのはいつの間にか起き上がって足を組んで座っていたアノ人の膝の上だった。


 頭を上げると、アノ人もジッと私のことを見下ろしている。



「……なぁに?」

「優姫を悲しませることだけはするな」

「わかってるよ。あなたもね」



 全く似ていない私とアノ人。


 でも、たった一つだけ共通点があった。


 それは、どっちもお母さんが大好きだってことだ。



 ふと奏さまの方を見ると、寂しそうなお顔をしている。


 気になるけど、私なんかが触れていいのか分からない。


 そっと視線をそらして見なかったことにした。







 月が天高く昇っている。


 これで満月なら狼男の真似ができるけど、残念ながら今日のハロウィンでの満月はお預けだ。


 本来ならば誰も見る者がいない刻限に、月明りが紅葉の葉にさらなる彩を添えている。



 神楽殿のきざはしを上った舞台に、奏さまが呼び出した例の門が天井すれすれの位置に収まっていた。


 その門の両脇にはアノ人と奏さまが立って私を待ってくれている。



「デジカメは持ったか?」

「もってる!」

「よし」



 透おじちゃんの持ち物チェックも終わり、アノ人と奏さまが立っている方へタタタッと駆けた。


 奏さまはお仕事があるのだから、お待たせするのはいけない。



 私の言動に目を光らせてるひいおばあちゃんも起きて見送りに来てるしね!



 その門の前に着くと、改めてお母さん達がいる方を振り向いた。



「おかあさん、いってくるね!」

「……えぇ。行ってらっしゃい」



 次帰ってくる時は、綾芽達の写真いっぱい取ってくるからね。


 あ、あと、薫くんにお菓子をつくってもらおう。


 お母さんにもあのお菓子の美味しさを味わってもらわなきゃ。



「それじゃあ、行きましょうか」

「あい」



 綾芽~! みんな~! 今から帰るからね~!!



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