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□ □ □ □
おっと、どうしてこうなった?
……アノ人と私のワガママのせいです、はい。
「さすがに三人はきついわ」
「ねー」
おばあちゃんとオネエさんがアルバムを見ようと盛り上がり始めたのを見て、お母さんが私をお風呂に入れると言いだした。
それ自体は別に問題じゃない。この姿になったら一人でお風呂は危険だ。
問題はその後だった。
「我も共に湯に入る」
アノ人が起きたまま寝言を言いだしたのだから困ったものだ。
「いや、三人はさすがに無理よ」
「そんなことないわよー? うちのお風呂はそれなりに広いから大丈夫!」
「お母さんは黙ってて」
そうそう! おばあちゃん、アノ人を援護するようなこと言わないで!
形勢不利を悟ってか、アノ人が手元の袖をゴソゴソとしだした。
そして、取り出したのは例の冊子。そこには“お風呂に一緒に入って体の流し合いをする”と書かれていた。
それをドヤ顔で指差してくるアノ人。
「……仕方ないわね。じゃあ雅、お風呂は」
「ぜったいにイヤ! おかあさんとはいる!」
「……そうだから、あなたは諦めて」
「ならば、そなたも共に入れば良かろう?」
「え゛っ?」
思わぬ流れ弾に、お母さんの口元がヒクッと引きつった。
それからあーだこーだと私とお母さんが断固反対姿勢を見せ、諦めさせようとしている時に横から鶴の一声が飛んだ。
「三人で湯に入る事をご所望なのですよ。早く支度をして入ってきなさい」
「「はい」」
我が柳家でひいおばあちゃんの発言は絶対。そして、そのひいおばあちゃんの中で、神様の言葉は絶対。つまり、この場ではアノ人の言ったもん勝ち。
足取り重く、私とお母さんはお風呂場へと向かった。
……むぅ。
綾芽達ほどじゃないけど、まぁまぁイイ身体してますね。
……じゃなくて。
お母さんはお風呂場に直行するやいなや、脱衣所の棚から入浴剤を取り出してきて、ありったけお風呂にぶち込んだ。
私とお母さんがピトッと身体を寄せ合っていると、自分もと寄ってくるアノ人。それに対してのお母さんの焦りっぷりがヤバい。
「ちょっ、あんまり寄らないで!」
「せーまーいー」
「我が嫁と娘が我に冷たい」
お母さんはただただ照れているだけのような気もするけど、それをわざわざ教えてやる義理はないよね! 私は正真正銘イヤなだけ。
「ねぇー、からだとかあらうー」
「え? あ、そうね」
お風呂からあげてもらって、流し場の椅子に座る。
両手で目を覆って、準備オッケーです。
「いいよー」
こうやってお母さんに洗ってもらうのも久しぶりだなぁ。一番最後は小学校六年生の時、階段から落っこちて骨折した時だっけ。
「かゆいところはない?」
「ないでーす」
毎日しっかり綾芽に洗ってもらってるからね。
「あ、ちょっと」
え? なに? どうしたの?
気になるけど、今手を外したら確実に目に入ってくるパターン。すっごく気になるけど、我慢しなくっちゃ。痛いのはイヤ。
「あんまり強くしたらダメよ? 髪が抜けちゃうから」
「うむ」
……え?
手で目を押さえたまま後ろを振り向いた。
「おかーさん、いま、これ、おかーさん?」
「違うわ。おとーさん」
「いや、パパさんだ」
……いやだけど、ものすっごくいやだけど!
気持ちいい! 悔しい!
「もう良いか?」
「そうね。雅、お湯流すわよ?」
「あい」
シャワーの蛇口を開ける音と、ザーザーとお湯が出てくる音がする。頭からまるっとお湯をかけられ、シャンプーの泡が落ちていく。
「あぁ、ほら。流してる間にも泡が残らないように落とさなきゃ」
「ふむ。……こうか?」
「そうそう。……やけに手慣れてるわね」
「うむ。見ていたからな」
「……え? いつ?」
「そなたにここを追い出されてから迎えに行くまでの間と、たまに気が向いた時だな」
「ちょっ、え!? もっと早く言ってよ!」
「聞かなかったではないか」
おっと。お湯と手がどこかへ行った。
その代わり、お母さんがアノ人に猛抗議している声がする。
おーい。忘れないでー!
まだ泡残ってるよー。まだアワアワしているんだよー?
「優姫! お風呂に入りなさいとは言いましたが、お風呂で騒ぎなさいとは言っていませんよ!」
「……はーい。ごめんなさい」
なかなかの声量だったもんだから、ひいおばあちゃんがやって来たようだ。
アノ人もいるから中までは入ってこないけど、それでも脱衣所のドアの向こうからお
「……後でゆっくりお話し、しましょうね?」
「あいわかった」
話すってことは分かってても、お母さんが怒ってるってことは分かっていないに一票。
さてさて、それよりもなによりも。
……早く流して、お願い。
手が疲れてきたよ。いや、今本当にわりとピンチです。
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