仇花に想いを寄せて
綾織 茅
暗闇からの使者
1
時は移ろい、平成の世の京都は昔と違って明るい。
……いや、日本自体が変わってしまったというべきか。
その街中の路地を、一人の少年、いや少女が人目を
切り揃えられた
どこかの旧家の家柄なのか、男物の羽織袴姿は周りほぼ全てが洋服姿となった現代では異彩を放っていた。
「…………」
少女は黙々と足を進め、一つの門の前で足を止めた。
「…………」
閉ざされた門をギイッと開き、少女は中に入っていく。
そしてある墓石の前に立つと、おもむろに手に下げていた
「美味いか? 美味いだろうな。まぁ、これにかけた所でお前達はもはや飲めはしないがな」
そう独り言をこぼすと、自嘲気味に笑みを浮かべる。
「神などこの世にいない。この世に信じるべき絶対のものなど、ありはしない」
風がサアッと吹き、結った少女の黒髪を揺らした。
「……他人など、信じるべきではないということだ」
もう一度墓石を眺め、徳利を持って立ち去ろうとした時だった。
『復讐したいか?』
どこからか低いしわがれた声が風にのって耳に届いた。
「何者だ。姿を現せ」
『お前の心は強い憎しみ恨み、そして悲しみが漂っている。その憎しみ、恨み、晴らしたくはないか?』
「晴らせるものなら晴らしている。……まぁ、会えるはずもないけど?」
何せあれから時が立ち過ぎている。
そんな非現実的なことを考えられる少女ではなかった。
そのまま踵を返して去ろうとした次の瞬間。
『そうは行かぬ。あいつらを知っていて、なおかつ記憶を持っているがために期待を裏切らない奴』
「…………」
『そう。お前だ。
少女……蛍の中の何かが、プツンと音を立てて切れた。
全身から殺気を漲らせ、冷たい凍えた瞳を周囲に張り巡らせた。
「お前に、私の何が? 今、この手に
銃刀法にひっかかる現代では、帯刀は無理だ。
なので、視線で威嚇するしかなかない状況に
再び歩きだすと、ムワリとした生暖かい空気が蛍の周りを包み込んでいく。
「……何のつもりだ」
『お前には過去へ行ってもらう。せいぜい恨みを晴らすか苦しむかするがいい』
「何、だ……と……」
蛍はフッと意識を失い、地面に倒れこんだ。
そして、黒い煙が蛍を包んだかと思うと、その煙が晴れた時、蛍の姿はその場から忽然と消えていた。
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