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「……月見?」

「あい」



 買い出しに行っていた薫くんの帰宅を待って、綾芽と海斗さんと一緒にご報告。

 買ってきた材料を大きな業務用冷蔵庫の中に入れつつ、話を聞いてくれている。


 やっぱり、うちの料理長だからね。

 お団子を作ったり、里芋とかを準備しなきゃいけない以上、是が非とも協力してもらわねば。



「月見、ねぇ」



 あんまり気乗りしなさそうに見えて、さりげなく調理台の下の小麦粉の量をチェックしてくれている。

 さすがデキるおにいちゃま。妹分の突然のおねだりにもさほど動じない。



「作るにしても、どこの地域のを?」

「えっ、と?」



 そんなに種類があるの? でもさでもさ、絵とかではみんな白くてまん丸よね?



「色んな種類があった方がおもろいし、色んな味が楽しめるんやないの?」

「ぜんぶで!」



 クフフ。今からよだれがジュルッと出そう。

 あわよくば、試食段階でつまみ食いなんかできちゃったりして!


 上から複数の生温かい視線を感じるけど、気にしない気にしない。



「団子だけってわけにもいかないから別のも作るけど、酒は大量にいりそうだね」

「おぅ! 美味いので頼むぜ!」

「海斗。僕が皆に出してるもので、美味くないやつなんかあるわけないでしょ」

りすぐりのってことだよ」

「はいはい。でも、あんた達の酒を買うにも経費ってものがあるんだからね? 上等な酒で美味いものが飲みたいなら、もっと働いて、上に必要経費をたんまり出させるようにして」

「わ、分かってらぁ」



 おっと。海斗さんに結構な角度で切り込みが入りましたね。反論にもいつもの威勢の良さが欠けている。


 ……おっと? 若干涙が……汗ですか?



「小麦粉を使うには圧倒的に量が足りないから、どうせなら新しく白玉粉を買って、そっちで作るよ。……もう一回買い出し行かなきゃ」



 買い出し、とな?



「わたし、おつかい、いく」

「は?」



 いや、は?じゃなくって。

 おつかい、私が行くよ。言い出しっぺだしね。



「無理でしょ。迷子になるのが目に見えてる」

「そんなことないよー? ちゃんとできる」

「その根拠のない自信は一体どこから……なに?」



 ひじで合図を送り合った綾芽と海斗さん、それからそれに巻き込まれた薫くん。

 離れたところで三人、顔を寄せ合って密談をし始めた。



「初めてのおつかいっちゅうヤツやろ。えぇやん、させたっても」

「なに言ってんのさ。必要量の白玉粉や諸々をチビ一人でなんて絶対無理」

「配達にしてもらえばいいんじゃね?」

「迷子になったりしたらどうするのさ」

「そこはほら……な?」

「それでえぇやろ?」

「……はぁ。まったく」



 密談と言っても名ばかりで、大半が聞こえていたけれど、肝心な部分は聞き取れなかった。


 深い溜息をついた薫くんがポケットからメモ紙とペンを取り出し、サラサラとペン先を走らせる。



「はい。これが買い出しのメモね」

「ありがとーごじゃいましゅ」



 良かった。

 薫くん、絵はいわゆる画伯だけど、字はそれなりに上手い。しかも、全部平仮名で書いてくれるっていう優しさっぷり。


 ……ありがたい、のかなー? なんだかなぁー。微妙な気分。


 まぁ、気を取り直してメモを見ると、定番の白玉粉、里芋、あんことある。それと……絹豆腐?



「かおるおにーちゃま、おとうふも?」

「そう。豆腐を一緒に入れて混ぜると冷めても硬くならないんだよ」

「へぇー」



 さすがプロの料理人! 豆知識が豊富ですね。



「それから、これが地図ね」

「……あ」



 でた! 画伯!

 下手に建物を絵で書こうとするから余計分かんない地図になってる……。



「あ、ありがとー」

「貸してみ」



 ほおがピクピクしてたのに気付いたのか、綾芽が横から地図をかっさらって行った。



「……これがいつも行っとるコンビニで、ここがよく遊んどる公園。この通りをまっすぐ行けば業務用スーパーがある。里芋と絹豆腐はここで買うんよ。それから、白玉粉とあんこは瑠衣さんとこや。この前行ったお店に行けばえぇんやけど、覚えとる?」

「おぼえてるー! パフェがとーってもおいしかったとこー! たしかね、ここ、かな?」

「そや。よぉ覚えてはるな」

「んふふー」



 められちったぁ。頭、でてもいいのよ?


 買ってもらったウサちゃんリュックに、メモとお金が入ったカエルのがま口財布を入れて。地図は一応手に持っていくことにして。



「一緒にオヤツとジュースも入れとくから、お腹が空いたら必ずお店の外で食べたり飲むんだよ?」

「あい!」



 ……オヤツは何かなぁーっと。

 ふむ。たまごボーロですか。ありがとうございます。いただきます。



「迷子になったら?」

「ちかくのひとにスーパーどこですかってきく!」

「瑠衣さんのお店の名前は?」

「んっとね、かんみどころ、すいー」

「変なヤツに会ったらどうすんだ?」

「やってよし……じゃなくて、おおごえあげる!」



 ふざけただけよ? 薫くん。そんな怖い目で見ないでよ。

 ほーら、準備も覚えておくこともバッチリ。自分、これでも出来る子ですもん。


 ……まぁ、実際は私が女子高生だからってだけですけどね。



「じゃあ、健闘を祈るぜ」

「あい! いってきましゅ!」



 玄関前で綾芽達に向かってピシッと敬礼。海斗さんだけが返してくれた。


 海斗さん、好きよ? そのノリの良さ。

 

 では、いざ、行ってまいります!

 まずは業務用スーパーへ、レッツゴー!



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